認知能力と感受性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 02:53 UTC 版)
近年の動物の苦痛の研究は、軟体動物、甲殻類、魚などのさまざまな水生動物が、苦痛を認識している可能性を示している。多くの科学者たちは魚が情感を備えると認めており、魚は不安を経験していると推測されている。例えば、アメリカの海洋生物学者のシルビア・アリス・アール博士は次のように述べている。 「魚は痛みを感じるか?それは科学者にとっては常識だ。魚には神経系があって脊椎動物としての基本的な機能を持っている。彼らは私たちが考える以上に、感じることができる。人に触覚があるように、魚には側線という器官がある。側線で水の微妙な動きを感知して、群で泳ぐことを可能にしている。『彼らは痛みを感じないから、恐怖を感じないから何をしてもいい』という人は魚のことを分かっていない。罪なき生き物への卑劣な行為を正当化したいだけ。そうでなければ魚をあんなに野蛮に扱う説明がつかない。」 —映画「SEASPIRACY」 また魚は、人間同様「うつ」になるとも考えられている。自然界にはないストレス(過密、他の魚からの攻撃、人間による扱い、ワクチン接種など)にさらされた養殖のサケが、深刻なうつ状態にあることが示唆される研究や、ゼブラフィッシュにエタノールを2週間与え続けたあとでその供給をストップして強制的にうつ状態にさせたあと、抗うつ剤をゼブラフィッシュに与えるという研究では、エタノールの供給を絶たれて動きが緩慢になり底のほうに停滞するゼブラフィッシュが、抗うつ剤投与で水槽の上から下へと泳ぎ回りはじめる様子が観察されている。この研究では「うつ状態」のゼブラフィッシュは、うつの人々と同じように、食べ物、おもちゃ、探検など、ほぼすべてに興味を失う様子を見せた。 「痛み」についても、情動をつかさどる大脳辺縁系にあたる部分が魚類にもあることがわかっており、ダメージや損傷があった時の魚の行動は、注意散漫になったり、損傷部分をかばったり、異物を取り除こうとしたり、食欲が低下したりする。そして、痛みを和らげるモルヒネを投与すると、注意力を取り戻し、通常の行動を取ることが可能になるといった人間が痛みを感じた時と同じ反応を示す。 認知能力については、ホンソメワケベラという魚は鏡像認知し、メダカは相手の顔を識別し、魚は痛みを感じ、タラは音で会話しているという指摘がある。大阪市立大学の研究によると、「魚は鏡を見て自己認識することができる」という。同研究で、麻酔をした魚ののどに色素を注入すると、魚はその部分を気にするようにそれを取り除こうとのどを水槽の底にこすりつけることが観察された。 魚類の中ではマンタ(オニイトマキエイ、ナンヨウマンタ)が最も脳化指数が高い種類の一つとされ大型の哺乳類と同等の知性を持っているとされており、脳のサイズはジンベエザメの10倍あり脳の対比は魚類の中では最大である。また、マンタは鏡像認知をした可能性が高い生物にも数えられている。また、マンタは少なくとも一種は特定の個体を識別し友情を築くことが判明した。 こういった魚の情感に対する認知の広がりを背景に、イギリス大手のスーパーマーケット セインズベリーが、魚の飼育密度の規定や体の切除の禁止、屠殺方法などの動物福祉基準を設けたり、スロバキアでは生きた鯉の販売はクリスマスの伝統の一部であったが、ドイツの小売業者Kauflandが、2022年以降スロバキアでの生きたコイの販売を終了することを約束したりするなどの魚に配慮する動きが近年見られる。 また、イタリアのモンツァ市、ボローニャ市が球形の金魚鉢での金魚の飼育を禁止し、またベルギーでも「表面積の小さい球形の金魚鉢は魚にストレスを与える」として、丸いボウルの販売禁止法案が検討中である(2022年3月時点)。
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