ピアノソナタ第30番とは? わかりやすく解説

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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調

英語表記/番号出版情報
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調Sonate für Klavier Nr.30 E-Dur Op.109作曲年1820年  出版年1821年  初版出版地/出版社Schlesinger 

作品概要

楽章・曲名 演奏時間 譜例
1 第1楽章 1.Satz Vivace, ma non troppo 4分00
2 第2楽章 2.Satz Prestissimo2分30秒
3 第3楽章 3.Satz Andante molto cantabile ed espressivo 1400

作品解説

2009年7月 執筆者: 岡田 安樹浩

ベートーヴェン晩年作曲技法特徴として、対位法フーガ)と変奏がしばしば指摘されるが、このOp.109以降においてはロマン的で自由な楽想中にあって圧縮されソナタ形式、という特徴指摘できよう
1820年秋頃完成した推定されるこのソナタにおいては第1楽章ストイックなまでに切り詰められ、それに対して変奏形式による第3楽章大きな広がりをもっている。

第1楽章 ホ長調 4分の2拍子4分の3拍子 ソナタ形式
8小節の主要主題の後、すぐにAdagioテンポ落として副次主題あらわれる。冒頭テンポ回復し、主要主題による展開部(第16小節~)がおかれる
ふたたびAdagioテンポ落とし主調での副次主題再現(第58小節~)を先に行い、主要主題再現(第66小節~)とコーダ楽章閉じる。第2楽章とは終止線ではなく複縦線によって区切られており、2つ楽章分かち難く結びついている
このロンド的な性格をもつ楽章を、ソナタ形式枠組みはめ込むことには無理があるかもしれないが、調性構造の点ではソナタ形式念頭に置かれていることは確かである。

第2楽章 ホ短調 8分の6拍子
この楽章もやはり、ソナタ形式的な調性構造念頭に作曲されたように思われる決然とした主要主題は、下降するバスの上成り立っており、これは第1楽章の主要主題通底している。推移(第9小節~)を経て、この推移楽想から紡ぎ出され副次主題思わしき楽想あらわれる(第33小節~)。パッセージ風であり、推移楽想との親近性からも主題性格希薄だが、調性明確に属調(ロ短調)をとっている。
展開部(第66小節~)はロ短調での主要主題開始されバス声部動機がオクターヴ・トレモロのオルゲル・プンクト上に展開された後、ウナ・コルダの指示コラール風の楽想転じる
再現部(第105小節~)では推移大幅に縮小され簡潔に主題主調再現終えて楽章閉じる。

第3楽章 ホ長調 4分の3拍子
属調へむかう前半8小節と、属調から主調落ち着く後半8小節それぞれ反復される、計32小節による主題に、6つの変奏がつづく。
第1変奏ワルツ風の単純な3拍子伴奏の上に、音型的な変奏が行われる。
第2変奏和声的変奏で、前半後半異な手法によって変奏される。
第3変奏:4分の2拍子へと拍子変化させ、和声的枠組み保持しながらも、第2変奏以上に主題旋律から離れた、2声対位法的な変奏
第4変奏:8分の9拍子で、「主題よりもややゆるやかテンポで」と指示されている。主題和声的枠組み保たれているものの、それとわかるような動機や音型はもはや姿をあらわさない。3声部ところにより4声部書法による模倣的部分と、和音トレモロ分散和音という2つ対照的な性格による変奏
第5変奏:2分の2拍子となり、3声の対位法的理によって開始される拍子選択からも、古風なフドート様式意識したのかもしれないが、すぐに完全8度連続(第119小節)があらわれてしまうことなどからも、厳密な意味での対位法ではなくそうした性格をもっているという程度のものであろう
第6変奏4分の3拍子で、4声部書法開始され、はじめの4小節内声主題旋律線が回帰する属音二重トリル低音域や高音域に絶え間なくあらわれる、やはり属音による長大トリルの上や下に主題断片あらわれる。最後に主題が完全な形で再現され楽曲閉じる。
アリア風の主題と、旋律線から離れたいくつもの和声的技巧的変奏、そして最後主題回帰などは、バッハの『ゴールトベルク変奏曲』を思い起こさずにはいられないまた、一度着手しながらも、この当時作曲中断していた『ディアベリ変奏曲』との関連見過ごすことはできまい


