聖金口イオアン聖体礼儀とは? わかりやすく解説

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聖金口イオアン聖体礼儀

(聖ヨハンネ・クリソストモスの典礼 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/25 15:26 UTC 版)

聖金口イオアンアギア・ソフィア大聖堂内のイコン(モザイクによる)

聖金口イオアン聖体礼儀(せいきんこうイオアンせいたいれいぎ、ギリシア語: Η Θεία Λειτουργία του Χρυσοστόμου, ロシア語: Литургия Иоанна Златоуста, 英語: The Divine Liturgy of St. John Chrysostom)は、正教会における聖体礼儀の種類のひとつ。日本正教会による訳語。4世紀キリスト教聖人金口イオアンによって編纂された聖体礼儀であるとされて来たためにこの名がある。クリュソストモス典礼[1][2]聖ヨアンネス・クリュソストモス典礼[3][4]とも訳される。

概要

聖体礼儀は、機密秘蹟)の一つである、聖体機密を中心にする儀礼・礼儀である。この礼儀において、正教会の信徒はハリストス(キリストのギリシャ語読み)の聖体・尊血(そんけつ)に聖変化したパン葡萄酒を、感謝のうちに領食(りょうしょく)する。

長司祭ゲオルギイ・フロロフスキイは「ハリストス教(キリスト教のギリシャ語転写)とは聖体礼儀の宗教である。また教会とは第一に奉神礼を行う集りである。奉神礼を第一とし、教えと要理を第二とする。」と述べている。またパーヴェル・フロレンスキイは、「真の正教教理学は奉神礼の教理上の考えを系統化したものでなければならない」との見解を示している。このように、正教会において奉神礼と教理とは密接な繋がりがあるものと捉えられており、聖体礼儀は正教会の根幹を成す奉神礼と捉えられている。[5]

この聖体礼儀の一つの形式種別が、聖金口イオアン聖体礼儀で、金口イオアンによって編纂されたと考えられて来た。「エフハリスティアの祝文」か聖体礼儀の中心的祝文は金口イオアンが書いた[6]という主張もあるが、この聖体礼儀の形態は金口イオアンの時代より後世のもので、実際に金口イオアンが関わったかどうかについて、G. Wagnerが関連を主張しているものの、多くの学者は疑問を呈している[7][8][9][10][11]

聖体礼儀の形式の種類としては他に聖大ワシリイ聖体礼儀先備聖体礼儀などがある。

構造

「金口イオアンの聖体礼儀」の式次第は次の通り。[12]

    司祭高声………………至聖三者(父・子・聖神)の神を讃美
    大連祷…………………「主、憐れめよ」を繰り返し唱える
    第一アンティフォン…通常は102聖詠を「我が霊よ、主を讃め揚げよ」と歌う
    小連祷…………………大連祷の縮小形
    第二アンティフォン…ハリストス(キリスト)の藉身についての聖歌
    小連祷…………………大連祷の縮小形
    第三アンティフォン…真福九端マトフェイマタイ)5章)を歌う
    小聖入…………………福音経によって主の公生涯の開始を象(かたど)る
    トロパリ………………その日のテーマを歌う
    聖三の歌………………至聖三者への祈り
    ポロキメン……………聖詠(詩編)の数節を歌い交わす
    使徒経…………………に従って指定された箇所を読む
    アリルイヤ……………神を讃美する歌
    福音経…………………暦に従って指定された箇所を読む
    重連祷…………………「主憐れめよ」を三回繰り返す連祷
    啓蒙者の為の連祷……洗礼を受ける前の人(啓蒙者)の為の祈り
    信者の為の連祷………洗礼を受けた人(信者)の為の祈り
    大聖入…………………パンとぶどう酒を宝座に移す
    増連祷…………………「主、賜えよ」と繰り返して祈る
    信経……………………「信経」を歌う
    機密の執行……………パンとぶどう酒が聖神によって変化
    生神女への讃美………通常は「常に福い」という聖歌を歌う
    増連祷…………………「主、賜えよ」と繰り返して祈る
    天主経…………………「天にいます我等の父や」と祈る
    領聖……………………信者が御聖体をいただく
    感謝の祈り……………領聖したことを感謝する連祷や祝文
    発放詞…………………司祭による最後の祝福

聖金口イオアン聖体礼儀が行われる日

聖金口イオアン聖体礼儀は、聖体礼儀のひとつの種類としては年間を通して最も頻繁に行われる形式である。大斎の5つの主日(日曜日)を除く主日、および他の殆どの祭日に用いられる。

