リチャード1世への献身
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 09:38 UTC 版)
「アリエノール・ダキテーヌ」の記事における「リチャード1世への献身」の解説
復帰直後から精力的にイングランドを巡行、ロンドンで可能な限り集めた貴族・聖職者たちから新国王リチャード1世への忠誠の誓いを取り付けると、ロンドンから各地の町や城へ騎馬行で巡行し続け、至る所で忠誠の誓いを受け取った。民衆の不満を和らげるため、晩年のヘンリー2世が行った民衆への弾圧を改め囚人解放や苦情処理を手掛け、役人の不正も取り締まった。一方で穀物・酒類の容量や布の長さを計る度量衡や、イングランド全土に通用する貨幣を導入して経済の活性化も図った。病院建設と患者の問題を扱ったり、修道院の一部負担免除もしている。 9月3日にはウェストミンスター寺院で自ら企画したリチャード1世の戴冠式を挙行。ポワティエ育ちでイングランド人には馴染みが無いリチャード1世を人々に認識させる目的で挙行した戴冠式は金に糸目を付けず、豪華な祝宴を繰り広げ厳かな儀式で執り行われた。リチャード1世も母の期待に応え、寛大な態度を示して父の側近たちを許し、ジョンには多くの領地を与えて懐柔、気前よく財産を周囲にばらまいて支持を取り付けた。戴冠式後の宴会中でユダヤ人虐殺が起こりそれに対する処罰という血生臭いアクシデントはあったが、リチャード1世はロンドン市民から受け入れられ戴冠式は成功した。 しかし対外的には不穏な状況が見え隠れしていて、リチャード1世は協力者だったフィリップ2世と不仲になった。身内も敵に回りジョンからは嫉妬され、甥でジェフリーの遺児アーサー(ブルターニュ公アルテュール1世)はフランス宮廷に育てられたため味方になる可能性は無い一方、3人の姉妹の嫁ぎ先が同盟相手として期待されていた。そうした状況をよそにリチャード1世は戴冠式直後から十字軍の準備に熱中、サラディン税(英語版)の徴収や官職・城・町などあらゆる物を売りに出して資金稼ぎに奔走し、イングランド中で多数のガレー船や武器が製造され軍備を揃える一方、ジョンには更に領地を加増して懐柔策を強化しつつも彼に実権を与えず、自身が不在のイングランドをアリエノールとカンタベリー大司教ウィリアム・ド・ロングチャンプ(英語版)(ギヨーム・ド・ロンシャン)へ託した。こうしてリチャード1世は第3回十字軍に参加してほとんどを海外遠征で過ごし、アリエノールは摂政としてイングランドを統治した。 とはいえずっとイングランドで過ごしていた訳ではなく、大陸を渡り大胆な行動に出ることもあった。1190年2月にイギリス海峡を渡りリチャード1世と合流、6月に遠征に向かう息子と別れたかと思えば、リチャード1世とナバラ王サンチョ6世の王女ベレンガリアとの縁談をまとめるため自らイベリア半島に赴き、翌1191年3月にベレンガリアと一緒に海路でシチリアのメッシーナへ向かい、リチャード1世と再合流したことが挙げられる(前後して、リチャード1世は未亡人になった妹ジョーンを監禁したシチリア王タンクレーディに迫り釈放させている)。フランスとイングランドの同盟およびアデルに見切りをつけたアリエノールは王家の将来のため新しい縁談の実現に動き、リチャード1世に庶子フィリップ・オブ・コニャックはいたが嫡子がいないため、彼が後継者を得ることでジョンとアーサーから王位を守ることを考え、合わせてベレンガリアにリチャード1世の激情を制御することを期待していた。 ベレンガリアをリチャード1世と引き合わせるとジョーンに彼女の後見を委ね、4月にイングランドへ帰国したが、そこでジョンが王位簒奪を狙いイングランドを巡回して人気取りに走り、1192年1月にフィリップ2世がジゾールを奪おうとノルマンディーに侵攻、大陸と島国両方で発生した危機を前にして懸命に対応した。ノルマンディーの諸侯に要塞守備を命じてフィリップ2世の企てを阻止、イングランドではロンドン、ウィンチェスターなど各地で会議を召集、貴族たちのリチャード1世への忠誠を取り付けてジョンの妨害に動き、ジョンとフィリップ2世の連携も食い止めたが、迫る危機を前にリチャード1世へ即刻帰国を要請する手紙を書き送った。リチャード1世はサラディンとの交渉やエルサレム王国の後継者問題に掛かり切りだったが、サラディンと休戦を結び、エルサレム王国は甥に当たるアンリ2世(異父姉マリーの息子でアリエノールの孫)が選出されたことで一段落、9月に母へ書き送った手紙で帰国する意志を伝え、10月にアッコを出航した。
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