ボディービルダーとインスリンの乱用
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「リッチ・ピアーナ」の記事における「ボディービルダーとインスリンの乱用」の解説
ピアーナの死因については剖検で公式に「不明」とされているが、ホルモン、インスリン(Insulin)の過剰摂取を疑う声がある。インスリンは膵臓のβ細胞で産生されるペプチドホルモンであり、身体における同化作用を持つホルモンとみなされている。インスリンは細胞内へのブドウ糖の取り込みとブドウ糖による代謝を促し、それに伴って血糖値が低下する。 ハーヴァード大学医学校(Harvard Medical School)の精神科教授で医学博士のハリスン・ポープ(Harrison Pope)によれば、ボディービルダーたちの間でインスリンの使用が増加しているのは確かであるという。ピアーナは2013年にYouTubeに動画を投稿し、その中でインスリンの服用は危険であることを認めたが、適切な量の糖分を摂取すれば危険は回避できる、と主張した。ボディービルダーがインスリンを服用する理由については、前述のとおり、インスリンには血糖値を低下させるだけでなく、同化作用があり、筋肉の増加を促進するからである。ポープは「インスリンはステロイドと同じく、筋肉の成長を促す同化作用が強く、ボディービルダーたちが服用している」「インスリンはすでに血中にあり、検出されることが無い」と述べた。 だが、インスリンの過剰摂取は低血糖症を引き起こし、そこから発作、昏睡、神経学的な脳の損傷、そして死につながる。また、インスリンの服用はボディービルダーたちの間で大いに人気が高まっていることが判明した。ボディービルダーがインスリンを服用しており、そのことを公言していない場合は一際危険であるという。インスリンは規制された薬物ではなく、容易に入手できる。 健康のための運動の専門家、マット・フィッズ(Matt Fiddes)は、「糖尿病患者と同じく、インスリンを服用するなら十分な量の炭水化物を食べる必要がある。さもなくば昏睡状態に陥り、死に至る」と述べ、ピアーナが命を落とす原因となった可能性が最も高いのはインスリンである、と考えている。インスリンを服用する行為自体が非常に危険である。 2016年12月、イギリスのボディービルダー、ゲント・ウェイクフィールド(Ghent Wakefield)が自宅で死んでいるのが発見された。35歳であった。ノース・スタッフォードシャー(North Staffordshire)の検死官、イアン・スミス(Ian Smith) は、ウェイクフィールドの死因について「可能性が最も高いのはインスリンの乱用にあるだろう」と推測している。 また、「マット・フィッズの言うとおり、ピアーナの死因がインスリンにあるとすれば、議論が沸き起こるだろう。自分自身を命の危険に晒してまで、いかつく、どっしりとした筋肉を作り上げるだけの価値が本当にあるのか?」と疑問を投げかけているメディアもある。 インスリンは脂肪の合成と貯蔵を促進し、体内における脂肪分解を徹底的に抑制・阻害する最大のホルモンである。 インスリンは脂肪の蓄積を強力に促進し、空腹感を高め、体重増加を惹き起こす。たとえカロリーを制限したところで、インスリンを注射された動物には過剰な量の体脂肪が蓄積する。 インスリンの分泌を高める食事は、インスリンを注射した時と同様の作用をもたらす。 インスリンは、細胞へのブドウ糖の取り込みを促進し、脂肪細胞からの脂肪酸の放出を抑制・妨害し、肝臓でのケトン体の産生を抑制し、脂肪の沈着を促進し、主要な代謝燃料の循環濃度までも低下させる。 肥満における危険因子には、高インスリン血症(Hyperinsulinemia)が関わっている。インスリンの濃度が正常より高い場合や、インスリンの濃度がほんのわずかに上昇するだけで肥満は惹き起こされる。インスリンの分泌を阻害する薬物を投与するか、インスリンの濃度が低下すると体重は減少する。脂肪分解を抑制・妨害する作用は、インスリンにおける最も敏感な代謝作用である。空腹時でもインスリンの濃度がわずかに上昇すると、脂肪細胞における脂肪分解作業は阻害される。細胞へのブドウ糖の取り込みを刺激するには、通常の6倍のインスリン濃度が必要になり、肝臓における糖新生(Gluconeogenesis)を抑制するには、インスリンの濃度が2倍になるだけで十分である。 脂肪細胞が満杯になってしまう場合に備えて、新しく脂肪を貯蔵する場所を確保するため、インスリンは脂肪細胞を新しく作るよう信号を送る。 インスリンは身体を太らせる作用が非常に強く、ボディービルダーの多くが理想として描いている肉体の構築を実際には困難にする。 『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスン』(British Journal of Sports Medicine)に掲載された論文「Insulin as a drug of abuse in body building」(『ボディービルダーたちによる乱用薬物としてのインスリン』)では、 「インスリンの人体での半減期は4分であり、短時間で消失し、検出は非常に困難である。たとえ検出されたとしても、本人の体内から分泌されたインスリンとの区別は不可能である。それゆえ、インスリンはボディービルダーにとって非常に魅力的かつ潜在的に危険な薬物である」 「ボディービルダーたちによるインスリンの乱用はますます問題となっており、医師による監督下に無い状況でインスリンを乱用する人に降りかかる可能性のある潜在的な危険を浮き彫りにしている」 「致命傷を与えるだけの潜在能力を秘めたこの薬物は、知識が無くとも秘密裏に服用され、そのせいで診断と治療が遅れれば重大な結果を惹き起こす」 「インスリンの乱用は低血糖症につながり、昏睡や死につながる」 と述べ、筋肉を肥大させる目的でのインスリンの服用行為は非常に危険である、と結論付けている。