ピアノソナタ第30番 (ベートーヴェン)

(ピアノソナタ第30番 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 04:15 UTC 版)

ピアノソナタ第30番(ピアノソナタだいさんじゅうばん)ホ長調作品109は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン1820年に作曲したピアノソナタ

概要

ベートーヴェンの書斎。Johann Nepomuk Hoechle画、1827年。

大作「ハンマークラヴィーアソナタ」を完成したベートーヴェンが続く作品109のピアノソナタに着手したのは1820年の初頭で、これは最後の3つのピアノソナタ(第30番、第31番第32番)を出版したシュレジンガーとの交渉が行われるよりも前のことであった[1]。曲の原型となったのは小品もしくはバガテルであり[1]、フリードリヒ・シュタルケからピアノ作品集『ウィーンのピアノフォルテ楽派』への楽曲提供を依頼され、既に取り掛かっていた『ミサ・ソレムニス』の仕事を後に回す形で作曲が行われた作品であった。同年4月のベートーヴェンの会話帳には「新作の小品」との記載があり、幻想曲調の間奏曲に中断されるバガテルという楽曲の構成からは、これが作品109の第1楽章となったのであろうことが窺われる[2][3]。ベートーヴェンの秘書を務めていたフランツ・オリファが、この「小品」をシュレジンガーの求めるソナタの開始楽章にしてはどうかと提案したとされる[4]。結局、シュタルケに提供されたのは11のバガテル 作品119の第7曲から第11曲であった[2]

ジークハルト・ブランデンブルクは、当初構想されていたのが第1楽章を欠いた2楽章から成るソナタであったとする説を提唱している。第1楽章と他の楽章を結びつける動機要素が、明らかに後になってから付け加えられたものだからである[5]。一方、アレグザンダー・ウィーロック・セイヤーはホ短調のソナタの構想は発展することなく終わり、作品109とは全く関係がないとする立場を取っている[6]

第3楽章のために最初に書かれたスケッチは6つの変奏を伴う変奏曲であったが、その後9つの変奏に改められ、最終的に6つの変奏に落ち着いた[7]。9つの変奏が設けられていた稿での個々の変奏の性格は、出版された最終稿のものに比べると際立っていないが[8]、ケイ・ドレイファスはその時点で既に「主題の探索と再発見の過程」が示されていると指摘している[9]

このソナタの完成が1820年の秋であったのか、または1821年になってからであったのかははっきりしていない。1820年9月20日にシュレジンガーに宛てて送られた書簡では、最後の3つのソナタのうち最初の作品の「完成」が近いことが語られている[10]。しかし、ここでの「完成」が意味するところが構想の決定であるのか、送付可能な浄書譜の完成であるのかは不明である[11]。初版譜はベルリンのシュレジンガーから出されたが、作曲者が病床にあり適切な校正を行うことが出来なかったため、数多くの誤植が残されたままだった[3][注 1]。作品は当時18歳だったマキシミリアーネ・ブレンターノに献呈されている[10]。1821年12月6日にしたためられた献呈の句には、作曲者がブレンターノ家に抱いていた深い愛着の情が綴られている[1]

