風車十字打ち
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/08 00:25 UTC 版)
ある日、江戸の土井大炊頭利勝は駿河大納言・徳川忠長を擁して家光を除こうとするという密書を有力大名達に送った。しかし、どの大名もこの謀反に加担しようとせず、密書を老中・酒井雅楽頭忠世に送り返した。実はこの密書、利勝と忠世が大名の動向を探る為の策であった。しかし、それから数日後、またしても大名から密書が届けられた。それは先の密書と同じ内容であったが、その署名には忠長の家老・朝倉筑後宣正と記されていた。駿河大納言・徳川忠長が実兄の家光に不満を持っている事は明確であった。この密書には忠長の謀反、そしてそれに加担する大名を匂わせるものがあった。 半年前、駿河藩に召抱えられた津上国乃介。実は国乃介は利勝から遣わされた忍びであり、謀反に加担する大名を探る為に潜入していた。折りしも奥祐筆・児島宗蔵もまた忍びである事を知った国乃介だったが、双方を忍びとして怪しんでいた藩上層部は国乃介と宗蔵を午後の部最初の第6試合に組み入れ、探りを入れようとしていた。 津上国乃介(つがみ くにのすけ) 第6試合「風車十字打ち」の主人公。舟木道場に草鞋を脱いでいた浪人であり、舟木一伝斎から中々の剣の腕と言われていた。国乃介曰く、一刀流と独自の剣技を習得しているらしい。半年前に城下で暴れている侍を一瞬の抜き打ちにて屠った事で駿河藩に召抱えられる。だが、その正体は土井大炊頭利勝から遣わされた忍びであり、藩の動向と謀反に加担する大名を探る為に潜入していた。ある日、主は違えど奥祐筆・児島宗蔵も忍びである事を知るが、その宗蔵から頼まれ事をされる。それは宗蔵が駿河藩の隠し隠密・あいを殺害した為、その偽装工作の依頼だった。そしてもう1つ、国乃介の隣に住む鹿島甚左衛門の娘・ふさと宗蔵の婚約を取り次いで欲しいという内容であった。しかし、国乃介はそれを固辞。国乃介はふさに対して恋心を抱いていたと同時に、それを非情な仕事に利用する宗蔵を許せなかった。だがあくる日、宗蔵から告げられた内容は国乃介を驚かせるものであった。それは宗蔵が、匿名で藩上層部に隠し隠密・あい殺害の犯人を国乃介であると告げたと同時に、宗蔵と国乃介を御前試合に藩上層部が組み込んだという内容であった。身の危険を感じた国乃介は主の下へ戻る事も考えるが、武士としての意地、そして何よりも宗蔵にふさが弄ばれる事を許せず、御前試合にて宗蔵を討つ決意をする。江戸の忍びの中でも風車手裏剣に絶妙の腕を持ち、風車十字打ちという妙技を会得している。 児島宗蔵(こじま そうぞう) 第6試合「風車十字打ち」で国乃介の対となる主人公。国乃介よりもさらに半年前に祐筆として召抱えられた。ある日、仲間内の口論で私闘沙汰になった時、素早い身のこなしで戦意を削いだ事がある。また、浅間社では忠長によって簪を木に投げられた侍女・あいがそれを取りに登った際、猿に襲われる事があった。その時、宗蔵は木から落ちるあいを受け止めると同時に猿の眉間に簪を突き刺すという早業を行った。無論、奥祐筆とは仮の姿であり、宗蔵が忍びであるが故に成し得た技であったが、これらの事件が藩中から怪しまれる一因となる。その後、自らを愛するようになったあいを利用して情報を探っていた。だが、そのあいが駿府側の隠し隠密と知り、自らの素性を露見する事を恐れて殺害。そこで、自らの犯行に結びつけ得る致命的は証拠を残してしまう事となる。その後、国乃介に偽造工作と鹿島甚左衛門の娘・ふさとの婚約を依頼するも固辞されてしまう。そこで、宗蔵は藩上層部にあい殺害の犯人は国乃介であると洩らす事で藩中を困惑させる事にした。