大コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/08 08:22 UTC 版)
大コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル[1][2](だいコンダクタンスカルシウムかっせいかカリウムチャネル、英語: large conductance calcium- and voltage-activated K+ channel, Big K+ channel[3][4]、略:BKチャネル)は、膜電位の脱分極とカルシウムの存在により活性化されるカリウムチャネルである。MaxiKチャネルともいう[5]。イオンチャネル一つのコンダクタンスが100~300pSと非常に大きいことを特徴とする。カルシウムの存在により活性化されるため、カリウムチャネルの中でもカルシウム活性化カリウムチャネル(KCa)に分類され[6]、KCa1.1という名称もある[7]。BKチャネルのチャネルとしての機能を持つ蛋白をコードするαサブユニットをコードするのがKCNMA1遺伝子である。KCNMA1遺伝子はヒトでは10番染色体の長腕にある10q22.3という部分に45個のエクソンがコードされている[8]。BKチャネルのBKはカリウムのコンダクタンスが非常に大きいため、Big K+に由来する[9]。
歴史
BKチャネルを流れる電流は1980年代にパッチクランプ法により細胞の興奮性を調節するカリウム電流として発見された[10]。細胞内のCa2+が上昇するとそれに応じて外向き電流を流すチャネルとして認識され、単一チャネルにおけるコンダクタンスが非常に大きいことも明らかになった[9]。その後、キイロショウジョウバエの遺伝子変異の表現型の一つであるSlowpokeがBKチャネルと関連していることが示された。ゆえに遺伝子としてはSlo1と呼ばれることがある[9]。
構造
BKチャネルは4つのαサブユニットから成る四量体によりカリウムチャネルとして機能し、補助サブユニットとしてβサブユニットやγサブユニットを有することがある。BKチャネルαサブユニットは7回膜を貫通しており、N末端側に膜貫通ドメインがS0~S6まであり、C末端側に全長の2/3をも占める細胞質ドメインがある。膜貫通ドメインのうちS0~S4は従来の電位依存性イオンチャネルの電位センサードメイン(VSD)、S5~S6がポアドメイン(PD)に対応する[5]。4つのPDが集まって一つのポアを形成する。膜を貫通するS0を持つのがBKチャネル以外の電位依存性イオンチャネルとの違いである[3]。BKチャネルではVSDとPDの位置関係がnon-domain-swappedとなっている[4]。
電位依存性イオンチャネルの電位センサーでは膜電位の変化に応じて構造が変化し、電位センサーに存在する荷電性のアミノ酸残基が移動するため、それによる電流が流れる。これをゲート電流という。典型的なShaker型K+チャネルのような電位依存性カリウムチャネルでは、ゲート電流の電荷が約12eであるが、BKチャネルでは、約4eとなっている。これは通常の電位依存性カリウムチャネルではS4に集中したアルギニン残基の正電荷がゲート電流に貢献するものの、BKチャネルではS4にあるゲート電荷に貢献するアルギニン残基が一つのみでS2やS3にゲート電流に貢献する残基が分散して分布しているためであると考えられている[5]。しかし、2022年の研究ではS4の2つのアルギニンがゲート電流の電荷であるとする有力な結果も得られている[7][11]。どちらにしろ、このような少ないゲート電流でどのようにポアが開いているのかは不明であるが、以下のgating ringを介したポア開口が考えられている[4]。
BKチャネルαサブユニットのC末端細胞質ドメインにはRCK1・RCK2という2つのドメインがある。この2領域はK+のコンダクタンスを調節する作用を持つことから、regulator of conductance of K+を略してRCKと呼ばれている[8]。この場所は4量体ではリング状になることからgating-ringと呼ばれている。gating-ringの中でもRCK1のN末端側がポア開口に重要な役割を果たしている。この部分は電位センサーや電位センサーとポアの間をつなぐS4-S5リンカーと非共有結合的に接している。Ca2+の存在下ではこの相互作用が強まって電位センサーの動きにつながり、Ca2+と電位の両方に依存するというBKチャネルの性質を可能にしている[12]。