楽曲構成

第1楽章

第1楽章冒頭の自筆譜。
Vivace, ma non troppo 2/4拍子 ホ長調

ソナタ形式[12]。第1楽章は速度と拍子の異なる楽想をひとつにまとめあげており[12]、当時のベートーヴェンが関心を持っていた挿入節的な構成概念が反映されている[1]。これは同時期に作曲が進められた『ミサ・ソレムニス』やこの後に続くピアノソナタにも見られる特徴である[13]。無駄のない形式の中に込められた曲の内容は幻想的で、それまでのベートーヴェンのピアノソナタには見られなかった柔軟性が示されている[12]。序奏はなく、第1主題が2/4拍子でヴィヴァーチェマ・ノン・トロッポで提示される(譜例1)。この第1主題はピアノソナタ第25番の第3楽章の主題との関連を指摘されている[14][15][16]

譜例1


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 2/4 \tempo "Vivace, ma non troppo. Smpre legato." \partial 4
    <<
     { gis'4_\markup { \dynamic p \italic dolce } b e, gis cis, e <fis dis> }
    \\
     { gis16( b8.) b16( fis8.) e16( gis8.) gis16( dis8.) cis16( e8.) e16( b8.) a16( b8.) }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \major \time 2/4 \clef bass
    r8 e,16( b') r8 dis16( dis,) r8 cis16( gis') r8 b16( b,) r8 a16( e') r8 gis16( gis,) r8 gis,16( gis')
   }
  >>
 }

開始からカデンツを経ないままわずか8小節後に現れる第2主題は[1]、第1主題とうってかわって3/4拍子のアダージョエスプレッシーヴォである(譜例2)。

譜例2


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 3/4 \tempo "Adagio espressivo."
    <<
     {
      s2. fisis'8\f <gis~ e~ cis~ gis~> <gis e cis gis> fis16-.\p( e-.)
      <dis fis,>16( << <cis fis, e>) { s32 s32\cresc } >> <dis fis, dis>16-.\! ( <e b! e,>-.) s2
     }
    \\
     {
      \set tieWaitForNote = ##t
      \grace { \stemUp a,!32~[ bis~ dis~ fis~] } \stemNeutral <a!~ fis~ dis~ bis~ a~>4\f <a fis dis bis a>8\p
      gis16-.( fis-.) <e cis>\cresc( <dis bis!>\!) <e cis>-.( <fis bis, gis>-.) s4. cis8 s4 fis16\p( b, fis' e dis4)
     }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \major \time 3/4 \clef bass
    <<
     {
      \grace s8 d,,8\rest \stemUp dis'16-.^\( e-.\) \clef treble fis-.( gis-. a8) gis16 a gis fis \clef bass
      d,16\rest e cis'[ dis] \clef treble e fis <g ais,>8 \clef bass s4 s2
     }
    \\
     {
      s8 <bis, a fis>8 r <dis bis!> <e cis>16( fis) e-.( dis-.)
      s8 <gis, e>8 s4 <dis' b!>16( <cis ais>) b-.( <b gis>-.) <b dis,>8[ <b gis>] <b fis>[ <dis b fis>]
     }
    >>
   }
  >>
 }

14小節の提示部を終え、曲は第1主題に基づく展開部となる[12]。中音域から長いクレッシェンドを経つつ音量を増して高音域へと昇っていき[17]、クライマックスに達するとそのまま2オクターヴ高く第1主題が再現される[12]。その後ただちに、やや変化を加えられた第2主題の再現が続く。66小節目からはコーダであり[18]、専ら第1主題を扱って最後は静かに楽章を閉じる。

エトヴィン・フィッシャーは、2つの主題の速度記号の落差は外見上だけのものであり、全体が一つの型として作られたかのように即興的に演奏されねばならないと講義している。グレン・グールドはこの第1楽章を高く評価していた。

第2楽章

Prestissimo 6/8拍子 ホ短調

ソナタ形式。第1楽章からは切れ目なく演奏される。楽章中で用いられる素材はフォルテッシモで出される譜例3の第1主題の中に集約されている[12]