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ボディービルダーとインスリンの乱用
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「インスリン」の記事における「ボディービルダーとインスリンの乱用」の解説
2017年8月8日、アメリカ合衆国のボディービルダー、リッチ・ピアーナが、散髪の最中に突然倒れた。ピアーナは意識不明の状態が2週間以上続いたまま、8月25日に死亡した。ピアーナの死因については剖検で公式に「不明」とされている が、インスリンの過剰摂取を疑う声がある。インスリンは膵臓のβ細胞で産生されるペプチドホルモンであり、身体における同化作用を持つホルモンとみなされている。インスリンは細胞内へのブドウ糖の取り込みとブドウ糖による代謝を促し、それに伴って血糖値が低下する。 ハーヴァード大学医学校(Harvard Medical School)の精神科教授で医学博士のハリスン・ポープ(Harrison Pope)によれば、ボディービルダーたちの間でインスリンの使用が増加しているのは確かであるという。ピアーナは2013年にYouTubeに動画を投稿し、その中でインスリンの服用は危険であることを認めた が、適切な量の糖分を摂取すれば危険は回避できる、と主張した。ボディービルダーがインスリンを服用する理由については、前述のとおり、インスリンには血糖値を低下させるだけでなく、同化作用があり、筋肉の増加を促進するからである。ポープは「インスリンはステロイドと同じく、筋肉の成長を促す同化作用が強く、ボディービルダーたちが服用している」「インスリンはすでに血中にあり、検出されることが無い」と述べた。 だが、インスリンの過剰摂取は低血糖症を引き起こし、そこから発作、昏睡、神経学的な脳の損傷、そして死につながる。また、インスリンの服用はボディービルダーたちの間で大いに人気が高まっていることが判明した。ボディービルダーがインスリンを服用しており、そのことを公言していない場合は一際危険であるという。インスリンは規制された薬物ではなく、容易に入手できる。 健康のための運動の専門家、マット・フィッズ(Matt Fiddes)は、「糖尿病患者と同じく、インスリンを服用するなら十分な量の炭水化物を食べる必要がある。さもなくば昏睡状態に陥り、死に至る」と述べ、ピアーナが命を落とす原因となった可能性が最も高いのはインスリンである、と考えている。インスリンを服用する行為自体が非常に危険である。 2016年12月、イギリスのボディービルダー、ゲント・ウェイクフィールド(Ghent Wakefield)が自宅で死んでいるのが発見された。35歳であった。ノース・スタッフォードシャー(North Staffordshire)の検死官、イアン・スミス(Ian Smith) は、ウェイクフィールドの死因について「可能性が最も高いのはインスリンの乱用にあるだろう」と推測している。 また、「マット・フィッズの言うとおり、ピアーナの死因がインスリンにあるとすれば、議論が沸き起こるだろう。自分自身を命の危険に晒してまで、いかつく、どっしりとした筋肉を作り上げるだけの価値が本当にあるのか?」と疑問を投げかけているメディアもある。 インスリンは身体を太らせる作用が非常に強く、ボディービルダーの多くが理想として描いている肉体の構築を実際には困難にする。 イギリスのボディービルダー、トリスタン・アルバーツ(Tristan Alberts)は、筋肉を肥大させる目的でインスリンを服用していた。2017年11月、彼は自宅で嘔吐した状態で倒れているところを発見された。発見時の彼は外傷性の脳損傷を起こしており、呼吸もしていなかった。彼は低血糖性昏睡(Hypoglycemic Coma)と診断され、緊急手術を受けた。アルバーツは失明しており、自力で歩いたり、食べ物を食べたり、満足に会話することすらもできなくなり、24時間に亘って介護が必要な状況になった。筋肉を肥大させる目的から、糖尿病を患っていなかったとしてもインスリンを服用しているボディービルダーもいる。 『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスン』(British Journal of Sports Medicine)に掲載された論文「Insulin as a drug of abuse in body building」(「ボディービルダーたちによる乱用薬物としてのインスリン」)では、 「インスリンの人体での半減期は4分であり、短時間で消失し、検出は非常に困難である。たとえ検出されたとしても、本人の体内から分泌されたインスリンとの区別は不可能である。それゆえ、インスリンはボディービルダーにとって非常に魅力的かつ潜在的に危険な薬物である」 「ボディービルダーたちによるインスリンの乱用はますます問題となっており、医師による監督下に無い状況でインスリンを乱用する人に降りかかる可能性のある潜在的な危険を浮き彫りにしている」 「致命傷を与えるだけの潜在能力を秘めたこの薬物は、知識が無くとも秘密裏に服用され、そのせいで診断と治療が遅れれば重大な結果を惹き起こす」 「インスリンの乱用は低血糖症につながり、昏睡や死につながる」 と述べ、筋肉を肥大させる目的でのインスリンの服用行為は非常に危険である、と結論付けている。
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