BKチャネルのCa2+結合部位のうち、最もCa2+との親和性が高い部位はRCK2ドメインにあり、Ca2+ bowlと呼ばれている。他にRCK1にも親和性の高いCa2+結合部位が存在し、RCK1の方は電位センサードメインとの相互作用により、電位センサーが活性化状態で安定するために重要であると考えられている。一方で、Mg2+の結合部位は膜貫通ドメインとRCK1ドメインにあり、Ca2+とMg2+は個別に結合部位を持つことが示されている。ただし、RCK1ドメインにあるMg2+結合部位は親和性の低いCa2+結合部位であることも報告されており、高濃度のCa2+存在下では効果を示すものの、生理的条件下では通常Mg2+が結合していると考えられている[5]。
選択的スプライシング
BKチャネルをコードする遺伝子のうち、チャネルを構成するエクソンは27領域に分かれる。N末端とS0がエクソン1に、S1~S6がエクソン2~9に、残りのC末端がエクソン9~27にコードされている。C末端のうち、RCK1ドメインはエクソン9~12に、RCK2ドメインはエクソン21~24にコードされる[5]。
エクソンのうち、一部のエクソンで転写が起こらずスキップされることを選択的スプライシングといい、BKチャネルでも選択的スプライシングによる多様性が確認されている。なかでもエクソン19~23の領域の研究が進められている。この領域ではエクソン19~23のうち21・22がない状態が最もmRNA量が多い。それに21が存在するe21(STREX)、22が存在するe22、23が欠失して24で終止コドンを形成してしまうΔ23、などが知られている[5]。
補助サブユニット
BKチャネルαサブユニットの補助サブユニットとして4つのβサブユニット(β1,β2,β3,β4)と4つのγサブユニット(γ1,γ2,γ3,γ4)が発見されている[13][9]。
βサブユニットは2回膜貫通タンパク質で、N末端とC末端が細胞質にあり、二つの膜貫通部分をつなぐ細胞外領域はやや長く、ループを形成する[5]。細胞外のループにはシステインが豊富に含まれている[9]。以下の4つのサブユニットがある。
- β1(KCNMB1) - Ca2+存在の下ではαサブユニットのみの場合よりも負の電位で活性化可能にできる、つまりコンダクタンス-電位関係が左方にシフトする。また、脱活性化が遅くなり、不活性化を起こすようにする能力を持たない[9]。
- β2(KCNMB2) - β1と同様、Ca2+の存在下でコンダクタンス-電位関係を左方シフトさせる。β2のN末端を介してαサブユニットを不活性化させる。不活性化が安定しているためにCa2+が存在しているとほとんどのチャネルは開口しなくなる[9]。
- β3(KCNMB3) - 選択的スプライシングによりβ3a~β3dまで4種類で発現しており、いずれも外向き整流性に電流を流すようにすることが明らかになっている[9]。
- β4(KCNMB4) - Ca2+非存在下ではコンダクタンス-電位関係を正にシフトさせるが、高濃度のCa2+存在下では負にシフトさせる。カリブドトキシンやイベリオトキシン(#薬理学の節参照)の阻害を受けにくいという性質がある[9]。
γサブユニットは1回膜貫通タンパク質で、細胞外領域にロイシンリッチリピートを含む[13]。いずれもコンダクタンス-電位関係を負にシフトさせ、シフトの度合いはγ1 > γ2 > γ3 > γ4である。
- γ1(LRRC26) - Ca2+の存在下でも非存在下でもコンダクタンス-電位関係を大きく負にシフトさせる[9]。もとはがん抑制因子の一つとして発見された[13]。
- γ2(LRRC52) - Ca2+非存在下でもコンダクタンス-電位関係を負にシフトさせるが、Ca2+高濃度の条件ではシフトが起こらない[13]。KCNU1(Slo3)においても負にシフトさせる作用があることが確認されている[13]。
- γ3(LRRC55) - Ca2+非存在下で負のシフトが確認されている[13]。
- γ4(LRRC38) - 影響が非常に小さく、詳細不明[13]。