譜例3


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \minor \time 6/8 \tempo "Prestissimo."
    <<
     {
      g'4.~(\ff g8 e b') \stemDown b4.~( b8 g e') \stemUp e4( fis8 g4 fis8) e4.( dis4) r8
      c4.~( c8 a e') e4.~( e8 b b') b( c a g fis b) \stemDown e,4 b8\rest b4\rest b8\rest
     }
    \\
     { s2. s2. r4 r8 c4. fis,2. s2. s2. e'4. dis s4 }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \minor \time 6/8 \clef bass
    <e,, e,>2._\markup { \italic { ben marcato } } <d d,> <c c,>4. <a a,> <b b,>2. <a a,> <g g,> <fis fis,>4. <b b,> <e e,>4 r8 r4 r8
   }
  >>
 }

第1主題から導かれる第2主題はロ短調に出されるが(譜例4)[12]、主題の持つ性質によりここでは通常のソナタ形式に見られるような主題間の対比は完全に失われている[19]

譜例4


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key e \minor \time 6/8
    <<
     {
      \override DynamicLineSpanner #'staff-padding = #4.0
      \override DynamicLineSpanner #'Y-extent = #'(-0.0 . 0.0)
      \override TextScript #'Y-extent = #'(-1.0 . 1.0) 
      \once \override NoteColumn #'force-hshift = #-2.0
      cis'4.~\p cis8 d e d4.~ d8 e fis e4\cresc( fis8 g4 fis8 e4 d8 cis4 d8\!) }
    \\
     { b8 fis ais fis4.~ fis8 fis b fis4.~ fis ais4 b8 cis8 fis,4~ fis4. }
    >>
   }
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key e \minor \time 6/8 \clef bass
    <<
     { fis,4. ais8 b cis b4.~ b8 cis d fis, cis' d fis, e' d fis, cis' b fis ais b }
    \\
     { fis2. fis2. }
    >>
   }
  >>
 }

展開部ではまず第1主題のバスの音型がカノン風に処理される[12][14]。その後静かな推移を見せるが、突如強奏で第1主題が回帰して再現部となる。第2主題はホ短調となって現れ[12]、ごく短いコーダを経て勢いよく終結する。

第3楽章

Andante molto cantabile ed espressivo 3/4拍子 ホ長調

変奏曲形式[12]。主題と6つの変奏からなる。全曲の重心のほとんどはこの第3楽章に置かれており、変奏曲がこれほどの比重を占めたのはベートーヴェンのピアノソナタでは初めてのことであった[12]

主題: 3/4拍子

「じゅうぶんに歌い、心の底からの感情をもって」(Gesangvoll, mit innigster Empfindung)と付記されている[17]。ゆったりとしたテンポで静かに曲が開始される(譜例5)。3拍子の2拍目に付点音符が置かれることにより、主題にはサラバンドのような性格が与えられている[1][14][20]

譜例5


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 3/4
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { \italic { Gesangvoll mit innigster Empfindung. } } 
      \line { Andante molto cantabile ed espressivo. }
     }
    }
    <<
     {
      \override DynamicLineSpanner #'staff-padding = #4.0
      \override DynamicLineSpanner #'Y-extent = #'(-0.0 . 0.0)
      \override TextScript #'Y-extent = #'(-1.0 . 1.0) 
      gis'4^\markup { \italic { mezza voce } }( e4. fis8) <dis fis,>4 <b a fis>2 gis'4( e4. fis8) fis4\<( ais b)
      \grace { b,32[( e gis] } b4\! e,4.\> gis16 fis\!) dis4 b \grace { a16[ b a32 gis] } a4)
      gis_\markup \italic crescendo e'4. ais,8 \clef bass ais2\p( b4)
     }
    \\
     { b4 b cis s2. <b gis>4 b cis dis <e cis> <fis dis> r b, cis s2. s2. g4( e dis) \bar ":|" }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \major \time 3/4 \clef bass
    <<
     { e,4( gis a b cis dis) e( gis ais b fis b,8 a!) gis4( gis') a, s2. s4 e'2 e,4( g b)  }
    \\
     { s2. s2. s2. s2. gis2( s4 <fis' b,> <e cis> <fis dis>) e <cis cis,> <c c,> c,2 b4 \bar ":|" }
    >>
   }
  >>
 }
第1変奏: 3/4拍子

