保存と道路工事との狭間で
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「高尾山古墳」の記事における「保存と道路工事との狭間で」の解説
2015年(平成27年)8月6日、沼津市は高尾山古墳の解体方針を白紙撤回し、古墳保存と道路建設の両立を目指す方針に転換した。その後9月3日には古墳保存と道路建設の両立について考える第一回の協議会が開かれた。第一回協議会の開催後、沼津市は地元金岡、門池地区の連合自治会で、市の方針転換について説明会を開いたものの、両地区とも古墳保存と道路建設の両立という考え方自体に拒否感が強く、古墳を解体して道路工事を進めて欲しいという希望が強く出された。 協議会の議論を受けて4車線のT字路案を採用する方向となり、2016年(平成28年)2月12日に沼津市議会本会議で行われた栗原市長の施政方針演説の中で、高尾山古墳を国指定史跡とする取り組みを行い、古墳の活用方法の検討に入るとした。また同日より沼津市は高尾山古墳保存費用の寄付の受付を開始した。3月8日に沼津で行われた狗奴国サミットは会場がほぼ満席となる盛況となり、高尾山古墳の保存運動を展開している市民グループ代表からは、高尾山古墳に対する関心の高さが古墳保存の後押しをすると挨拶し、また古墳東側に道路を通す案は古墳活用にとって望ましくないとの意見が述べられた。 ところが4車線のT字路案の採用についての静岡県公安委員会との協議は難航した。問題となったのは協議会でも4車線のT字路案の課題とされた交通安全面の問題であった。県公安委員会はT字路方式では屈曲部の大型車の並進時などに危険があると判断し、許可を得るのは困難となった。また地元からの要望があった沼津南一色線に接続する東西方向の道路整備も困難であることもネックとなった。沼津市側としては県公安委員会との協議が難航する中でも4車線のT字路案の整備案を中心に進めたいと考えていたが、結局は断念することになり、協議会で話し合われた残りの5つの案を中心に道路整備案を練り直すことになった。 古墳保存と道路建設との両立が難航する中、地元の東熊堂、西熊堂の自治会対象に3回、説明会が開催されたが、やはり古墳と道路の両立を目指す方針に対する地元理解は得られていない状況が続いている。一方、高尾山古墳の保存を求める市民グループは、協議会で古墳と道路建設の両立について話し合われたのにも関わらず、古墳保存の方針が決まらない中、結局、協議した内容が実現されないのではないかと憂慮した。またこれまで1000万円以上寄せられたという高尾山古墳保存の寄付金のことも考えると、古墳保存についての情報公開が必要であるとして、2017年(平成29年)5月11日に沼津市に質問状を提出した。沼津市側は質問状に対して、4車線のT字路案は断念したものの古墳の現地保存という方針に変更は無く、国史跡の指定を申請していきたいとの回答を行った。そして静岡県考古学会は6月11日に改めて高尾山古墳の保存と活用を求める声明を採択し、6月30日に沼津市側に伝達した。沼津市側からは4車線のT字路案は実現困難で他案を検討中であり、高尾山古墳の国の史跡指定を目指すとの回答があった。 2017年(平成29年)12月21日、沼津市は高尾山古墳の保存と道路建設について検討を重ね、また道路と文化財保護の関係者などとの協議を進めてきた結論として、都市計画道路沼津南一色線の西側車線(上り車線)は古墳の下をトンネルで、そして東側車線(下り車線)は古墳と熊野神社、高尾山穂見神社との間の地上を通す案を採用する方針を発表した。この案は高尾山古墳保存と都市計画道路(沼津南一色線)整備の両立に関する協議会で協議された中に含まれており、当初案では古墳の上を東側車線(下り車線)が通過する構造となるため、山砂、発泡スチロール、鉄板で古墳の保護措置を講じた上で道路を通すこととして、総工費は26億円と見積もられていた。 この案は地元からの強い要望があった東西方向への連絡道路の確保、そして走行車両の安全性という点で他案よりも優れていると判断された。また新たな建物移転の必要が無く、土地の追加買収も他案よりも少なく済む点も評価ポイントとされた。ただ、古墳上を道路が通過するという当初案では、地盤が軟弱であるため古墳ごと沈下してしまうおそれが高く、沈下を防ぐために地盤強化を行うと古墳を毀損してしまうため、東側車線(下り車線)については古墳を跨ぐ橋梁を設ける方針となった。その結果、工事費用は当初見込みの26億円から35ないし40億円と増大するが、当初案では課題とされた古墳と隣の熊野神社、高尾山穂見神社が分断され、古墳の一部が道路の路盤下になってしまう問題は、橋が古墳を跨ぐ構造とすることによって軽減されるとした。 しかし東側に設けられる橋梁は、橋脚が古墳の周溝域に立てられることになる可能性が高く、古墳の一部が橋の下となることも景観上の点から問題となり得る。 沼津市としては今後道路建設を進めるとともに、高尾山古墳の史跡指定を目指し、近くに駐車場を整備して古墳のガイダンス施設を充実させるなど、古墳の保存、活用を図っていくとしている。
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