これがきっかけで、忍び狩りを目論む藩上層部によって国乃介と御前試合にて立ち合いをする事になった。 あい 駿河大納言・徳川忠長の侍女であり、浅間社で宗蔵に救われた事によって宗蔵に恋心を抱く。その正体は駿河藩の隠し隠密であり、忍びを探る役目を持っていた。宗蔵を愛していたものの、彼が忍びでないかという大きな疑問を抱いていた。その疑問から宗蔵を探ろうとするが、逆に宗蔵に殺害されてしまう。宗蔵はあいを利用していたに過ぎなかった。死ぬ寸前、あいは自らの血で「こ」の字を残して果てる。この字が児島宗蔵の「こ」の字に結びついてしまう。 ふさ 鹿島甚左衛門の娘で、国乃介の隣に住む。奥向きで利発者と評判の娘。あいの事件以降、宗蔵はふさを利用して情報収集を行うべく、国乃介に婚約の取次ぎを依頼するが固辞される。後に宗蔵自ら婚約を願い出るが、ふさ自身は国乃介に恋心を抱いていた。宗蔵は、国乃介とふさが2人きりの際、小柄の投擲で国乃介暗殺を目論むが、失敗。逆に国乃介の手裏剣術・風車十字打ちにて迎撃された。この一件で、国乃介はふさの為に駿河藩の罠であると知りながらも御前試合に出場する事を決意する。 朝倉筑後宣正(あさくら ちくごのかみ のぶまさ) 駿河大納言・徳川忠長の家老。常軌を逸脱した忠長と幕府側の対応を重く見て、家光を廃する謀反を目論む。その為に、腕のある浪人者達を多く登用、諸大名との結び付き、軍資金から大量の鉄砲を保有する等、着々と準備を進めていた。しかし、その為の最後の鍵である外様大名を懐柔するための密書を送るが、賛同者を得られず躍起になっていた。また、それと同時に幕府側の隠密狩りも進めており、国乃介と宗蔵の御前試合組み込みを家老・三枝伊豆守に告げた。そして、試合場裏に不測の事態の為という理由で鉄砲頭・剣持治助と鉄砲組を配置する。 栗山大膳(くりやま だいぜん) 有力大名である黒田家家老で江戸に赴くついでに駿府城を訪れる。忠長の家老・朝倉筑後宣正とは古くからの知り合いで、黒田の栗山か、栗山の黒田かと云われる程の剛腹な人物。忠長を擁して謀反を目論む朝倉筑後宣正に協力を持ちかけられる。だが、その実は幕府側にも通じており、この謀反の動向を探っている人物でもある。 剣持治助(けんもち じすけ) 駿河藩の鉄砲頭を務める人物。背が低く、円顔の頬に黒子と2本の毛が生えている風貌の持ち主。本人曰く、福毛であるらしい。寛永6年9月24日の御前試合では試合裏にて不測の事態の為に鉄砲組と共に待機していた。その不測の事態とは、第4試合出場者である凶漢・屈木頑乃助と第6試合にて隠密と疑わしき国乃介と宗蔵を射殺する事である。実は栗山大膳が遣わした忍びであり、外様大名達が改易、取り潰しの憂き目を見る中で、黒田家は治助の情報によって事なきを得た。 土井大炊頭利勝(どい おおいのかみ としかつ) 江戸幕府の老中で家光を補佐する切れ者。有力大名の動向を探るべく、駿河大納言・徳川忠長を擁して家光を除こうとするという偽の密書を有力大名達に送った。しかし、後に本物の密書が届けられると忠長の謀反、そしてそれに加担する大名を探るべく隠密を駿府城に送り込んだ。国乃介もまた利勝から遣わされた忍びの1人であった。 酒井雅楽頭忠世(さかい うたのかみ ただよ) 土井大炊頭利勝と同じく家光を補佐する人物。利勝の有力大名の動向を探る策に乗る気ではなく、大した効果を出さないと考えていた。しかし、忠長の家老・朝倉筑後宣正が記した本物の密書が手元に届けられた事で事態を重く見る。
※この「風車十字打ち」の解説は、「駿河城御前試合」の解説の一部です。
「風車十字打ち」を含む「駿河城御前試合」の記事については、「駿河城御前試合」の概要を参照ください。
- 風車十字打ちのページへのリンク