便宜上の「最終回」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 23:39 UTC 版)
「ドラえもんの最終回」の記事における「便宜上の「最終回」」の解説
先述の事情により描かれた便宜上の「最終回」。いずれもてんとう虫コミックスや藤子不二雄ランドには未収録のため、永らくマニアの間で「幻の最終回」として扱われていたが、2009年に刊行された『藤子・F・不二雄大全集』の『ドラえもん』第1巻に収録されたことにより、現在では手軽に読めるようになっている。 「ドラえもん未来へ帰る」 『小学四年生』1971年3月号掲載(本誌掲載時は無題) あらすじ ある晩、勉強部屋で寝ていたのび太はザワザワとした物音に眠りを妨げられる。雑踏のような物音に顔を起こしてみると、大勢の人間が壁をすり抜けて部屋に現れ、また壁をすり抜けては姿を消していった。 次の朝、未来の世界に一時的に帰っていたドラえもんが戻ってくるが、ひどく元気がなく、なぜかぼんやりとしていた。のび太は昨晩の奇妙なできごとを説明しようとするが、その矢先にママがのび太を呼びつけ、壁に書かれた落書きを指さしてのび太をなじり始める。まったく身に覚えのないことにのび太は知らないと弁解するが、そこへパパが来て大事なライターがなくなったと騒ぎ出し、「そういえばこのところいろんな物がよくなくなるなあ」と3人は顔を見合わせる。不思議そうに首をかしげる彼らを見ながら、ドラえもんは「とうとう、このへんにもあらわれたか」と力なく呟く。 のび太は勉強部屋でドラえもんと向き合っておやつを食べるが、ドラえもんは大好きなどら焼きを前にしても手をつけようともしない。声をかけても気のない返事しかしないドラえもんをいぶかしんでいると、そこへ突然、昨晩のように壁をすり抜けて奇妙な人間たちがドヤドヤと部屋に侵入してきた。先頭に立つ男は名刺を差し出し、「自分は未来世界の観光会社ガイドで、未来世界の時間観光ツアー客を案内している」と名乗る。ドラえもんは時間旅行のマナーを持ち出し、「旅先の時代の住人に気づかれないように行動するのが時間旅行のルールだろう」と怒るが、ガイドは「それでは客が満足しなくなったのだ」と笑っていうことを聞かない。やがて母子連れはのび太のノートやパパの入浴を覗いたり、新婚カップルは家に記念の落書きをしたりその場でイチャイチャしたり、金持ちはママが洗っていたシャツを「珍しい繊維だ」と言って買い取ろうとするなど、ツアー客達はその傍若無人ぶりをエスカレートさせる。野比家の面々はすっかり憤慨するが、彼らは4次元移動で壁をすり抜けて移動して家の中を駆け回り、なかなか捕まえることができない。 そんな中、ピストルを持った奇妙な男が現れ、「ここが気にいった、下宿するぜ」と野比家への下宿を要求する。男は、「殺し屋ジャック」という未来世界から逃亡してきた凶悪犯だった。ジャックはピストルを突きつけて野比家の面々とツアー客を脅迫し騒然とさせるが、駆けつけてきたタイムパトロールに撃たれて拘束される。 ツアー客が去って、野比家にようやく静寂が戻ってきた。のび太が「時間観光旅行なんて迷惑だ!」とぼやいていると、そこへセワシが現れる。セワシは未来からの渡航者たちのマナーが非常に悪く、過去の人間に迷惑をかけないために「時間旅行規制法」が制定され、過去への渡航が一切禁止となったと説明する。ドラえもんが元気がなかったのは、「規制法」が近々制定されるのを知っていたからだった。当然ドラえもんも帰らねばならなくなりのび太は引き止めるが、ドラえもんは「男だろ!これからはひとりでやってくんだ。きみならできる!!」とのび太に檄を飛ばす。やがて帰還のサイレンが鳴り、別れの時が来る。のび太に檄を飛ばしたドラえもんも、別れの瞬間を前にして「のび太くんとわかれるのいやだあ」と泣きわめくが、セワシに引っ張られ、結局否応なしに未来へと帰っていった。 ドラえもんはセワシとともに未来の世界へ戻り、タイムマシンの出入り口も机の引き出しから消えた。勉強机に向かうのび太は、その引き出しを開けるたびにドラえもんのことを思い出し、そこに彼の影を見て静かに呟くのだった。「つくえの引き出しは、ただの引き出しにもどりました。でも……、ぼくは開けるたびにドラえもんを思い出すのです。」と。 「ドラえもんがいなくなっちゃう!?」 『小学四年生』1972年3月号掲載(本誌掲載時は無題) あらすじ 友達とサイクリングに行く約束をしたものの、のび太は自転車に乗れない。自転車に乗れるようになる道具を出してと安直にドラえもんに頼ろうとするが、ドラえもんはそれを冷たく突き放し、「ぐずぐずいってるひまに、練習したらどうだっ!!」と言い出し、それにびっくりしたのび太は、慌てて部屋を出た。実はドラえもんは、彼に頼りっきりなのび太の自立心を養うために未来へ帰ろうと考えていたが、なかなかそれを言い出せずに悩んでいたのだった。困り果てたドラえもんはセワシと相談し、「ドラえもんが故障した」というウソをついて帰ることにする。そのウソを聞いたのび太は素直にそれを信じ、ドラえもんがいなくなったら困るけれどもドラえもんのために我慢するから自分にかまわず帰ってほしいと言う。優しい言葉に感激したドラえもんは正直にのび太に理由を告白するが、のび太はそれを受け入れ未来へと帰るドラえもんを勇気を持って送り出す。 その後、のび太は一人で自転車に乗る練習を始める。何度転んでも起き上がり、ひたむきに頑張るのび太。その姿を、ドラえもんはセワシと一緒にタイムテレビで未来の世界から温かく見守るのだった。 備考 前述の通り、この最終回には後日談がある。1973年4月号より『小学六年生』にも連載が拡大されることとなったのだが、その最初の読者となるのはかつてこの最終回と共に『ドラえもん』を「卒業」した当時の小学4年生であった。そのため、その直前の号に当たる『小学五年生』1973年3月号には再びドラえもんがのび太の元に帰って来るという形式の2ページの予告漫画が掲載された。この予告漫画も『藤子・F・不二雄大全集』の『ドラえもん』第1巻に収録されている。 なお、テレビアニメ第1作の最終話「さようならドラえもんの巻」(1973年9月30日放送)はこのエピソードをベースに作られたもので、ドラえもんの嘘に協力するのはセワシではなくガチャ子になっている。
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