ユーザーユニオン事件とは? わかりやすく解説

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ユーザーユニオン事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/14 01:11 UTC 版)

ユーザーユニオン事件(ユーザーユニオンじけん)とは、日本の欠陥車被害者団体の示談交渉に絡む恐喝事件。

概要

1960年代後半に欠陥車に関する報道が出始めた時代を背景に1970年5月に欠陥車被害者団体「日本自動車ユーザーユニオン」(以下、ユーザーユニオン)が誕生[1]。「ユーザーユニオン」は欠陥車による被害者から相談を受けつつ、欠陥車であることの立証をするために自動車テストをして、欠陥車を生産した自動車メーカーに対応を迫っていた[2]。また、ユーザーユニオンは1968年2月に自動車事故を起こしたホンダ・N360の運転手への有罪判決について「事故はN360の欠陥が原因であり、運転手に過失はない」とする再審請求をしたり[注 1][3]、自動車死亡事故について遺族に自動車会社幹部らを「未必の故意」の殺人罪で刑事告訴させるなどしており[注 2][4]、大企業に対して戦闘的な団体として世間に知られていた。

1971年11月2日にユーザーユニオン幹部2人(二級整備士資格を持つ元日産自動車社員の専務理事とヤメ検の顧問弁護士安倍治夫)が恐喝未遂容疑で東京地検特捜部に逮捕された[5]

捜査によって、以下の1971年3月から10月までの自動車メーカーとの示談交渉7件(メーカー5社、車種6種)について、恐喝罪や恐喝未遂罪として起訴された[6]

  1. 本田技研工業に対して、軽乗用車N360の欠陥を理由に、被害者192人の分として16億円の支払いを要求(恐喝未遂)
  2. 同じく被害者の遺族に委任されて8000万円の喝取(恐喝既遂)
  3. トヨタ自動車販売(現・トヨタ自動車)に対し、ダンプカーのトヨタDA110の欠陥を理由に、ダンプ業者7人に委任されて1200万円を喝取(恐喝既遂)
  4. トヨタ自動車販売に対し、乗用車のコロナマークⅡの欠陥を理由に、事故死者の遺族に委任されて、1億8000万円の要求(恐喝未遂)
  5. 日産自動車に対し、商業車のダットサンサニーバン(VB10)の欠陥を理由に、被害者から委任を受けて1500万円を要求(恐喝未遂)
  6. 日産ディーゼル販売(現・UDトラックス)に対し、ダンプカーのニッサンUDの欠陥を理由に、ダンプ業者3人に委任されて1億0354万円を要求(恐喝未遂)
  7. 日野自動車に対し、ダンプカーのKF700の欠陥を理由に、ダンプ業者の委任を受けて550万円を喝取(恐喝既遂)

捜査の過程において、示談交渉の際に「マスコミや国会で追及する」「次々と告訴や民事訴訟をする」「武装蜂起する」旨の言葉が出たこと、16億円事件では192人の分としていた被害者の委任状は64人分しか取っていなかったこと、スズキ系ディーラーから約1400万円の援助を受けていたことが明らかになった[7]。11月27日に2人は500万円の保釈金で保釈された[8]

裁判

1977年8月12日に東京地裁は安倍に懲役3年(求刑:懲役4年)、専務理事に懲役2年(求刑:懲役3年)の実刑判決を言い渡した[9]

被告は控訴し、1980年4月25日に東京高裁は8000万円事件については「欠陥車との確信のもとに事故被害者の早期救済を目指したもので、消費者としてできる限りの調査と裏付けを行えば、必ずしも穏当とはいえない言動でも社会通念上忍容の程度を超えておらず企業は受忍すべき」として「消費者の権利行使」を幅広くとらえて無罪としたものの他6事件については有罪を維持し、安倍に懲役2年(執行猶予4年)、専務理事に懲役1年6ヶ月(執行猶予4年)に減刑判決を言い渡した[10][11]

被告人が上告するも、1987年1月23日に上告が棄却されて判決が確定した[11]

余波

国会でユーザーユニオンの告発が取り扱われたことを通じ、軽自動車に速度制限(結果的に2000年まで高速道路では最高速度が80km/hに制限された)、車検制度が導入されることとなった[12][13]