なお、これらのサブユニットは0~4個付着することができる。4個付着しなければ効果を発揮しないものや1個でも付着すれば機能的になるものまで多様である。組み合わせによってはβ2とγ1など、同時に補助サブユニットとして働けるものも存在する[9]。
β4サブユニットやγ1サブユニットではαサブユニットと共役している状態の構造解析が行われている。β4サブユニットは電位センサードメインの近くに位置し、2つのαサブユニットの間に存在する。β4サブユニットがある状態とない状態ではほとんど構造は変わらなかったため、βサブユニットは新たな構造に変えるわけではなく、αサブユニットのある状態を安定化したり不安定化したりするのに役立っているものと思われる[14]。γ1サブユニットの方も電位センサードメインの付近に位置するが、一つのαサブユニットのポアから遠い方に結合する。γ1サブユニットの膜貫通らせん構造はやや折れ曲がっており、この折れ曲がりがαサブユニットの電位センサードメインの凹面に対応していると考えられている[15]。
βサブユニットとγサブユニット以外にも補助サブユニットとして働くタンパク質が存在すると考えられており、その一つがLINGO1である。LINGO1はパーキンソン病や本態性振戦の患者でアップレギュレーションが確認されている。また、γサブユニットと同様にロイシンリッチリピートを含み、コンダクタンス-電位関係を負にシフトさせるという共通点を持つ[16]。
機能
分子的機能
BKチャネルはCa2+が増加すると活性化する。Ca2+が増加しているのは基本的に膜電位が比較的高いときであり、BKチャネルはそれに応じてK+流出を行う。しかし、電位の上昇によりBKチャネルが活性化される機構と細胞内Ca2+の上昇によりBKチャネルが活性化される機構はそれぞれ異なっている。通常の電位依存性カリウムチャネルでは電位の上昇を電位センサーが感知して状態変化が起こり、活性化状態になるとチャネルは開口するという仕組みをとっており、いわゆる状態が開(活性化状態)と閉(脱活性化状態)のtwo-stateモデルに則る。一方で、BKチャネルでは単純な閉状態と開状態以外にCa2+が結合した閉・開状態も考え、それぞれにおけるコンダクタンスを考えることで説明される。なお、実際は4量体であること、複数のCa2+結合部位があることなどから開閉状態のバリエーションが更に複雑化する。因子として考えられるものに、各電位センサーの活性化()、どのチャネルも活性化していないときのチャネル開閉の変化()、電位センサー機能によるアロステリック作用()、Ca2+結合・解離による変化()、Ca2+結合によるアロステリック作用()、電位センサーとCa2+結合部位の相互作用()などを込みで考えると、開口確率は
という非常に複雑な式で表されるので、実践的にはこれらのうち数個のみを選択して参考的なモデルとする[5]。
BKチャネルのK+選択性とコンダクタンスは非常に大きく、これがBKチャネル(BがBigの略)と呼ばれるゆえんである。コンダクタンスは通常のカリウムチャネルの10~20倍も大きい[6]。比較対象としてShaker型K+チャネルは約12pS、BKチャネルは約250pSである。単一チャネルのコンダクタンスはNa+に対してK+が約300倍にも及び、選択性の高さが分かる。他の通しやすいイオンについては、K+ > Tl+ > NH4+ > Rb+と報告されている[5]。
BKチャネルの機能は翻訳後修飾の影響も受ける。最もよく研究されているのはリン酸化であり、リン酸化部位が豊富に存在するうえ、リン酸化の起こる方法によって生じる機能的影響は様々である。例えばプロテインキナーゼCではBKチャネルは抑制されるものの、プロテインキナーゼAでは活性化していないBKチャネルを活性化できるという報告がある[4]。
なお、BKチャネルは細胞膜のみならず、ミトコンドリア内膜や核膜にも存在しており、それぞれmitoBKチャネル、nBKチャネルと呼ばれる[注 1]。mitoBKチャネルは同様にKCNMA1遺伝子にコードされているが、C末端に特別な配列を持つことでミトコンドリアにしか発現しないようになっている[7]。
共局在
