前・後の混同とは? わかりやすく解説

前・後の混同(ウィルバーⅡ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/21 21:01 UTC 版)

ケン・ウィルバー」の記事における「前・後の混同(ウィルバー)」の解説

「前・後の混同」(“Pre/Post Fallacy”)とは、実際には非常に異な2つ成長段階をある共通項存在理由短絡的に混同することを意味する。 『アートマン・プロジェクト』(The Atman Project)と『エデンより』(Up from Eden)(これらは、ひとつの作品として構想された)の執筆中、ウィルバーは、深刻な思想的危機経験する。これは、『意識スペクトル』(The Spectrum of Consciousness)において展開されモデル内包していた問題が、これらの作品執筆過程のなかで朧気認識されはじめたことに起因するのであるという。 『意識スペクトル』において、ウィルバーは、人間意識成長過程次のように描写した誕生瞬間において、人間は、「堕落」(the Fall)を経験するまえの「至福」の状態にある。しかし、成長過程のなかで、人間は、徐々にこうした至福」の状態から苦悩満たされた状態へと「堕落」していく。それは、誕生瞬間存在していた霊とのつながり喪失することなのである意識成長とは、こうして「堕落」をとおして喪失」された霊(Spirit)とのつながり恢復する過程のである。 しかし、『アートマン・プロジェクト』と『エデンより』の執筆中、ウィルバーは、こうした認識が「堕落」というものについての、誤解内包していたことを認識する。この誤解について、ウィルバー(1983/2005)は、後日次のように総括している。 『意識スペクトル』が内包していた問題とは、2種類の「堕落」(the Fall)――「存在論堕落」(“metaphysical fall”)と「心理的堕落」(“psychological fall”)――の混同形容できるものである。「存在論堕落」とは、霊との意識的な同一感覚の喪失、そして、それにもとづく「罪」(疎外別離二元性有限性)の世界へ埋没である。そして、「心理的堕落」とは、自らがそうした堕落した状況にあることの内省的な認識である。 霊とは、この現象世界基盤であり、あらゆる存在一瞬たりともそれと疎外された状態で存在することはできない。つまり、この現象世界あらゆる存在は、常に完全なかたちで霊と結びついており、また、霊の顕現として存在しているのである。したがって人間直面する問題は、霊との結びつきいかにして確立するということではなく、むしろ、霊との結びつき確立されていることをいかにして認識するということのである人間は、成長過程において、内省能力成熟してくると、自らが「罪」の世界生きていることを認識するうになる内省能力成熟もたらすこうした認識は、不可避的に、精神的な苦悩醸成することになる。そして、そうした苦悩は――もしそれ抑圧することなく対峙することができるならば――われわれを自らを救済するための積極的な取り組みへと突き動かすことになる。ウィルバーは、こうした成熟した内省能力確立契機としてもたらされる精神的な転換を「外的方向性」(“Outward Arc”)から「内的方向性」(“Inward Arc”)への転換形容するが、それは、人間人格成長がより高度の成熟段階であるトランスパーソナル段階へと向かうことができるために必要とされるもののである。つまり、「存在論堕落」の解決可能性は、世界存在することが構造的に内包する問題(「罪」)と対峙することが醸成するこうした苦悩経験――「心理的堕落」――をとおしてもたらされるのである人間は、世界誕生することそのものとおして、「存在論堕落」を経験している。その意味で、すべての人間生まれながらにして「地獄」(“Hell”)に存在しているのである。しかし、自らが「地獄」に存在していることを認識することができるためには、そうした認識を可能とする内省能力構築する必要があるそうした能力構築されるまでは、人間は、「存在論堕落」という自らの状況そのもの把握することができず、結果として、「無意識的地獄」(“Unconscious Hell”)を生きることになる。 