オートマティカ、解析機関
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 06:59 UTC 版)
「レオナルド・トーレス・ケベード」の記事における「オートマティカ、解析機関」の解説
トーレスは1913年に発表した論文"オートマティカに関する小論"(Ensayos sobre Automática)で「オートマティカ」(自動機械、西: automática)と呼ばれる機械の提案とその実現可能性の検討を行った。これは人間のように知的な行動を行う、あるいは人間を置き換えるような機械で、現在のさまざまな自動制御機械に相当する。この機械は、外部からの情報を取り込むセンサー、腕のように外界を操作する部分、電池や空気圧などの動力源、そして最も大切な、取り込んだ情報や過去の情報を使って「判断」を行う部分からなり、外部からの情報に応じて生物のように反応を制御し環境の変化に適応して動作を変えることができるものとして定義された。 このような外界の状況により動作を変える機械が理論的に実現可能であることを示すため、トーレスはある種の解析機関を例として用い具体的な実現方法を示した。この機械はバベッジの解析機関のアイデアをベースにトーレスが独自に考案したもので、電気機械的なメカニズムを用い、外部の数値データを取り込み内蔵されたプログラムで値を判断し処理を変えながら計算を行う。論文では理論上の機械とされているが、実際にはメカニズム全体の具体的なデザインが示されている。 論文内では、a、y、z の順に並ぶデータ列から a × (y — z)2 を計算する機械が例として用いられている。最初に必要となるさまざまな部品、具体的には数値を格納するレジスタ、組み込みの関数テーブルを用いた乗除算などの演算装置、数値の大小比較を行う装置、入出力ゲート、多段スイッチによるセレクタ回路などの電気機械的な実現方法が示され、続いて制御プログラムを含めた全体構成が説明されている。演算部は減算装置、乗算装置、数値の比較装置(>、=、<)、2本のレジスタ、データの入力およびデータ出力を行う部分からなり共通バスで接続される。それらを制御するプログラムは回転する円筒上に張られた導体のパターンとして表現され、数値の大小比較による条件分岐を含んでいる。 さらに、全体の回路構成や16ステップからなるプログラムの詳細な説明以外に、トーレスの論文には世界で最初と言われる浮動小数点演算の提案も含まれる。 その後、1914年にトーレスは実際に p × q — b を計算する解析機関のプロトタイプの設計と作成も行った。 条件分岐命令を含んだプログラムを実行できる汎用の電気式/機械式コンピュータが現れるのは1940年代であり、トーレスの論文はこれよりはるかに早い。トーレスの論文はスペイン語とフランス語のみで発表されたこともあり英語圏ではほとんど知られず、その後のコンピュータ開発に大きな影響を与えることはなかった。コンピュータの歴史の研究者であるランデル(Brian Randell)は、トーレスが実際の歴史より20年以上早く電気機械式の汎用コンピュータを実現可能だったかもしれず、実際のニーズやモチベーション、資金力も持っていたと指摘している。 また論文の発表後、1920年にトーレスは電気機械式アリスモメータ(Arithmometer)と呼ばれる計算機械を作成しパリで発表を行った。この計算機械はプログラム可能なものではなかったが、計算を行う装置とタイプライターとを電線でつなぎ、タイプライターから数式(例えば"532 × 257")と"="を打つだけで自動的に計算を行い答えの数値を印刷することができた。ユーザインタフェースからみれば、この機械はキーボードを入力インターフェースとする現在のコンピュータの前身と見なすことができる。また利用形態としてみれば、電線の延長によるリモートでの計算も想定しており、通信回線を利用する現在のオンラインシステム等の初歩的なものと考えられる。さらに、電気機械式アリスモメータについての1920年の論文には、さまざまな「オートマティカ」(自動機械)において、連続的な数値を有限の離散的な値として表現し処理と判断を行うことの必要性が指摘されている。これは現在のデジタル処理に相当する。トーレスは当時としては非常に先進的な多くのアイデアを持っていた。
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