BKチャネルはCa2+の存在により活性化されるが、そのためにはカルシウムチャネルが必要である。遊離Ca2+はカルシウムチャネルからの距離に応じて減少し、キレート剤の存在下ではその減少度合いは大きくなる。つまり、2種類の効力の異なるキレート剤を用いればそのチャネルがどの程度カルシウムチャネルと離れているか、近いかが推測できる。このように、カルシウムチャネルによる影響が与えられる領域をカルシウムドメインといい、比較的広い場合はマイクロドメイン、狭い場合はナノドメインと呼ばれる[17]。BKチャネルにおいては電位依存性カルシウムチャネルの活性化の後すぐに活性化し、キレート剤のEGTAによる影響が少ないことから、カルシウムチャネルのナノドメインに存在していると考えられている[6]。2つのチャネルの距離は約10~15nmと推定されているが、T型カルシウムチャネルではマイクロドメインでしか共役できないと考えられている[6]。
BKチャネルが調節するカルシウムチャネルは電位依存性カルシウムチャネルのみではない。グルタミン酸の結合によるリガンド依存性と電位依存性の2つの性質を持ち、Na+もCa2+も通すチャネル型の受容体にNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)がある。BKチャネルはNMDARのナノドメインにおいても共役していることが明らかになっている[6]。NMDARの活性化によりBKチャネルの外向き電流が観測されたり、BKチャネル阻害剤の投与でグルタミン酸誘導性の外向き電流が消失したりすることから共役が確認されている[4]。また、非選択的陽イオンチャネルのTRPチャネルによるCa2+流入に対してもBKチャネルが働く。つまりTRPチャネルとBKチャネルは共役していると考えられており、TRPV1、TRPV4、TRPC1などで確認されている[6]。
小胞体膜に存在するリアノジン受容体との共役も報告されている。電位依存性カルシウムチャネル・リアノジン受容体・BKチャネルの3つがこの系で共役しており、電位依存性カルシウムチャネルとBKチャネルが細胞膜に存在する一方でリアノジン受容体は小胞体に存在しているが、ナノドメインの共役が行われている。電位依存性カルシウムチャネルは同様にCa2+流入を担うTRPV4であることもある[6]。リアノジン受容体と同様に小胞体に多いIP3受容体もBKチャネルと共役するが、脂質ラフトに局在していることを支持する実験結果が得られている[6]。
生理的機能
興奮性細胞
BKチャネルは細胞内でのCa2+流入に対するフィードバック機構である[6]、ブレーキである[8]という機能がある。Ca2+がカルシウムチャネルを通して流入すると、これによりBKチャネルが活性化する。するとK+の流出により膜電位は下がってカルシウムチャネルを脱活性化させる[6]。生理的条件においては活動電位が生じても膜電位は20~40mV程度までしか上がらず、また、興奮に際してもCa2+濃度は1μM程度までしか上がらない。それゆえ、生理的条件下ではBKチャネルは完全には活性化されず、Ca2+の過剰流入をあらかじめ防ぐために存在しているといえる[6]。また、シナプス前終末ではCa2+の作用により神経伝達物質の放出が行われるが、これに対するネガティブフィードバック作用も持つ[6]。
BKチャネルはK+による急速な後過分極を引き起こす。後過分極では閾膜電位に達するのを防ぐことで活動電位発火を抑制することもあれば、不応期を短くすることで発火頻度を早めることもある。この一見逆にも思える性質はBKチャネルの多様性により可能となっている[3]。
BKチャネルは神経系の中でも視床下部の視交叉上核にも発現しており、概日リズムに関与していることが明らかになっている。日中はβ2サブユニットの作用により不活性化されてBKチャネル電流が減少するが、夜間では不活性化が起こりにくくなり、BKチャネル電流が増加する[7]。
平滑筋細胞ではリアノジン受容体により小胞体内に貯蔵されているCa2+が放出される。これがBKチャネルを活性化し、一過性の外向き電流を生じることで同様にCa2+による過剰な反応を防ぐ。脳実質動脈の平滑筋では血管の拡張に、膀胱平滑筋では排尿を抑制することで尿失禁の防止に[5]、気管平滑筋では気道収縮力の調節に[7]、陰茎海綿体平滑筋では勃起機能に[7]重要である。
非興奮性細胞
