システィーナ礼拝堂
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建物
外観
システィーナ礼拝堂はレンガ造りの長方形の建物である。簡素な外観で、建築様式上の特徴も装飾もなく、イタリアでよく見られる中世からルネサンス期に建てられた教会堂と変わりはない。ファサードも行列用の入場口もなく、礼拝堂への入り口はヴァチカン宮殿内から通じる一箇所のみとなっており、システィーナ礼拝堂はヴァチカン宮殿の窓あるいは光井戸からわずかに垣間見える程度である。礼拝堂は三階建てで、一階部分がもっとも大きく、実用的な窓がはめ込まれた壁面と円天井、そしてヴァチカン宮殿へと通じる出入り口で構成されている。システィーナ礼拝堂のもっとも重要な階層といえる二階は奥行き40.9m、幅13.4mで、これは『旧約聖書』の『列王記』6章にあるソロモン王の神殿の比率と同じである[11]。円天井の高さは20.7mで、壁両側面にはそれぞれ6枚の細長いアーチ状の窓があり、片端面には2枚の窓がある。三階部分は衛士の控え室となっている。三階部分には建築途中で放棄されている、外壁のアーチ状構造物に支えられた、礼拝堂を巡る渡り通路がある。この渡り廊下の屋根からは頻繁に雨漏りが生じている。
地盤沈下とレンガのひび割れに悩まされたマッジョーレ礼拝堂を教訓として、システィーナ礼拝堂には外壁を補強する大規模な控え壁が採用された。システィーナ礼拝堂より後に建てられたヴァチカン宮殿付属の建物は、システィーナ礼拝堂とはまったく異なった外観で設計されている。
内装
システィーナ礼拝堂二階の天井は、窓上部の壁から始まる丸みの少ないアーチ状の円天井である。この円天井の最下層部分は、それぞれの窓の間にある細い装飾用の付柱から伸びる大きな三角形のペンデンティヴに接している。当初の円天井は、ピエルマッテオ・ダメリア (en:Piermatteo Lauro de' Manfredi da Amelia) がデザインした、金色の星がちりばめられた鮮やかな青一色で塗装されていた[6]。床面は建設当初の内部レイアウトに従って、大理石と色石が使用されたコスマテスク様式 (en:Cosmatesque) の飾り石張りとなっている。また、聖枝祭のような重要な式典時にローマ教皇の行列が足を進める箇所には特別な飾りが施されている。
ミーノ・ダ・フィエゾーレ (en:Mino da Fiesole)、アンドレア・ブレーニョ (en:Andrea Bregno)、ジョヴァンニ・ダルマータ (en:Giovanni Dalmata) の手による大理石のトランセンナ(彫刻が施された柵)が室内を大きく二分している[12]。このトランセンナは祭壇近くの礼拝堂関係者の場所と、巡礼者や礼拝堂を訪れる近隣住民ら一般信徒の場所を隔てるために使用されており、当初は礼拝堂の中心に置かれて礼拝堂関係者と関係者以外に同じ面積が割り当てられていた。しかしながら、ローマ教皇の随行員の増加に伴ってトランセンナが動かされ、一般信徒に与えられる場所は徐々に少なくなっていった。トランセンナの上部には一列に並んだ華美な燭台が置かれており、木製の扉がついている。かつてこの燭台は金箔で覆われており、扉も金箔が貼られた精緻な鉄製の扉だった。このトランセンナを制作した前述の芸術家たちの作品は、『カントリア』や聖歌隊席などの彫刻にも残っている。
ラファエロのタペストリ
システィーナ礼拝堂で開催されるとくに重要な式典では、両側の壁がラファエロが礼拝堂のためにデザインした「聖ペテロの生涯」と「聖パウロの生涯」を描き出したタペストリで覆われる。『福音書』と『使徒行伝』からのエピソードをモチーフとしたもので、ラファエロが描いたデザイン用の下絵『ラファエロのカルトン』10点のうち現存する7点をイギリス王家のロイヤル・コレクションが所蔵しており、1865年からロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で展示されている[13]。このラファエロのタペストリは1527年のローマ略奪で収奪されており、貴金属が剥ぎ取られヨーロッパ中に散逸してしまっていた。20世紀後半にシスティーナ礼拝堂に戻され(新しく作り直されたタペストリもある)、1983年から元通りシスティーナ礼拝堂で使用されるようになった。
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- ^ a b Carlo Pietrangeli, Foreword to The Sistine Chapel, ed. Massimo Giacometti. (1986) Harmony Books, ISBN 0-517-56274-X
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- ^ a b Pietrangeli 1994
- ^ Beck (1995)
- ^ バチカン、システィーナ礼拝堂の入場制限を検討
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