作用時間による製剤の分類
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「インスリン製剤」の記事における「作用時間による製剤の分類」の解説
インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間によって超速効型、速効型、中間型、混合型、持効型溶解に分類される。持続型 (ultralente, U)も存在したが、2000年代半ばまでで使われなくなった。インスリン製剤は使い捨てのペン型製剤とカートリッジ製剤、バイアル製剤がある。本項ではインスリンアナログも併せて記載する。 超速効型インスリン製剤 一般名発現時間(min)最大作用時間(hr)持続時間(hr)インスリン アスパルト 10〜20 1〜3 3〜5 インスリン リスプロ 〜15 0.5〜1.5 3〜5 インスリン グルリジン 〜15 0.5〜1.5 3〜5 これらは皮下注射時単量体のままであり血中に入るまでの時間が短く、皮下注射後の作用発現が15分以内と非常に早く、最大作用時間が2時間と短いのが特徴である。インスリンの追加分泌の補充に極めて適している。速効型インスリンでは食前30分に皮下注射する必要があったが、30分後に食事を確実に取るというのは日常生活の中では難しかった。超速効型インスリン製剤は食事を取る直前にインスリン製剤を打てば良いという点で非常に扱い易くなりコンプライアンス(治療が実施される確実さ)が上昇すると言われており、実際にレギュラーインスリンと比べて血糖コントロールが向上するという確かな研究結果(エビデンス)が報告されている。推奨された使用法ではないが、体調が悪くて十分食事を取れそうにない時、食事後に通常量の半量摂取できたと思えばインスリンも半量食後に投与する、といった方法も可能である。 作用時間が短い為、各食前1日3回の投与では食前に高血糖となる可能性があり、中間型インスリンを朝と夕に投与したり、持効型溶解を朝または就寝前に投与する事が多い。 速効型インスリンは六量体形成となって凝集する傾向があり、六量体から単量体への分離が吸収の過程で律速段階となっていた。超速効型インスリンは、新しい遺伝子組換え技術を利用して、アミノ酸配列を変更し、六量体形成を起こし難くしたインスリンアナログである。 インスリン リスプロ(Insulin Lispro)、インスリン アスパルト(Insulin Aspart)、インスリン グルリジン(Insulin Glulisine)がよく知られている。臨床的特徴としては、三者には殆ど差がない。 リスプロとアスパルトについてはプロタミンとの混合型製剤(一部中間型化)も上市されている。 また、リスプロとアスパルトについては効き始める迄の時間をより短縮した製剤が開発され市販されている。 速効型インスリン製剤 発現時間(hr)最大作用時間(hr)持続時間(hr)N社 0.5 1〜3 8 L社 0.5〜1 1〜3 5〜7 速効性インスリンは投与後30分~1時間で効き始め、1~3時間で作用が最大となり、5~8時間効果が持続する。 構造的に内因性インスリンと同一であるが、安定性の為に亜鉛イオンが付加されている。六量体形成傾向により内因性インスリンと比べ作用発現が遅くなっている。皮下注射のほかに筋肉注射や静脈内注射が可能である。 食前30分の投与によって、食事による血糖値の上昇を抑える。 混合型インスリン製剤 発現時間(hr)最大作用時間(hr)持続時間(hr)N社 0.5 2〜8 24 L社 0.5〜1 2〜12 18〜24 上記の速効型と下記の中間型を10%から50%の割合で混ぜた混合型インスリン製剤である。比較的立ち上がりが早く持続時間が長いとされる。 中間型インスリン製剤 発現時間(hr)最大作用時間(hr)持続時間(hr)N社 1.5 4〜12 24 L社 1〜3 8〜10 18〜24 NPHインスリンは白濁しており、投与後徐々に溶解して30分~3時間で作用が発現する。ピークは2~12時間で、持続時間は18~24時間程度と、製剤により異なる。作用時間は中程度で、通常のインスリン(速効型)よりも長く、持効型インスリンよりも短い。 インスリンの基礎分泌の補充としては以前は主流であったが、思わぬ時間帯に効果のピークが出現して低血糖を起こす頻度が多く、基礎インスリンとしての役割は持効型製剤に譲り渡された。 持効型溶解インスリン製剤 インスリン デグルデク(degludec):ノボ ノルディスク社により開発された製剤で、2012年9月7日付で承認された。商品名はトレシーバ。ヒトインスリンのB鎖30位のスレオニン残基を削除し、B鎖29位のリジン残基にγ-グルタミン酸を介してヘキサデカン二酸を結合させた構造を有している。本注射後速やかに可溶性マルチヘキサマーを形成し、そこから持続的かつ緩徐に血中に吸収されるとされている。下記のグラルギンに比べ、夜間低血糖および重症低血糖の発現率が低いといわれている。また、作用持続時間は42時間を超える。2015年8月時点で、持効型インスリンとして唯一小児の用法・用量が承認されている。 インスリン グラルギン(glargine):旧ヘキスト社(現サノフィ)が開発し、日本でも2003年に商品名ランタスとして薬価収載されている。インスリンA鎖21位のアスパラギンをグリシンに置換し、B鎖C末端に2個のアルギニンを追加してある。酸性pH4では水溶性であるが、注射後中性に近い体内では微結晶になり、ゆっくりと溶解して血中に移行していく。その為5時間後から安定した血中濃度となり、以後24時間以上一定濃度を維持する。注入器(オプチペンプロ1)の破損による過量投与の問題から、旧タイプ注入器の回収と新タイプ(オプチクリック)への切り替えが行われた。2006年5月ランタスの新規導入が厚生労働省通達により停止した。2008年現在は処方されている。またその後、使い捨て容器のランタスソロスターも上市された。 インスリン デテミル(detemir):ノボ ノルディスク社製の製剤で日本では2007年10月19日で承認を厚生労働省より取得した。商品名レベミル。B鎖30位のスレオニンを削除し、B鎖29位のリシンに脂肪酸のミリスチン酸を付加している。作用持続時間はグラルギンより短く、18時間程度とする見方もある。
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