Ca2+に対するフィードバック機能を持つという重要な性質から、BKチャネルは神経や筋といった興奮性の細胞において多く発現している。しかし、非興奮性の細胞にも存在しており、唾液腺、骨、腎臓[8]、膵臓、下垂体、有毛細胞、卵巣の顆粒膜細胞など[7]に存在している。
腎臓では集合管や遠位尿細管と集合管の間にある結合尿細管などのK+排出が行われる所でBKチャネルが発現している。Ca2+を流入させるTRPV4チャネルと共役してBKチャネルが活性化されるとする説がある。通常ではROMKという内向き整流性カリウムチャネルによりK+の尿細管管腔への排出が行われているが、管腔での流れが強まり、せん断応力が大きくなるとBKチャネルも働くようになる[5]。
聴覚機能にもBKチャネルは関わっている。聴覚は周波数によって音をとらえる場所が異なることを意味するトノトピーという性質を持つが、鳥類や爬虫類、両生類などではこれが蝸牛の有毛細胞に存在するBKチャネルと電位依存性カルシウムチャネルの相互作用によって定義されているという説がある。ただし、その詳細な機構に決着はついておらず、選択的スプライシングによる多様性によるとする説やどの補助サブユニットと結合しているかの分布で決まるとする説などがある[5]。
膵臓では膵管の上皮細胞の基底膜側・管腔側ともにBKチャネルの発現が確認されている。膵管上皮細胞は腸液における重炭酸イオンHCO3-の分泌のために重要な細胞で、電気的にHCO3-が分泌されやすくなるように働いていると考えられている[10]。
薬理学
BKチャネルはさまざまな物質により調節される。以下のようなものが知られている。
- 活性剤(チャネル開口を進める物質)
- cis型遊離脂肪酸 - アラキドン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、エイコサテトラエン酸など。遊離脂肪酸の中でもtrans型の場合や飽和脂肪酸の場合は活性剤としての能力を持たない[5]。
- 17β-エストラジオール - β1サブユニットと共役しているBKチャネルを活性化する能力を持つ[5]。
- β-ディフェンシン2 - β1サブユニットと共役しているBKチャネルを活性化する能力を持つ[5]。
- タモキシフェン(抗腫瘍薬)[5]
- ゾニサミド(抗てんかん薬)[5]
- クロルゾキサゾン(筋弛緩薬)[5]
- シロスタゾール(ホスホジエステラーゼ阻害薬)[5]
- チオ尿素[5]
- テトラヒドロキノリン[5]
- シルデナフィル[5]
- フロレチン[10]
- ピマル酸[10]
- ロットレリン(マロトキシン)[10]
- ジフェニルエーテル誘導体[18]
- 阻害剤
- カリブドトキシン[10] - ただし、β4サブユニットを持つ場合は阻害作用が低い[7]。
- テトラエチルアンモニウム[19]
- イベリオトキシン[10] - ただし、β4サブユニットを持つ場合は阻害作用が低い[7]。
- ジヒドロピリジン[3]
- パキシリン[10]
しかし、これらのBKチャネルを活性化・阻害する物質を薬剤として用いようとする場合、BKチャネルは様々な組織に発現しているため好ましくない有害事象が起こってしまう可能性が予期される[9]。
チャネロパチー
BKチャネルを含めイオンチャネルの変異を原因とするてんかん、不整脈などの疾患をチャネロパチーという[3]。BKチャネルでは以下のようにてんかん、運動失調、精神障害、脆弱X症候群、高血圧、がんの進展などにかかわっている。
BKチャネルの変異が起こると必ずしもBKチャネルに機能的な影響を与えるわけではない。BKチャネルをコードする遺伝子のKCNMA1の患者における変異のうち、1/3がBKチャネルの機能へ影響すると報告されている。うち、BKチャネル機能が低下する機能喪失型変異が多く(28%)を占め、BKチャネル機能が過剰となる機能獲得型変異は4%程度しか知られていない[8]。
