イングランド情勢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 13:50 UTC 版)
双方の集団が接近して立見席に陣取った場合には本格的な紛争へと発展し、興奮が高まると集団で相手に猛然と突撃し、相手を牽制する威嚇行為に及ぶ。両者が最接近する地点ではある程度の突きや蹴りの応酬が行われるのが常であり、こうした対決は均衡が回復するまで続けられる。ただし、新聞メディアにより「凄まじい暴動」と報じられる割には軽傷で済むことが常である。 デズモンド・モリス イングランドのサポーターによる暴動は1960年代頃から頻発するようになり、サポーター同士による抗争だけでなく、遠征先の相手チームのスタジアムや近隣の商店街、移動に使用する鉄道やバスなどの公共の交通機関への破壊活動などを通じて社会問題として認識されるようになった。暴力行為に及ぶサポーターの多くは若い失業者であった。この背景には、労働者階級の若者達がテレビ放送の影響もあり、自分達の応援するクラブや選手達を崇拝の対象と見做し、日常の捌け口としてスタジアムでの暴力行為に及んでいたこと、テレビ放送により映し出される暴力的なサポーターの姿に感化され、他のサポーター達も同じように振舞うようになったことなどが挙げられる。 これらの対策として、スタジアムでは大量の警官が動員され、暴動の首謀者を捕獲するために特別チームが編成された。また他の都市から遠征してくるサポーター集団に対しては、スタジアム外でトラブルを派生させないように交通機関からスタジアムまでを警官により護送が行われ、スタジアム内では観客同士のトラブル派生をさけるために別々の区画に隔離がされた。 その一方でサポーターによる暴動は、鉄道や飛行機を使用した低料金での旅行が可能になり、行動範囲が広がったことから、遠征先となるヨーロッパ各国のスタジアム周辺でも行われ、1974年5月29日にオランダのロッテルダムで行われたUEFAカップ決勝第2戦・フェイエノールト対トッテナム・ホットスパー戦や、1975年5月28日にフランスのパリで行われたUEFAチャンピオンズカップ決勝・バイエルン・ミュンヘン対リーズ・ユナイテッド戦、1980年6月12日にイタリアのトリノで行われたUEFA欧州選手権1980グループリーグ、イングランド対ベルギー戦などで暴動を引き起こした。 主なトラブル 日付対戦カード大会開催地備考出典1974年5月 トッテナム対フェイエノールト UC 決勝 オランダ・ロッテルダム 負傷者200人、逮捕者70人 1975年5月 リーズ対バイエルン CC 決勝 フランス・パリ 負傷者40人、逮捕者27人 1976年9月 サウサンプトン対マルセイユ CWC 1回戦 フランス・マルセイユ 負傷者200人 1977年9月 マンチェスターU対サンテティエンヌ CWC 1回戦 フランス・サンテティエンヌ マンUに罰金7,000ポンド、中立地でのホームゲーム開催 1980年6月 イングランド対ベルギー EURO イタリア・トリノ 罰金8,000ポンド 1980年9月 ウェストハム対カスティージャ CWC 1回戦 スペイン・マドリード ウェストハムに罰金、ホームゲームの無観客開催 1981年5月 イングランド対スイス WC 予選 スイス・バーゼル 負傷者16人、逮捕者59人 1981年9月 イングランド対ノルウェー WC 予選 ノルウェー・オスロ 逮捕者20人 1982年9月 イングランド対デンマーク EURO 予選 デンマーク・コペンハーゲン 逮捕者41人 1983年11月 トッテナム対フェイエノールト UC 2回戦 オランダ・ロッテルダム 負傷者30人、逮捕者40人、罰金8,000ポンド 1983年11月 イングランド対ルクセンブルク EURO 予選 ルクセンブルク・ルクセンブルク 負傷者2人、逮捕者18人、罰金10,000ポンド 1984年5月 トッテナム対アンデルレヒト UC 決勝 ベルギー・ブリュッセル トッテナム側に死者1人 1980年代に入り、長引く経済不況の対策としてマーガレット・サッチャー首相は、財政支出の削減と通貨供給量の縮小によるインフレの抑制、国営企業の民営化と経済活動への規制緩和、労働組合運動を雇用法の改正により規制、税制改革、行政改革、教育改革、福祉制度見直しなどの改革を実施したが、これにより大量の失業者を生み出すことになった。1985年当時のイギリスの失業率は13%を記録していたが、産業の構造転換に乗り遅れたリヴァプールなどの工業都市の若年失業率は30%に達しており、社会全体の閉塞感が暴動の頻発に繋がっているとの指摘がされた。
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