脚注

注釈
  1. ^ 再審請求は「ユーザーユニオン」結成前であるが、後にユーザーユニオンの主要幹部となる複数のメンバーが関与しており、「ユーザーユニオン」の前史にあたる。
  2. ^ 1970年8月、日産・エコーによる死亡事故については川又克二社長を含めた日産自動車幹部ら、N360による死亡事故については本田宗一郎社長を含めた本田技研幹部らへ殺人罪で刑事告訴をした(嫌疑不十分で不起訴)。
出典
  1. ^ 伊藤正孝 1993, p. 122.
  2. ^ 伊藤正孝 1993, pp. 124–125.
  3. ^ 伊藤正孝 1993, p. 117.
  4. ^ 伊藤正孝 1993, p. 135.
  5. ^ 伊藤正孝 1993, p. 14.
  6. ^ 伊藤正孝 1993, pp. 27–28.
  7. ^ 伊藤正孝 1993, p. 15・21・36・57.
  8. ^ 伊藤正孝 1993, p. 27.
  9. ^ 伊藤正孝 1993, p. 219.
  10. ^ 伊藤正孝 1993, p. 233.
  11. ^ a b “和製ラルフネーダーの日本自動車ユーザーユニオン顧問弁護士有罪”. 毎日新聞. (1987年1月24日) 
  12. ^ 最高時速80キロに 欠陥者、国会で取り上げる『朝日新聞』1970年(昭和45年)9月10日夕刊 3版 10面
  13. ^ 軽自動車にも車検 「なるべく早く実施」最高時速80キロに 欠陥者、国会で取り上げる『朝日新聞』1970年(昭和45年)9月11日朝刊 12版 1面

参考文献

関連項目


ユーザーユニオン事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 01:52 UTC 版)

ホンダ・N360」の記事における「ユーザーユニオン事件」の解説

1969年以降ラルフ・ネーダー主導しアメリカで社会問題になっていた「欠陥車問題」に影響され日本でも同様に欠陥車糾弾動き生じた。この種の動き見せた団体に「日本自動車ユーザーユニオン」があり、当時のベストセラーカーであったN360」に操縦安定性の面で重大な欠陥があると指摘1970年N360運転中死亡したドライバー遺族が、未必の故意による殺人罪本田宗一郎東京地方検察庁告訴した1970年11月20日には警察庁が運転上のミスとは断定できない7件のケース取り上げ運輸省技術的な判断求めるため資料送付した。7件のケースは3人ないし4人が搭乗時、加速下り坂差し掛かった際に蛇行生じて横転車線から逸脱する事故であった(注:事故時の速度明示されていないこと、タイヤ丸坊主であったケースなど欠陥以外の要素伺え事故含まれていた)。これに対して運輸省は「本田技研から提出され資料によれば欠陥ないようだ」との主張繰り返した。 この事件に関して1973年国会審議日本共産党質問中に示した数字として、1968年から1970年3年間で、被害者362名(うち、死亡56名、重傷106名、軽傷137名、物損14件)というものがある。 これによるイメージダウンもあって、発売以来3年間日本国内販首位誇ったN360」の人気は下がり、1971年には後継モデルの「ライフ」が発売されたこともあって、1972年販売終えたまた、1969年4月発表され普通乗用車1300生産計画にも影響生じ同車当初よりも2ヶ月遅れて発売された。 捜査結果本田宗一郎不起訴となった。また本田技研工業法外な示談金要求したユーザーユニオンを恐喝告訴し1971年11月、ユーザーユニオン専務理事松田文雄顧問弁護士安倍治夫の2名が恐喝未遂容疑東京地方検察庁特別捜査部逮捕された。裁判最高裁まで争われたが、判決確定したのは1987年1月で、実に15年もの年月要した。 「ユーザーユニオン事件」も参照 同社Nシリーズ派生型である「Z」や、モデルチェンジ型である「ライフ」などで、軽乗用車業界における新たな展開求めたが、「N360」で失ったものを取り戻すまでには至らず当時軽乗用車市場の縮小をも背景に、1974年には商用車のみを残して軽乗用車分野から一時撤退することになる。 「N360」の開発携わった中村良夫は、のちに、ユーザーユニオンの指摘したヨー特性ロール特性からんだ不安定さ」を「N360」がもっていたことを否定していないが、技術鑑定人として委嘱され亘理厚東京大学生産技術研究所教授自動車振動特性操縦性研究いち早く取り組み当時日本における自動車技術権威一人であった)は、「当時道路運送車両法軽自動車速度について60km/h程度想定しており、100km/hを軽くオーバーするNのような自動車出現予知し盛り込めてなかったことに問題がある」という主旨指摘をおこなっている。 なお、1970年9月10日衆議院運輸委員会でユーザーユニオンの告発取り扱われ運輸大臣答弁の中で、軽自動車最高時速を80km/hに制限すること、車検制度導入する当時定期点検のみで運行が可能であった)ことに言及した。ユーザーユニオン問題終結した後も、軽自動車には高速道路において最高速度80km/h規制2000年9月まで続けられ車検制度継続された。

※この「ユーザーユニオン事件」の解説は、「ホンダ・N360」の解説の一部です。
「ユーザーユニオン事件」を含む「ホンダ・N360」の記事については、「ホンダ・N360」の概要を参照ください。

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