むしろ聖大ワシリイ聖体礼儀が行われる日以外の全ての聖体礼儀を行う日には、聖金口イオアン聖体礼儀が行われることから、聖金口イオアン聖体礼儀が行われる日について言及するよりは、聖大ワシリイ聖体礼儀が行われる日と、聖体礼儀を行う事が出来ない日について言及し、それらの日を除く事で聖金口イオアン聖体礼儀を示すのが一般的である。

なお、先備聖体礼儀は狭義の聖体礼儀に含めない。

聖歌作曲作品としての金口イオアン聖体礼儀と作曲家

正教会聖歌は無伴奏声楽が基本原則である[13]

近世以前の正教会聖歌には作曲家名が付けられていない事が多い。ビザンティン聖歌ギリシャ正教会の聖歌)・ズナメニ聖歌ロシア正教会で18世紀以前まで発展した聖歌)・ヴァラーム聖歌(ロシア正教会のカレリア地方の修道院に伝わる聖歌)などはこうした伝統に属する。また、19世紀以降に西欧的和声法を導入した上で確立されたオビホードと呼ばれる聖歌集にも、作曲家名は特に付けられていない。

しかし(17世紀にもウクライナを中心に僅かな事例が存在するが)18世紀以降、ロシア正教会でも作曲家が明らかにされた上での聖歌作曲が盛んに行われていくようになる。19世紀にはロシア正教会の聖歌作曲は隆盛を極め、著名な作曲家の多くが聖歌作曲を手がけた。こうした伝統は、無神論を標榜したボリシェビキによるロシア革命が勃発し、ソ連政府によって正教会が弾圧され、多くの作曲家が国外に亡命するか聖歌作曲を断念せざるを得なくなる20世紀初頭まで続いた。

ソビエト連邦の崩壊後の昨今、旧ソ連およびその衛星国家となっていた地域で再び正教会の聖歌作曲が行われるようになっている。

金口イオアン聖体礼儀の全曲を作曲した著名な作曲家

※《》内は活躍した(している)正教会。並び順は永眠年順。存命の人物については生年順。

正教会聖歌を作曲した著名な作曲家

※《》内は活躍した正教会

脚注

  1. ^ 「クリュソストモス典礼」『キリスト教大事典』、改訂新版、352-353頁
  2. ^ ビザンチン典礼」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ブリタニカジャパン、コトバンク。2025年7月24日閲覧。
  3. ^ 秋山学「ギリシア教父と般若思想:東方典礼とアレキサンドリアのクレメンスを手がかりに」2003年。2025年7月24日閲覧。
  4. ^ 森安達也『キリスト教史 3』山川出版社、1978年、261頁
  5. ^ イラリオン・アルフェエフ『信仰の機密』ニコライ高松光一 訳、東京復活大聖堂教会(ニコライ堂)、2004年、135-137頁。
  6. ^ 聖体礼儀の歴史的発展」『聖職者用卓上書』訳責 司祭イオアン長屋、第一巻、モスクワ、1977年、402-416頁。
  7. ^ Frank Leslie Cross, Elizabeth A. Livingstone, ed. (2005). “Chrysostom, Liturgy of St.”. The Oxford Dictionary of the Christian Church (3rd. Revised ed.). Oxford University Press. p. 346. ISBN 9780192802903.
  8. ^ E (Archimandrite Ephrem) (2001). “John Chrysostom”. In David Parry, David Melling (ed.). The Blackwell Dictionary of Eastern Christianity. John Wiley & Sons. pp. 268-269. ISBN 0-631-18966-1.
  9. ^ John A. McGuckin [英語版] (2010). “Divine Liturgy, Orthodox”. In John A. McGuckin (ed.). The Encyclopedia of Eastern Orthodox Christianity. John Wiley & Sons. ISBN 9781444392548.
  10. ^ Donald Attwater. “St. John Chrysostom”. Encyclopedia Britannica. 2025年7月25日閲覧.
  11. ^ 森安達也「クリュソストモス」『世界大百科事典』(改訂新版)平凡社、コトバンクhttps://kotobank.jp/word/%E3%81%8F%E3%82%8A%E3%82%86%E3%81%9D%E3%81%99%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%99-3180195#w-11618242025年7月24日閲覧 
  12. ^ 聖体礼儀”. 日本正教会. 2014年1月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年7月24日閲覧。
  13. ^ 米国や韓国ではオルガンを伴奏に用いる所もあり、アフリカでは打楽器の使用が祝福されている教会もある。また、アレクサンドル・グレチャニノフは器楽伴奏付きの正教会聖歌を作曲した。しかしこうした事例は、正教会全体からみれば極めて稀な部類に属する。

参考文献

  • ミハイル・ソコロフ著、木村伊薩阿克訳『正教奉神礼』日本正教会(明治24年3月)

関連項目

外部リンク

祈祷文・構成

聖歌

その他




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