モルトエスプレッシーヴォの指示の下、ワルツ様のリズムに乗った歌謡的変奏[14][21][22]。曲の雰囲気や主題のテンポは主題から引き継がれ、装飾音が巧みに使われている。

譜例6


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 3/4
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { VAR. I. }
      \line { Molto espressivo. }
     }
    }
    \slashedGrace b'8 << b'2 { s8\> s8\! s4 } >> e,8.fis16 e4( dis~ dis8.) b16
    \slashedGrace b8 << b'4.-> { s8\> s8\! s8 } >> dis,8( \times 4/5 { e32[ fis e dis e } fis16 gis]) gis4\cresc( fis4.\! dis8)
   }
   \new Staff { \key e \major \time 3/4 \clef bass
    \grace s8 e,,,4 <b'' gis e b> <b gis e b> fis, <b' a fis b,> <b a fis b,> gis, <b' gis e b> <b gis e b> a, <b' fis dis b> <b fis dis b>
   }
  >>
 }
第2変奏: 3/4拍子

主題は16分音符によるモザイク状の音型の中に隠される[14]。さらにこの変奏と対照的な威厳ある変奏が置かれ[21]、2つの性格の異なる変奏が入れ替わりながら進められていく。

譜例7


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff = "up" { \key e \major \time 3/4
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { VAR. II. }
      \line { Leggieramente. }
     }
    }
    r16 b gis' r r e b r r cis fis r r dis 
    \change Staff = "down" fis, \change Staff = "up" r r \change Staff = "down" \stemUp e b' \change Staff = "up" r r \change Staff = "down" b fis \change Staff = "up" r 
   }
   \new Staff = "down" { \key e \major \time 3/4 \clef bass
    e,16[ r r e'] gis[ r r gis,] a[ r r a'] \override Stem.details.beamed-lengths = #'(5.5) b[ r r b,] cis[ r r cis'] dis[ r r dis,]
   }
  >>
 }
第3変奏: 2/4拍子

対位法を駆使したアレグロ・ヴィヴァーチェでのテンポの速い変奏。開始部分の譜例8で示されるパッセージは左右の手を入れ替えて奏され、その後も手の交代が続けられていく。

譜例8


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 2/4
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { VAR. III. }
      \line { Allegro vivace. }
     }
    }
    e8\f r gis r b r dis r e r gis r ais\sf ais b r
   }
   \new Staff { \key e \major \time 2/4 \clef bass
    gis,,16 b a gis e gis fis e dis fis e dis b dis cis b gis b a gis e gis fis e cis e dis cis b cis d dis
   }
  >>
 }
第4変奏: 9/8拍子

「主題よりいくらか遅く」(Etwas langsamer als das Thema)と指示されている[17]。第3変奏から大きく趣を変え、幻想的な雰囲気をたたえる[21]。2声から4声の声部が対位法を用いてまとめられていく、温かみのある変奏。

譜例9[注 2]


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 9/8
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { VAR. IV. }
      \line \fontsize #-1 { \italic { Etwas langsamer als das Thema. } }
      \line \fontsize #-1 { Un poco meno andante ciò è un poco più adagio come il tema. }
     }
    }
    <<
     { s4._\markup \italic piacevole e~_\( e8 gis fis\) r4 r8 a4.~ a8( cis b) }
    \\
     { b16 dis e gis, a b s2. e,4.( dis) fis16( gis a dis, e fis) }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \major \time 9/8
    <<
     { gis4 r8 \clef bass s4. gis, a16( b cis fis, gis a) b,4 r8 }
    \\
     { s4. gis'16( a b e, fis gis) b,4 r8 r4 r8 fis16( gis a fis gis a) b,4 r8 }
    >>
   }
  >>
 }
第5変奏: 2/2拍子

