初期のメディア報道と隠蔽疑惑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/04 16:28 UTC 版)
「2006年のホワイトハウス記者協会主催夕食会のスティーヴン・コルベア」の記事における「初期のメディア報道と隠蔽疑惑」の解説
ケーブルチャンネルのC-SPANはこの夕食会を生放送し、その後の24時間で何度も再放送を行ったが、コルベアのスピーチはカットされていた。放送業界紙のエディター&パブリッシャーは最初にコルベアのスピーチを報じた活字メディアで、彼のパフォーマンスがブッシュ家にとっては笑えない「辛辣だがコミカルな『賛辞』」であったと表現した。記事によれば、演壇と一続きになった主賓席の面々はスピーチのあいだ不愉快な顔をしており「おそらく、内容があまりにも手厳しいとか、あまりにも権力者にとっては不都合な『トゥルーシネス(英語版)』であると考えていた」。 ニューヨークタイムズとシカゴトリビューンはこの夕食会を報じたが、コルベアの発言については記事にしなかった。ロイターやAPなどの通信社は夕食会の記事でどちらもコルベアの演目に3段落を割いた。ワシントンポストは記事中で繰り返しコルベアに言及している。紙面で非常に大きく取り上げたのはUSAトゥデイで、ブッシュとブリッジスのコントよりもはるかに分量が多かった。夕食会の翌日には、CNNのテレビ番組『Reliable Sources』がこのコルベアのスピーチ映像を放送し、ハワード・カーツがコメントした。フォックスのニュース番組『Fox & Friends』ではコメンテーターたちがあのスピーチは「一線を越えている」とコルベアを非難した。夕食会の前から(その後も)『コルベア・レポート』のターゲットになることの多かったタッカー・カールソンは、MSNBCに持っている自分の番組『Tucker』で、コルベアのことを「面白くなかった」と一蹴した。 最初期のメディア報道の大半にいえることは、ブッシュとブリッジスに対する反応(非常に好意的)とコルベアに対する反応(ほとんど黙殺的)の温度差である。「大統領にはやられた。毎度のことだが、とても真似できない」とコルベアも語った。またスピーチについては、会場の冷めた反応は実際には「非常にまじめに聞いてくれたがゆえの静寂」であったと冗談をいいつつ、スピーチが終わると席に戻る準備ができる前から聴衆が「自分を肩にかついで連れ出すかのような」空気だったと表現した。かつてコルベアも出演していた『ザ・デイリー・ショー』では、ホストのジョン・スチュワートが「コルベアは我々の誇りだ、すげえぜ!」とコメントした。 ニューヨーク・デイリーニュースのゴシップ・コラムニスト、ロイド・グルーブはコルベアのスピーチが「最悪」だったと評価したが、BETの創設者ボブ・ジョンソンは「あそこにいたのは全員身内だ。これ以上ないほどの関係者だけの集まりだった。〔コルベアは〕内輪受けの笑いをやらなかったということだ」と語っている。コングレッショナル・クォータリーのコラムニストでCBSのコメンテーターでもあるクレイグ・クロフォードは、彼のパフォーマンスは非常に笑えるものだったが、夕食会の出席者のほとんどは楽しんでいるようにはみえなかったと証言している。タイム誌のテレビ評論家であるジェームス・ポニーウジクは、コルベアの批判は的外れだったと論じている。「会場を見ずに、後からインターネットで見るであろう大勢の人を相手にスピーチをしていたというのが僕の考えだ。いずれにせよ、会場を敵に回していた」。また、ポニーウジクは気分を害して不愉快そうにしている会場の反応を「マネーショット(英語版)」(金になる決定的瞬間)と表現し、結局「やりたかったのはそれだった」と述べている。 コルベアのスピーチは大うけしたのに、記者たちからは冷たくあしらわれているように見えることに批判的なコメントもあった。ましてコルベアは夕食会の余興のメインとなるコメディアンとして呼ばれていたのにである。ワシントンポストのコラムニスト、ダン・フルームキンはこの現象を「コルベア管制」と呼び、彼を無視して「とにかく無難な」ブッシュ大統領とブリッジスのやりとりを話題にした既存メディアをこき下ろした。デモクラシー・ナウのエイミー・グッドマンは初期の報道ではコルベアが完全に無視されていたと証言している。コロンビア大学ジャーナリズム大学院のトッド・ギトリン教授は「論じるにしても激しすぎた。〔コルベアは〕ブッシュを酷評していたが、言葉をさしはさむ余地のないほど激しいものだった。〔主流メディアは〕的を射ていてもあれほど攻撃的な批判を論じる術を持っていない」と語っている。 メディアによる意図的な隠蔽と見る向きは上記に尽きている。ワシントンポストで「メディア・バックトーク」欄を担当するハワード・カーツは、なぜ同紙がコルベアのスピーチについて深入りしないのかという質問に答えて、「ある意味で問題は締め切りと言っていいかもしれない。コルベアに出番が回った10時30分にはすでに印刷機が回っているのだから、記事はその時点までにあらかた書かれているわけです」と述べている。ニュース番組がブッシュとブリッジスのやりとりを好んで放送したことについても、コロンビア大学ジャーナリズム大学院の副学部長で「60ミニッツ」の元プロデューサーであるエリザベス・フィッシュマンは、MTVに対して、テレビ番組は「クイックヒット」を決めたいからブッシュがものまねタレントと並んでいる映像を使うのであり「視覚に訴えかける画を使うほうが簡単」なだけだと語っている。夕食会を主催したホワイトハウス記者団の団長でC-SPANの政治部記者であるスティーヴ・スカリーは、メディアが意図的にコルベアを無視したという考えはまったくありえないと一蹴している。彼いわく「ブッシュはスティーヴ・ブリッジスと共演してホームランを打ったからメディアの注目をさらっただけだ。私が思うに過剰な期待があったんだろう。右翼の陰謀も左翼の陰謀もないよ」。タイム誌のコラムニスト、アン・マリー・コックスもマスコミがわざと隠蔽したのだという説を否定しており、コルベアのパフォーマンスをニューヨークタイムズやワシントンポストだけでなく大手通信社も取り上げていることを反例に挙げている。同僚であるハワード・カーツも彼女に賛同している。なぜならコルベアのスピーチ動画はC-SPANで継続的に放映されているし、オンラインでも問題なく閲覧可能だからである。カーツは自分の番組でも動画を取り上げて、「どうやら僕のところまでその〔隠蔽の〕指示はまわってないようだね」と語っている。 ニューヨークタイムスは2006年5月3日付けの記事でこの騒動について言及しており、自社も含めた主要メディアがコルベアのスピーチよりもブッシュとブリッジスのやりとりを大きく取り上げて批判を受けたことを認めている。またコルベアのスピーチの中でも大統領への批判としてより本質に迫っている箇所を引用するとともに、様々な方面からの反応について論じていた。さらに5月15日には同紙のパブリックエディターであるバイロン・カレームが自身のブログに、200人を超える読者から、夕食会を初めて大きく取り上げた記事にコルベアへの言及が抜け落ちていたことに対する不満が寄せられていると書いている。さらにカレームはワシントン副支局長の意見を引用して、最初の記事ではコルベアのことを公平に取り上げたといえるほどの分量が紙面に割かれていなかったとも述べていた。夕食会が開催されてから時をおかずに、同じ紙面でコルベアのスピーチを特に掘り下げて記事を掲載すべきだったというのが彼の意見である。
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