不正軽油問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/20 00:31 UTC 版)
軽油引取税は基本的に軽油に対して課されるものであり、軽油と性状の類似するA重油や灯油は、精製後に軽油引取税を含むいわゆる石油関連諸税が課されることは無い。 しかしながら、ディーゼルエンジンはA重油や灯油等を燃料として用いても稼働するといわれる。このため、軽油引取税の古典的な脱税手法として、軽油とA重油・灯油を混和して「水増し」したもの、A重油と灯油を混和したもの(性状としては地方税法上「軽油」となることが多い)などを、ディーゼルエンジンの燃料として用いることがしばしば行われる。 このような燃料を混和軽油と言い、A重油・灯油等を単体でディーゼル車に給油する場合等をも含めて、一般に不正軽油と呼び、各都道府県(都道府県税事務所など)では、不正軽油を製造及び使用している者の摘発を進めている。なお、不正流用を防ぐために、灯油には標識物質としてクマリンが添加されている。灯油をディーゼルエンジンに使用すると軽油より粘度が低いために、燃料の粘度に潤滑を依存している燃料ポンプなどの機器で故障が起こる可能性がある。
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不正軽油問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 20:06 UTC 版)
原則として、軽油引取税は軽油にのみ賦課されるものであり(例外については軽油引取税の項目を参照)、軽油と性状の類似するA重油や灯油に対しては、揮発油税法上賦課されていない。しかも、ディーゼルエンジンの燃料としては必ずしも軽油の性状を満たしている必要はなく、A重油や灯油でも稼働には問題がない。このため、軽油引取税の古典的な脱税手法として、軽油とA重油・灯油を混和したもの・A重油と灯油を混和したものなどを軽油代替の燃料として用いることがしばしば行われる。このような燃料を混和軽油と言い、A重油・灯油を単体でディーゼル車に給油する場合をも含めて『不正軽油』と呼ぶ。 下記に該当するものは不正軽油に該当し、取り締まりの対象となる。 都道府県知事の承認を得ずに製造された軽油(製造承認義務違反) 都道府県知事の承認を得ずに軽油に重油(A重油)を混ぜた混和軽油 都道府県知事の承認を得ずに自動車用燃料として販売または消費される重油 また、罰則は平成23年度からより厳しくなっている。 ディーゼルエンジンは、軽油を燃料として使うように設計されているが、灯油やA重油でも一応は動作する。しかし、上記の混和軽油でディーゼルエンジンを駆動させると、黒煙を盛大に吹き上げて窒素酸化物 (NOx) や粒子状物質 (PM) を大量に放出するようになる。またこのような行為は、燃料タンク周りにあるゴム類や金属類の部品を溶かし、燃焼温度が高くなってエンジン故障リスクとコストを増大させる上に、自動車排出ガス規制や保安基準に不適合な状態となる。 なお、通常の品質の軽油は半透明または薄黄色であるが、重油の混入で黒色や茶褐色になり、軽油の混入で容器に入れて振ったときの泡の切れが早くなる。 軽油への不正混入を防止するために、軽油引取税の課からないA重油や灯油には識別剤としてクマリンが規定濃度分だけ添加されている。このクマリンの測定方法は、石油学会が定める石油類試験関係規格である「石油製品-クマリンの求め方-蛍光光度法」に規定されている。クマリンはアルカリ加水分解によってシス-o-ヒドロキシ桂皮酸となり、さらに紫外線を照射したときに異性化して生じるトランス-o-ヒドロキシ桂皮酸からの蛍光を測定することでA重油や灯油の混入率が判別される。灯油やA重油が混ざっていれば、ブラックライトで照らすと黄色く光る。純粋な軽油だけなら絶対に光らない。 この摘発を逃れるために、硫酸で処理をしてクマリンを除去した密造軽油が製造されることがある。クマリンの分解過程で硫酸中にクマリンの分解物に加えて重油中のアスファルト質やゴム質および硫黄分などが溶け込み、これらが酸化・重合して硫酸ピッチと呼ばれる物質が生成される。硫酸ピッチは、クマリンと反応しきれなかった硫酸を含有するため強酸性であり、また石油由来の有害成分を含む毒物であるが、処理に高額な費用がかかるため、未処理のまま密造現場付近に不適正放置されたり不法投棄またはされて社会問題化している。 このことから、2004年(平成14年)税制改正で、不正軽油に対する脱税取締体制の強化が図られる一方、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)の改正により特別管理産業廃棄物に指定され、硫酸ピッチの廃棄に関する規制・罰則も強化された。 「硫酸ピッチ」および「不法投棄」も参照 また、硫酸ピッチの問題以外にも、不正軽油を用いた場合にディーゼルエンジン内部で不完全燃焼が発生しやすくなり、排気ガスの環境負荷が大きくなること、ディーゼルエンジンの損傷を招くことも指摘される。特に近年のディーゼルエンジンはコモンレール式インジェクタやターボチャージャーなどで緻密な制御を行っており、また排ガス対策でDPFや尿素SCRシステムなどを用いることから、不正軽油の使用は即故障につながる。 こうした手段で製造された粗悪な燃料が「軽油」と偽って市中で格安で販売されることがある。仕入れた不正軽油を早期に売り切るために、近隣の給油所より大幅に安く販売されている例が多い。安価であることがただちに不正軽油であることを意味するわけではないが、石油販売元売会社と連帯しての品質を保証する旨の表示がない場合には疑わしい。なお一般に、販売店が不正軽油の仕入れ元を明かすことはない。不正軽油の流通は、その目的である軽油引取税の脱税を生じるばかりでなく、製造時の副産物として生じる硫酸ピッチの不法投棄や、その劣悪な品質から生じる不完全燃焼により大気汚染が発生し環境問題にもつながる。不正軽油(特に重油を混ぜたもの)は、ディーゼル車の排気ガス中の有害物質を増加させ、環境や人体の健康を損なうとされている。
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