最も著名なKCNMA1の変異はD434G(434番目のアスパラギン酸のグリシンへの変異)であり、初めて同定されたBKチャネルの疾患関連変異である。膜貫通ヘリックスのS6とC末端領域のRCK1ドメインの間にある[8]。D434Gは機能獲得型変異の一つであり、機能獲得型変異ではde novo変異(新規発症による変異)としてはRCK2ドメインにて生じるN999S(999番目のアスパラギンのセリンへの変異)が最も多い[8]。これらの機能獲得型変異では欠神発作、脱力発作、ミオクロニーてんかんといった様々なてんかんを発症することが多い[8]。このような機能獲得型変異におけるてんかん発作はBKチャネルの興奮促進により活動電位の発火が高頻度となって起こっていると考えられている[3]。KCNMA1の機能獲得型変異では認知障害や知能障害を起こすこともあるといわれている[8]。
一方で機能喪失型変異では失調症状、ジスキネジア、振戦、筋緊張低下、ジストニアといった運動障害を引き起こすことが多い。他に知能障害、自閉スペクトラム症、精神障害、脳形成異常、新生児糖尿病、消化管疾患などが知られている[8]。また、脊髄の後根神経節や後角でBKチャネルのダウンレギュレーションが起こると神経障害性疼痛を生じると考えられている[4]。
BKチャネルのβ4サブユニットはFMRPタンパク質と相互作用することが知られており、高頻度に発火するために活動電位の時間が長くなりすぎないよう制限する役割を持つ。FMRPの機能喪失型変異では脆弱X症候群を発症してしまうが、この機能の背景にBKチャネルの機能低下も関与している[7]。
BKチャネルは血管平滑筋の弛緩に関連しており、平滑筋へのCa2+流入後に一過性外向きK+電流を流すことで過度な収縮が起こらないように働く。そのため、BKチャネルの機能が低下すると血管収縮を促進することとなり、高血圧を発症しやすくなる[7]。
BKチャネルはがんにも関連していることが明らかになっている。例えば、神経膠腫や乳癌などにおいてはBKチャネルが活性化すると細胞の遊走性が低下する、つまり他の組織へ浸潤しにくくなることが明らかになっている[10]。しかし、全てのBKチャネルが発現している癌細胞に対して有効というわけではなく、膵管癌では生存率や遊走性などのいずれに対しても効果が出ていない[10]。さらにBKチャネル阻害剤が逆に有効性を示すがんのタイプも報告されており、BKチャネルをがんの治療薬として用いることに関してはいまだ問題が積み重なっている[10]。
臨床応用
このように、BKチャネルは多くの疾患に関連しているものの、BKチャネルの多様性ゆえにどのタイプのBKチャネルを標的とすべきなのか、どの臓器特異性とすべきなのか、などが難しい[3]。BKチャネルを標的にした治療薬として承認されているものにイソプロピルウノプロストンがあり、緑内障において眼圧を下げるのに有効とされ、点眼液として使用されている。しかし、イソプロピルウノプロストンは1994年に商品名レスキュラで承認・発売となった治療薬であるが、当時はプロスタグランジン関連薬として開発されたものであり、後にBKチャネル活性化物質であることが分かったものである[20]。
2025年9月現在、BKチャネル関連物質は脆弱X症候群に対する経口治療薬としてSpinogenix社が臨床試験を進めている。脆弱X症候群においてはBKチャネルの活性が低下しているため神経興奮に異常を生じるが、Spinogenix社はBKチャネル活性剤であるSPG601を開発している。今のところ良好な結果が得られており、今後の更なる臨床試験が期待される[21]。
BKチャネルは尿失禁を起こさないように働くため、過活動膀胱に対する治療の標的としても期待されている。過活動膀胱とは尿失禁の有無にかかわらず、膀胱を原因として尿意切迫感や頻尿を伴う疾患である。現在は抗コリン薬やβ3受容体刺激薬などが治療に用いられているが、新しい治療法としてBKチャネルを標的とした遺伝子治療がある[22][23]。この遺伝子治療ではプラスミドDNAを経尿道的に投与し、BKチャネルの発現を促進する[22]。アメリカのUrovant Sciences社がURO-902というBKチャネルプラスミドDNAを開発しており、アメリカでは既に2013年に遺伝子治療が開始されている[23]。
脚注
- ^ 対して細胞膜に存在するものを強調したい場合、pmBKチャネルともいう。
出典
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外部リンク
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