コストダウンを重視した設計方針
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「福島第一原子力発電所7、8号機の増設計画の経緯」の記事における「コストダウンを重視した設計方針」の解説
1990年代は国内外の原子力発電建設需要が伸び悩み、また、日本政府は大口需要家向け電力自由化に先立って、電気料金の引き下げを求めていた。これに対応するため東京電力は7・8号機の建設費を従来より削減することを決め、様々な手を打って行った。 1995年には高額部材については東京電力が直接購入してメーカーに支給することとした。この背景として、当時東京電力は海外製品の活用に目をつけていたことがある。しかし、従来の発注方式はプラント一式を部材調達まで含めて一括で発注する方式であったため、受注企業に間接的に海外製品を奨励することが限度であった。しかし、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の建設に際して試験的にコンデンサーチューブを直接購入したところ従来に比較し10%のコスト削減が達成された。分離発注方式のデメリットは、これまで一括発注することによって、メーカー側は部材欠陥、品質トラブルに対する責任も取っていたのが、東京電力の責任も生じてくることで、東京電力の品質管理能力も問われることになる。それでも1995年当時は分離発注方式の第一弾として本発電所の増設工事に適用を考えていた。 また、メーカーには建設費を30%削減すること求めた。これに応えるため、1998年10月、東芝と日立は建設費削減を目的に改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の設計を標準化することで合意し、受注も共同で実施、その第一弾として本発電所の7・8号機に狙いを定めた。両社は共にABWRのメーカーであるが細部の設計や使用資材では異なっていた。設計を共通化することで、設計期間を短縮し、資材メーカーの標準化・コスト削減上も有利で建設管理やメンテナンスの効率化にもつながるからである。ただし、設計共通化だけでは30%削減を達成出来ない可能性もあるため、東京電力は原子炉系、蒸気タービン系など個別に得意な方に割り振る方針も同時に明らかにしていた。 採用炉がABWRと発表されて以降、本発電所での建設に当たり追加・更新される具体的な技術仕様等についてはあまり明らかになっていなかったが、一部の方針は1999年11月17日の『日本経済新聞』で榎本聡明(当時常務)が示している。ポイントは上述のように建設コストの低減であるが、その方法が問題だった。これに先立ち、原子力建設部長の夏目暢夫(1995年当時)は『日本経済新聞』の取材に対して次のように答えている。従来は工法を改善し、設計を見直して設備を統合、簡素化するなど資材を削減してきたが夏目は「こうしたやり方は限界に近づいた」と認識し、今後の対応策として設計標準化を挙げ、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の基本設計をそのまま他の地点に利用することを視野に入れ始めていた。この方法はフランス電力公社が1970~80年代から得意としていた手法でもあり、そこから学んだという。その後榎本は柏崎刈羽6、7号機の基本設計をそのまま流用する候補として本発電所7、8号機を挙げ、新規技術の開発を控えることを方針として明らかにした。これにより、通常1基当たり約4000億円と見積もられる設計費が約20%削減出来ると見込んだ。共通化するコンポーネントは下記で、設置許可申請に必要な設計項目から選ばれていた。 配管、ボイラー、タービンなど各機器のレイアウト 個別機器の性能、熱・水量バランス 災害に備えた安全設計 共通設計化による課題としては岩盤の高さで、本発電所の方が柏崎刈羽に比較して浅いが、基礎は柏崎刈羽と同じ深度まで掘り下げて基礎を構築する。掘削土量は増加するが総合コストは削減できる。 日経産業新聞が2000年1月4日に報じたところでは、この時期、東京電力は2000年3月のスタートを控えていた大口電力の自由化を強く意識し、全部門でコスト切り下げの検討を進めていた。当時の原子力部門がコストに占める割合は46%で火力部門と同等であり、IPP(独立発電事業者)として新規参入を検討していた昭和シェルは「業務用で三割以上は安い販売価格で電力会社に攻勢をかける」と宣言するなど、その脅威は大きく評価された。一方、1996年に通産省(当時)が可能と検討結果を公表していたため、新型機の設計を工夫するのみならず、既存設備の60年運転を積極的に進める姿勢を見せていた。
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