二人一役
『シラノ・ド・ベルジュラック』(ロスタン)第2~3幕 近衛青年隊のシラノは文才もあり弁舌の才もあるが、鼻の大きな醜男である。同僚のクリスチャンは美男だが、恋文も書けず女性を口説くこともできない。シラノは自分の才能とクリスチャンの美貌を合わせ、2人がかりでロクサーヌに求愛しよう、と提案する。シラノは自らのロクサーヌへの恋をあきらめ、クリスチャンの恋文を代筆し、クリスチャンの声色をつかってロクサーヌを口説く。
『棒しばり』(狂言) 主が外出するに際し、留守中の酒の盗み飲みを防ぐため、まず太郎冠者の肩に棒を担わせて両手首を棒に縛り、次いで次郎冠者を後ろ手に縛る。2人は手を口まで持っていくことができず単独では酒が飲めない。そこで協力して太郎冠者が盃を持ち次郎冠者に飲ませ、次郎冠者が盃を持ち太郎冠者に飲ませる。
『夕陽のガンマン(続)』(レオーネ) 南北戦争時代。ブロンディとトゥコは相棒だったが、敵対していた。重傷で瀕死の南軍兵士が、20万ドルの金貨を埋めた墓地の場所を、トゥコに教える。ところが、兵士に飲ませる水をトゥコが取りに行っている間に、金貨が埋まっているのは誰の墓石の下かを、ブロンディが聞き出す。どこの墓地かはトゥコが、墓石の名前はブロンディが知っているので、2人は手を組まざるを得なかった。
*7歳の兄と5歳の弟が力を合わせ、父の敵を殺す→〔仇討ち〕1cの『沙石集』巻7-6。
★2.二人が、背負う者・背負われる者となって、一人ではできないことをする。
『淮南子』「説山訓」第16 侵略軍が迫った時のこと。躄者(いざり)が盲者(めしい)に危険を知らせ、盲者は躄者を背負って逃げた。そのため2人とも死なずにすんだ。躄者は目が見え、盲者は走れる、という各自の能力を活かしたからだ。逆に、盲者が知らせて躄者が逃げる、ということになれば、うまくいかないだろう。
『ゲスタ・ロマノルム』71 王が大宴会を催し、「来る者には、ご馳走とお宝を与えよう」と布告する。盲目の男が足なえの男に、「おれたちは不幸だ。おれは盲目だから行けない。お前は足なえだから行けない」と言う。足なえの男は、「お前がおれをおんぶしてくれるなら、おれは道を教えよう」と提案し、2人は宴会に出て、ご馳走を食べ、お宝をもらった。
穀物の神・矮姫(サヒメ)の伝説 足長土(あしなづち)という男がいて、足は非常に長かったが、手が短く、物を拾うのに不便だった。手長土(てなづち)という女がいて、小山の上に坐り、長い手を伸ばして海の魚貝を採っていた。矮姫(*→〔小人〕1b)が2人をめあわせ、夫婦とする。足長土が手長土を背負えば、遠い道も速く歩け、深い水の中の物も楽に取れた。これが、男女相助け夫婦が一つ家を持つ始めである(島根県石見地方)。
★3.Aは殺人を考えるだけで実行はしない。Bは、Aの考えを十分に理解できないものの、それに従って殺人を実行に移す。
『Yの悲劇』(クイーン) ヨーク・ハッターは、横暴な妻エミリー及び異常性格の子供たちとの長年の生活に疲れ果て、自分の家庭をモデルとする妻殺しの犯罪小説の筋書きを作りつつも、それを完成させることなく、自殺する。その後、ヨークの13歳の孫ジャッキーが筋書きのメモを手に入れ、それに従って、彼にとっては祖母にあたるエミリーを殺す→〔同音異義〕5b。
*→〔父殺し〕1の『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)。
★4.一人の盗賊の奇妙な仕業と思われたことが、意図を異にする二人の人物の行ないであった。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「大盗懺悔」 武家屋敷・商人の店・寺院などから、大金や仏像や茶器を盗み出し、3日以内にまた持ち主に返す不思議な盗賊が、江戸を荒らした。これは、物を盗まずにはいられぬ病癖を持つ初老の男が諸方から金品を盗み、男の娘が困って、父の盗んだものを持ち主に返して廻ったのだった。銭形平次がまず娘を捕らえ、それをおとりに父をおびき寄せて、真相を明らかにした。
『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)』「隅田川渡しの場・双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)」 吉田家の嫡男松若は、永楽屋の娘お組と恋仲になる。松若の許嫁だった野分姫(のわけひめ)は、破戒僧・法界坊に殺される。法界坊は、お組を口説いているところを、吉田家の忠臣甚三(じんざ)に殺される。野分姫の霊と法界坊の霊は合体して、お組そっくりの姿になる。顔はお組だが、声は野分姫になったり、法界坊になったりする→〔双面(ふたおもて)〕2。
*2匹1役。2匹の狸が、1人の女に化ける→〔性器(女)〕7の『聴耳草紙』(佐々木喜善)89番「狸の話(狸の女)」。2匹のはりねずみを、1匹のように見せかける→〔兎〕1bの『兎とはりねずみ』(グリム)KHM187。
*4匹1役。4匹の動物の姿や声があわさって、化け物に見える→〔見間違い〕2の『ブレーメンの音楽隊』(グリム)KHM27。
Weblioに収録されているすべての辞書から二人一役を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から二人一役を検索
- 二人一役のページへのリンク