保存のプロセス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/29 01:02 UTC 版)
泥炭中の湿地遺体は、人為的なミイラ化によるものではなく、自然現象によって保存されたものである。これは、泥炭地特有の物理的・科学的組成に起因する。泥炭の種類の違いは遺体の保存状態に影響し、Raised bogでは完璧に保存された湿地遺体が出土するのに対し、フェンやTransitional bogでは軟組織は保存されず、骨だけになっていることが多い。 遺体の保存に適した泥炭地は数が限られており、その多くは海水域に近い寒冷地にある。例えばHaraldskær Womanが発見されたデンマークのある地域の場合、北海から湿原に吹く潮風が、泥炭の発達に適した環境をもたらしていた。泥炭の主成分であるミズゴケから生成されたタンニンやフミン酸の作用により、遺体に防腐処置が施され、また黒っぽく着色された。また泥炭地は水の交換が行われない環境で形成される。この環境下では強酸性かつ酸素が欠乏するため、有機物の分解に関わる地下の好気性生物は不活性化する。また研究の結果、水温の低い(4℃以下)冬から早春のあいだに埋没したことが遺体の保存に大きく関わっていることがわかっている。低温下ではフミン酸が組織の腐敗が始まる前に浸透し、細菌の増殖速度が落ちるため、遺体の保存を可能にしている。 泥炭の化学的環境は、有機酸やアルデヒドが高濃度で存在する飽和酸性環境を伴う。嫌気性の酸性泥炭中では、髪や服、革製品などの有機物が保存される。現代の研究者は泥炭環境を実験室内でつくり、Haraldskær Womanが2500年かけて保存されたのと同じプロセスをより短い時間で再現することに成功している。発見された大部分の湿地遺体は、完全には保存されずある程度腐敗している。湿地遺体は通常の大気にさらされると急速に分解されてしまうため、多くの資料が失われた。1979年の段階で保存されていた湿地遺体は53体である。
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