きんきょうちょくせい‐ジストロフィー〔キンキヤクチヨクセイ‐〕【筋強直性ジストロフィー】
筋強直性ジストロフィー
筋強直(ミオトニー現象:myotonia)とは筋肉が一度収縮した後に弛緩しにくい(もとの静止状態になるのに時間がかかる)ことを言います。たとえば患者さんに手をしっかりと握り、速やかに手を開くように命じても、手は急には開かないでゆっくりとしか指が伸びません(把握性筋強直: grip myotonia)(図39)。診察時に母指球筋を打腱器(診察用ハンマー)で叩くと、母指は内転し、すぐにはまっすぐにならないのです(percussion myotonia)。このような筋強直を主症状とする疾患にはいくつかの種類がありますが、最も代表的な疾患が筋強直性ジストロフィーです。
図39:筋強直 手をぐっと握りしめ(左)、すぐにパッと開くように命令しても 指(特に母指)がすぐに元に戻らない(右)。 |
a.病因・病態・病理
本症は常染色体優性遺伝をとり、第19染色体長腕(19q13)に遺伝子座があります。遺伝子はクローニングされていて、その遺伝子産物は新しく見つかった酵素でミオトニンキナーゼ(myotonin kinase)(蛋白を燐酸化し活性化させる酵素)と命名されました。この酵素が病気の発症にどのように関与しているかはまだよく分かっていません。
患者さんではこの遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTG(シトシン、チミン、グアニンの塩基)の繰り返し配列が増加しています。正常な人ではこのCTGの繰り返し配列は5−30回ですが、患者さんでは50-2,000 回にも達します。このように3つの塩基の繰り返しが増える病気がいくつか見つかっていて、それは3塩基繰り返し病(triplet repeat disease)と呼ばれています。全て常染色体優性遺伝の病気です。この繰り返しの数と臨床症状は相関するといわれています。また親より子ども、子どもより孫へと世代を経るに従ってこの繰り返しの数が増加し、症状は重くなる傾向にあります。このことを表現促進(anticipation)といいます。
筋肉を顕微鏡でみると筋ジストロフィーのような壊死とそれに続く再生所見はほとんどありません。筋線維は細くなり、特にタイプ1(赤筋)線維が萎縮します。
b.臨床症状
筋強直現象は筋力低下に先立ってみられることが多いといわれています。手がこわばってなかなかスムースに開かない、口の開閉も話しはじめに滑らかでない、歩行開始が円滑にいかないなどが主症状です。筋強直現象は同一動作を繰り返すと次第に軽減し、また精神的緊張、寒冷によって増悪します。
筋力低下があきらかになる年齢は一定していませんが、普通子どもではあまり目立ちません。顔面筋は高頻度に侵され、表情に乏しく、頬がこけたような顔になります(筋性顔貌:myopathic face)。ときに上まぶたが下がり(眼瞼下垂)、ものが見えにくくなります。頸筋、咽頭筋が侵され、鼻声となったり、ものが飲み込みにくくなることもあります。
筋肉の症状以外にもいろいろな症状を合併します。前頭部優位の脱毛が成人男性の80%、白内障は高頻度にみられますので、定期的な眼科の診察が必要です。内分泌系の異常(インポテンス、無月経、不妊など)、心筋症、便秘などの消化器の異常をみることもあります。
c.診断
患者さんに手をぐっと握っていただき、ぱっと手をひろげるようにお願いします。しかしすぐにひろがらず、ゆったりと時間がかかります(把握ミオトニア)。筋電図は診断に役立ちます。筋肉に針電極を刺入すると、刺入電位が高く、持続が長いのが特徴的です。遺伝子診断を行えば診断はより確実となります。
[附] 先天性筋強直性ジストロフィー(congenital myotonic dystrophy)
先天性筋強直性ジストロフィーは筋強直性ジストロフィーの母親(ごくまれに父親)から生まれた子どもに、新生時期から重い筋肉と中枢神経症状をみる病気です。遺伝子解析では、CTGの繰り返しの数は母親より、子供の方が圧倒的に多くなっています。
新生時期から強い筋力と筋緊張低下をみとめます。重症例では呼吸の自立がなく、人工呼吸器が必要です。また燕下障害があると、経管栄養が必要となります。筋力低下は全身性で顔の筋力も弱く、表情に乏しく、口を常に半分開けています。乳児期に死亡するような重症例もありますが、成長とともに次第に回復していきます。しかし筋力低下がなくなることはありません。全例に知的障害を伴います。
診断はまず母親の筋強直を確認することです。遺伝子解析で診断を確定することができます。
筋緊張性ジストロフィー
(筋強直性ジストロフィー, から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/05 14:03 UTC 版)
筋緊張性ジストロフィー(きんきんちょうせいジストロフィー、英:Myotonic dystrophy)は筋ジストロフィーの一種であり、筋肉の機能を損なう長期的遺伝性疾患に分類される[1]。症状は、徐々に悪化する筋肉の喪失や筋力の低下である[1]。筋肉を収縮してからの弛緩ができないことがよくある[1]。その他の症状には、白内障、知的障害、心臓伝導の障害などがあげられる[1][2]。男性の場合、早期の脱毛や子供を作れないことがある[1]。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u “myotonic dystrophy”. GHR (2016年10月11日). 2016年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月16日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j Meola, G; Cardani, R (April 2015). “Myotonic dystrophies: An update on clinical aspects, genetic, pathology, and molecular pathomechanisms.”. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease 1852 (4): 594–606. doi:10.1016/j.bbadis.2014.05.019. PMID 24882752.
- ^ Klein, AF; Dastidar, S; Furling, D; Chuah, MK (2015). “Therapeutic Approaches for Dominant Muscle Diseases: Highlight on Myotonic Dystrophy.”. Current Gene Therapy 15 (4): 329–37. doi:10.2174/1566523215666150630120537. PMID 26122101.
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