鵬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/12 02:56 UTC 版)

鵬(ほう)は、中国に伝わる伝説の鳥。非常に体が大きいとされ、その大きさをたたえて大鵬(たいほう)とも呼ばれる。
概要
鵬は数千里[1]にも及ぶ天を覆う雲のような翼、大きな山のような体を持つ巨大な鳥[2]だとされる。訓読みで「おおとり」とよまれるように、鵬は『説文』などには鳳のことだとあり、「大きな鳥」を意味している[2]。中国の古代神話に見られる羿によって退治された巨大な怪鳥・大風(たいふう)[3]も、同様な特徴を持っている。
『荘子』逍遥遊篇にある寓話に、鵬は体の大きさが数千里もある大変に巨大な鳥として登場する。この説話では鯤(こん)が対となる存在として登場しており、共に非常に巨大な存在として描写される。鵬が北の果ての海(北冥)から南の果ての海(南冥)に向かって勇壮に飛ぶ様子は図南(となん)と呼ばれ、九万里の高さにも到るその飛行高度を夭閼(ようあつ。邪魔をすること)するものはないと語られる。いっぽう、鵬の動きを大げさ過ぎるとあざける「小さな」存在として学鳩(がくきゅう)・斥鷃(せきあん)[4]という鳥や蜩[5]などの虫が話の中に登場する[2][6]。
『荘子』の鵬が南の果ての海に向かって九万里の上空に翔び上がるきっかけに用いられている「海運」(「海、うごけば」)という表現は、海が嵐でわきかえっている状態[6]と解釈されており、この嵐は熱帯のモンスーン[7]のことだとも考えられている。
このような『荘子』の寓話に登場した鵬は、ひろく「巨大な鳥」という認識で後代は用いられ、『西遊記』や『封神演義』をはじめとした、中国の古典的な小説にも幅広く登場する。『西遊記』に登場する雲程万里鵬(うんていばんりほう)は、風を切って南北をひとまたぎにするという[8]。清代に編まれた『続子不語』では、鵬の羽根は10戸以上の家々を覆い尽くすほどの大きさで、この巨大な羽や糞が大空から落下して来た場合、家々を壊し、人命を奪うことすらあると語られている巨大な怪鳥の名としても用いられている[7]。
日食は鵬が上空を通過するために起こるという説もある。
ことわざ・熟語
鵬のような大きな行動・視野をとる者は、何にもとらわれることなく、自由の境地にある[6]などとされる。『荘子』の寓話に見られる内容をもとにして、鵬は故事成語や熟語に用いられている。
- 鵬程万里(ほうていばんり) - 『荘子』より。遠い道程や前途が遠大であることを鵬の飛ぶ距離に例えた言葉[9]。
- 図南の翼 - 『荘子』より。大きな事業を遠い地で成そうとする志や計画を意味する。「図南の鵬」、「図南の鵬翼」とも。
- 鵬雛(ほうすう) 鵬のひなこと。将来、大きな羽を広げて様々な分野で活躍を遂げる人材を示す。
鵬の用例
鵬の字は、人名・雅号などにも多く用いられる。
- 大鵬正鯤 (1691年-1774年。禅僧・画家)
- 亀田鵬斎 (1752年 - 1826年。書家・儒学者)
- 鎌田鵬 (1754年 -1821年。医者・心学者。字の図南も『荘子』の故事に由来する[10])
その壮大なイメージから、鵬・大鵬の文字は大相撲の力士たちの四股名にも用いられる。
未来への雄飛や有望を託す意味で、団体名や学校の校章などにも用いられる。
- 青森県立弘前高等学校 校章に鵬の意匠が用いられている。
- 兵庫県立神戸高等学校 男子用副校章に鵬があしらわれている。また同校は旧制中学時代から学生のことを鵬雛(ほうすう)とも呼んでいる。
脚注
- ^ 古代中国での一里は約400メートルにあたる。九万里も具体的な数値というよりも、計り知れないほどの高さを示す。
- ^ a b c 小川環樹・森三樹三郎 訳『世界の名著4 老子・荘子』 中央公論社 1968年 153-158頁
- ^ 袁珂 著、鈴木博 訳『中国の神話伝説 上』青土社、1993年4月1日、300頁。
- ^ 「斥」は「尺」に通じて、小さいことを示すと解釈されて来ている。
- ^ セミ全般を示すと解釈されて来ている。
- ^ a b c 森三樹三郎 『老子・荘子』 講談社<講談社学術文庫> 1994年 172-175頁
- ^ a b 京極夏彦 著、多田克己 編『妖怪画本 狂歌百物語』国書刊行会、2008年、308頁。ISBN 978-4-3360-5055-7。
- ^ 太田辰夫・鳥居久靖 訳 『中国古典文学大系32 西遊記 下』、平凡社、1972年、231頁
- ^ “鵬程万里 | スピーチに役立つ四字熟語辞典 | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス”. 情報・知識&オピニオン imidas. 2023年10月2日閲覧。
- ^ 渡邊徹『本邦最初の経験的心理学者としての鎌田鵬の研究』 中興館 1940年 15-16頁
関連項目
鵬
「鵬」の例文・使い方・用例・文例
- 千代の富士は大鵬と並び称せられる横綱だ.
- 図南の鵬翼
- 大鵬という,想像上の動物
- 彼は,大(たい)鵬(ほう),千代の富士,北の湖(うみ)に次いで4番目の最多勝利である22回の優勝を果たした。
- 他の記録保持者は,大(たい)鵬(ほう),千代の富士,そして貴乃花だ。
- 白(はく)鵬(ほう)が第69代横綱に
- 先日,日本相撲協会は理事会を開き,大関白(はく)鵬(ほう)を横綱に昇進させることを決めた。
- 白鵬は,「つつしんでお受けいたします。横綱の地位を汚(けが)さぬよう,精神一到を貫き,相撲道に精進いたします。」と述べた。
- 6月1日,白鵬は東京の明治神宮で土俵入りを行った。
- 白鵬はモンゴルの出身だ。
- 白鵬は,2003年一月場所(初場所)後の朝青龍の横綱昇進以来初めての新横綱だ。
- 22歳2か月の白鵬は,昭和以降では北(きた)の湖(うみ),大(たい)鵬(ほう)に次ぐ3番目に若い横綱だ。
- 白鵬の昇進により,名古屋での七月場所でようやく横綱が2人となる。
- 豆まき役には,朝(あさ)青(しょう)龍(りゅう)と白(はく)鵬(ほう)の両横綱やNHKの大河ドラマ「天(てん)地(ち)人(じん)」の俳優がいた。
- 白(はく)鵬(ほう)関が12度目の幕内優勝
- 横綱・白(はく)鵬(ほう)関が,福岡市で行われた大相撲十一月場所で,15勝無敗の全勝の成績で優勝した。
- 白鵬関は,今場所の千(せん)秋(しゅう)楽(らく)前日の11月28日,大関・琴(こと)光(みつ)喜(き)関に勝って優勝を決めた。
- 千秋楽には,白鵬関は横綱・朝(あさ)青(しょう)龍(りゅう)関を上(うわ)手(て)投(な)げで破り,自身4度目となる全勝優勝を果たした。
- 白鵬関は今年を86勝わずか4敗で終えた。
- 白鵬関は11月30日の記者会見で,「とても緊張したが,満足のいく場所だった。横綱としての責任を果たせてうれしい。」と語った。
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