スタッカートを多用した快活な対位法による変奏。リズムによる推進力に支えられたこの変奏は多声的なコラールのような印象を与える[8]

譜例10[注 3]


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 2/2
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { VAR. V. }
      \line { Allegro, ma non troppo. }
     }
    }
    \clef bass
    <<
     { 
      \override MultiMeasureRest #'staff-position = #6
      R1 a2 fis~ fis4 gis8 dis e4 d cis'2 a
     }
    \\
     { gis2 e~ e4 fis8 cis dis4 b b'2 gis^~ <gis cis,>4 a8 e fis4 c }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \major \time 2/2 \clef bass
    d4\rest e,-. gis2\sf~ gis4 fis-. a2\sf~ a4 gis-. b2\sf~ b4 a c \stemDown e,
   }
  >>
 }
第6変奏: 3/4拍子

カンタービレと指定され、まず内声部に主題が奏される(譜例11)。

譜例11


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key e \major \time 3/4
    \tempo \markup { 
     \column {
      \line { VAR. VI. }
      \line { Tempo primo del tema. }
     }
    }
    <<
     { b'4-.^\markup \italic Cantabile ( b-. b-.) b-.( b-. b-.) b8[ b] b[ b] b[ b] b[ b] b[ b] b[ <b' fis dis>] }
    \\
     { gis,4 e fis dis b2 gis'4( e fis) fis( ais b8 b) }
    >>
   }
   \new Staff { \key e \major \time 3/4 \clef bass
    <<
     { b,,4-.( b-. b-.) b-.( b-. b-.) b8[ b] b[ b] b[ b] b[ b] b[ b] b[ b] }
    \\
     { e,4 gis fis a fis gis e( gis fis8 e) dis4( cis b8 a'!) }
    >>
   }
  >>
 }

4分音符で始まったリズムの刻みは8分音符、三連符の8分音符、16分音符、32分音符と細かくなっていき、ついにトリルにまで細分化される[17]。12小節目から両手に現れたトリルは低音部に移され、17小節目からの荒れ狂うアルペッジョを経ると高音で鳴り続けるトリルの上に主題が明滅する(譜例12)[8]

譜例12


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key e \major \time 3/4
    <<
     { \ottava #1 \set Staff.ottavation = #"8" r8 b''' r b r cis }
    \\
     { b,2.\startTrillSpan }
    >>
   }
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key e \major \time 3/4
    b,16[ d32 cis] b cis b a gis[ a gis fis] eis fis eis d \clef bass cis[ d cis b] a b a gis
   }
  >>
 }

最後に次第に弱まりながら主題が原型のまま回想され、静かに曲を閉じる。

このように最後に主題がそのまま回想されて終わる変奏曲であるという特徴から、この楽章はバッハの『ゴルトベルク変奏曲』との類似性を指摘されている[1][14]

脚注

注釈

  1. ^ ウィーンアルタリアから初版が出版されたとする文献もある[10]
  2. ^ 譜例では一部のタイ、スラーが省略されている。
  3. ^ 譜例では一部のタイが省略されている。

出典

  1. ^ a b c d e f g Beethoven: The Last Three Piano Sonatas”. Hyperion Records. 2015年2月15日閲覧。
  2. ^ a b Kinderman, William (1995). Beethoven. Berkeley & Los Angeles: University of California Press. p. 218. ISBN 0-520-08796-8. https://books.google.co.jp/books?id=DmAM_yZK8kUC&redir_esc=y&hl=ja 
  3. ^ a b Meredith, William (Dec 1985). “The Origins of Beethoven's Op. 109”. The Musical Times 126 (1714): 713–716. JSTOR 965193. 
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  5. ^ Sieghard Brandenburg. Die Skizzen zur neunten Symphonie, p. 105.
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参考文献

外部リンク


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