そうした自己内省力を欠如した状態にある人間の姿は、傍目には平穏に見えるかもしれない。しかし、実際には、その自覚欠如しているだけで、当人存在は「罪」に特徴づけられている。内省力の欠如は、内的な平穏という外観をあたえはするが、実際には、彼らの存在は、自らの存在論状況自覚的である人間と同様、「罪」に起因する諸々執着により特徴づけられているのである。むしろ、自らが救済を必要としていることを認識することができていないという意味では、「天国」(“Heaven”)と最も乖離したところにいる状態ということができるだろう。真の救済のために必要とされるのは、そうした虚偽平穏状態に留まることではなく、自らが救済を必要とすることを自覚することなのである。そして、これは、いわば、「無意識的地獄」を脱却して「意識的地獄」(“Conscious Hell”)へ前進していく行為ということのできるものであるこうした成長とおして人間は、はじめて「意識的天国」(“Conscious Heaven”)に到達するための可能性を生みだすことができるのである意識成長過程とおして内省能力確立されてくれば結果として人々は、「意識的地獄」のなかで、苦悩苦闘しながら日常を暮らすことになる。そうした状況置かれ人間視点には、しばしば、自己執拗に苦悶させる苦悩から「解放」されることが、救済証左として意識されるうになる実際には、そうした苦悩は、「無意識的地獄」から「意識的地獄」への移行という非常に重要な意識深化過程経て獲得したのであるにもかかわらず、そのあまりの重圧のために、苦悩存在しないことそのもの救済であると思いこんでしまうのであるこうした精神状態において、「無意識的地獄」と「意識的天国」とが――「意識的地獄」を特徴づける苦悩煩わされていないと意味において――どちらもあたかも同じものであるように思われてくるのは自然なことであるといえるだろう。「前・後の混同」(“Pre/Post Fallacy”)とは、このように実際には非常に異な成長段階をある共通項存在理由短絡的に混同することを意味する。そして、ウィルバー説明するように、『意識スペクトル』は、まさに、こうした混同犯していたのである。 普通、こうした混同は、結果として2つ混乱を生みだすことになる。ひとつは、高度の成長段階(例:トランスパーソナル段階)を低度成長段階(例:プリパーソナル段階)として誤解すること(“Reductionism”)。そして、もうひとつは、低度成長段階(例:プリパーソナル段階)を高度の成長段階(例:トランスパーソナル段階)として誤解すること(“Elevationism”)である。前者典型的な例としては、高度の宗教的体験病的な退行体験として解釈するものがあげられる。そして、後者典型的な例としては、幼児的な体験を高度の宗教的体験として解釈するものがあげられるいうまでもなくこうした理論的な混同は、実践的な混乱もたらすことになる。例えば、前者場合突発的瞬間的に経験され宗教体験構造的な意識変容過程促進することをとおして統合することが重要になるときに、それを病的な退行体験として誤解することにより、薬物投与等の不適切介入なされることになる。また、後者場合人格構造脆弱であるために発生した病的体験を高度の宗教体験として誤解することにより、そうした状況において必要となる人格構造補強志向する介入方法ではなく瞑想等の人格構造対象化する介入方法実践されることになる。これらの実践的な混乱は、臨床現場においては、時としてクライアントのなかに深刻な「傷」を生みだすことになる危険性孕むのであるウィルバー報告によればこれまでの執筆活動において、こうした枠組は、普通、瞬間的な霊感なかにもたらされるという。例えば、この「意識のスペクトラム理論場合集中的な瞑想体験最中経験した、この惑星における生命歴史をその主体として追体験するような体験なかにもたらされ洞察理論化したものであるという(こうした体験集中的な瞑想体験においては必ずしも珍しいものではない)。

※この「前・後の混同(ウィルバーⅡ)」の解説は、「ケン・ウィルバー」の解説の一部です。
「前・後の混同(ウィルバーⅡ)」を含む「ケン・ウィルバー」の記事については、「ケン・ウィルバー」の概要を参照ください。

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