イギリスの神秘劇
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/03/13 08:46 UTC 版)
イギリスには完全(またはほぼ完全)な聖書を題材とした戯曲集が4つ残っている。これらはサイクルとして呼んでさしつかえないだろう。 ヨーク・サイクル(York Mystery Plays) - 最も完全な形で残っているもので、48の神秘劇(パジェント)から成っている。 ウェイクフィールド・サイクル(Wakefield Cycle) - 32の神秘劇から成っている。Towneley家のTowneley Hallに長年保管されていた1つの写本の中にあったもので、「Towneleyサイクル」と呼ばれることもある。現在Huntington Library of Californiaに所蔵されている。 ルーダス=コヴェントリー・サイクル(またはHeggeサイクル)(N-Town Plays) - 42の神秘劇から成っている。現在では、少なくとも3つの相互関係のない神秘劇を編纂したものであることがわかっている。 チェスター・サイクル(Chester Mystery Plays) - 24の神秘劇から成っている。エリザベス朝に古い中世のものを復元したものであることがわかっている。 他にはコヴェントリーで演じられた新約聖書サイクルの2つのパジェント、ノリッチとニューカッスル・アポン・タインでのパジェントがそれぞれ1つずつ現存している。さらに、マグダラのマリアの生涯を描いた15世紀の劇、パウロの改宗を描いた16世紀の劇が残っていて、ともにイースト・アングリアから出てきたものである。中英語劇の他に、コーンウォール語の劇も3つ、ヨーロッパ大陸にもいくつかのサイクルが残っている。 これらの聖書劇は、「ルシファーの失墜」「人類の創世と堕落」「カインとアベル」「ノアの洪水」「アブラハムとイサク」「キリストの降誕」「ラザロの復活」「キリストの受難」「キリストの復活」と内容は様々である。他のパジェントには、「モーセ」「予言者の行列」「キリストの洗礼」「荒野の誘惑」「聖母の被昇天と戴冠」の話が描かれている。残っているサイクルでいうと、新しく出現した中世の職人ギルドの後援から劇が生まれた。たとえば、ヨークの織物商たちは「最後の審判の日」のパジェントを後援した。しかし、すべての町の上演がギルドとの提携でなされたわけではない。チェスター・サイクルのパジェントはギルドと関係していたが、ルーダス=コヴェントリー・サイクルの神秘劇については、ギルドと関係していた、あるいはパジェントの山車で上演されたことを示すものは何もない。おそらく現代の読者・観客に最も知られている神秘劇はウェイクフィールド・サイクルだろう。不幸なことに、Towneley写本にある劇が実際にウェイクフィールド(Wakefield)で上演されたのか、『Second Shepherds' Play』には、horbery shrogysという言及があるが(ホーベリー Horburyはウェイクフィールドの西の村)、それを確かめる術はない。『The London Burial Grounds』(1897年)の中で、著者のBasil Holmes夫人はロンドンのリーデンホール通りのSt Katherine Cree(教会)の隣にあるHoly Priory Churchが10世紀から16世紀に神秘劇を上演していたが、ロンドン主教エドマンド・ボナー(Edmund Bonner)が1542年にそれを禁止した、と書いている。。 ウェイクフィールド・サイクルは15世紀に「ウェイクフィールド・マスター」と呼ばれる匿名の作家が書いたとされている。昔の研究家たちはギルバート・ピルキントンという名前の人物が作者だと提唱したが、クレイグ他によって否定された。「ウェイクフィールド・マスター」という通称は文学史家Gayleyが住んでいた土地の名前からつけたものである。その人は教養ある聖職者であったか、あるいはウェイクフィールドの北およそ4マイルのところにあるWoodkirkの修道院出身の修道士であったと思われる。この匿名の作家がウェイクフィールド・サイクルの32の連作劇(平均384行)を書いたのかについてはまだ結論が出ず、一部の研究家たちは書いたのはせいぜい10本くらいではないかと言っている。サイクルは聖体祭の期間中に上演されたものである。教皇や秘蹟への言及が線を引いて消されていることは、プロテスタントによる編集が行われたことを示している。同様に、最後の2つの劇の間の写本の12葉がカトリック教会への言及のため破り取られている。こうした事実は、劇は遅くともヘンリー8世の統治期であるルネサンスの時代まで読まれ、上演されていたことを示唆するものである。ウェイクフィールド・サイクルの中で最も知られているパジェントは『The Second Shepherds' Pageant』である。これは羊泥棒のMakとその妻Gillを主人公にした「キリスト降誕」のバーレスクで、盗まれた子羊と人類の「救世主」(キリストのこと)をはっきりした対比させていると言っていいだろう。聖書外典の『アクタ・ピラティ』(Acts of Pilate)から派生した「キリストの地獄への降下」はヨーク・サイクル、ウェイクフィールド・サイクルの最も有名な劇である。 イギリス・ルネサンス演劇(エリザベス朝演劇とジェームズ朝演劇)の劇は神秘劇から発展した。
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