第1世代:トリフェニルエチレン類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 09:21 UTC 版)
「選択的エストロゲン受容体修飾薬」の記事における「第1世代:トリフェニルエチレン類」の解説
最初のSERMはスチルベンの類縁物質であるトリフェニルエチレン誘導体である。スチルベン骨格(非ステロイド系エストロゲン(英語版)であるジエチルスチルベストロールに類似)は17β-エストラジオールのエストラトリエン骨格を模倣出来、トリフェニルエチレン誘導体ではステロイド骨格の11位から側鎖が伸びている様に見える。ステロイド骨格3位に該当する部分のフェノール系水酸基の水素結合能が、ERとの結合に重要な役割を果たす。 最初の医薬品であるクロミフェン(2-[4-(2-chloro-1,2-diphenylethenyl)phenoxy]-N,N-diethylethanamine)は、2つのフェニル基に挟まれたエチレン基が1箇所塩素置換されており、それが後に開発されたタモキシフェンと同等の親和性を齎している。クロミフェンはエストロゲン薬であるシス型(Z 型)と抗エストロゲン薬であるトランス型(E 型)の混合物である。この場合のシス型・トランス型は非置換フェニル基の位置関係で見ると解り易い。クロミフェンの2つの幾何異性体の薬理学的特性は異なり、トランス型はタモキシフェンに近く、シス型は17β-エストラジオールに近い。シス型はトランス型の10倍強力であるが、トランス型の方が上皮細胞の増殖誘導能力が強いので、混合体のクロミフェンは低用量で拮抗薬として、高用量で作動薬として作用する。拮抗薬型異性体(E 型)は子宮と乳腺組織で抗エストロゲン作用を示すが、作動薬型異性体(Z 型)は骨のERと結合してエストロゲン様作用を発揮する。 タモキシフェン((Z)-2-[4-(1,2-diphenylbut-1-enyl)phenoxy]-N,N-dimethyl-ethanamine)は、ホルモン応答性乳癌(ERおよび/またプロゲステロン受容体が陽性の乳癌)の全てのステージの治療に用いられる。米国では、乳癌リスクの高い女性の予防にも使われる。タモキシフェンは2つのフェニル基がトランス型に配置している(シス型の混入のない)抗エストロゲン薬であり、全身のエストロゲン標的組織で異なる作用を示す。タモキシフェンは、乳房では選択的に抗エストロゲン作用を示すが、骨や子宮内膜癌ではエストロゲン様作用を示す。タモキシフェンは、ミクロソームのシトクロムP450(CYP)酵素により肝臓で第I相代謝を受ける。タモキシフェンの主な代謝物は、N-デスメチルタモキシフェンと4-ヒドロキシタモキシフェン(英語版)である。 4-ヒドロキシタモキシフェンER会合体の結晶構造を見ると、リガンド結合ドメイン内のERのアミノ酸と相互作用している。フェノール基と水分子が、受容体(ERα;Glu 353/Arg 394)のグルタミン酸とアルギニンとの親和性が高く結合するので、17β-エストラジオールのA環に似たフェノール環を持つ4-ヒドロキシタモキシフェンは、フェノールを持たないタモキシフェンの100倍以上の結合親和性を持つ。そのOH基を無くしたり、位置を変えたりすると、結合親和性は低下する。 タモキシフェンとERとの結合にはトリフェニルエチレン基と側鎖が必要である一方で、4-ヒドロキシタモキシフェンとERとの結合にはフェニルプロペン基と側鎖は重要ではないと見られる。側鎖の塩基性と長さは、タモキシフェンのERへの結合親和性に重要な役割を果たしていないと思われ、タモキシフェンのβ環も同様であるが、タモキシフェンのスチルベン部分はERへの結合に必要である。4-ヒドロキシタモキシフェンのER結合には水酸基が特に重要であり、タモキシフェンのエチル側鎖はERのリガンド結合ドメインからはみ出している。タモキシフェンの使用者の中に、子宮癌、熱感紅潮、血栓塞栓症の発生率が高くなった患者は殆どいない。この薬はラットに肝癌を引き起こす可能性がある。これは、タモキシフェンのスチルベン骨格から延びるエチル基がアリル位酸化され、DNAのアルキル化や鎖切断を引き起こす事が原因と考えられる。この問題は後にトレミフェンで修正されている。タモキシフェンでは、ERのアミノ酸であるAsp-351とSERMの抗エストロゲン性側鎖との関係から、ラロキシフェンよりも標的特異性が低くなる。タモキシフェンの側鎖はAsp-351を中和出来ないので、この部位はERの近位端のAF-1にアロステリックに影響を与える。この問題は、第二世代の薬剤であるラロキシフェンで修正される。 トレミフェン(2-(p-[(Z)-4-chloro-1,2-diphenyl-1-butenyl]phenoxy)-N,N-dimethylethylamine)は、非ステロイド性トリフェニルエチレン系抗エストロゲン薬であるタモキシフェンの塩素化誘導体であり、エチレン側鎖にクロロ置換基を持ち、タモキシフェンと同様の結合親和性を有する。トレミフェンの構造と活性の関係はタモキシフェンと似ているが、DNAのアルキル化に関しては大幅に改善されている。付加された塩素原子の存在は、活性化されたアリル代謝物から形成される陽イオンの安定性を低下させ、アルキル化の可能性を減少させる。実際、トレミフェンはネズミの肝細胞でDNA付加体形成を示さなかった。トレミフェンは、卵巣摘出ラットモデルにおいて骨量減少を防ぎ、臨床的にも骨吸収マーカーにタモキシフェン同様の影響を与える。トレミフェンは、タモキシフェンと同様にミクロソームのシトクロムP450酵素による第I相代謝を受けるが、主にCYP3A4アイソフォームによって代謝される。トレミフェンは、N-脱メチル化および脱アミノ化-水酸化によって、2つの主要代謝物であるN-デスメチルトレミフェンとデアミノヒドロキシトレミフェン(オスペミフェン(英語版))を生成する。N-デスメチルトレミフェンはトレミフェンと同等の効果を持つ一方、4-ヒドロキシトレミフェンはトレミフェンよりもERへの結合親和性が高い。4-ヒドロキシトレミフェンは、4-ヒドロキシタモキシフェンと同様に振る舞う。
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第1世代:トリフェニルエチレン類
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タモキシフェンは、肝臓のシトクロムP450によって4-ヒドロキシタモキシフェンに変換され、ERβよりもERαサブタイプに選択的な遮断薬となる。4-ヒドロキシタモキシフェンは、17β-エストラジオールを認識するのと同じ結合ポケット内でERに結合する。4-ヒドロキシタモキシフェンの受容体認識は、4-ヒドロキシタモキシフェンの2つの構造的特徴、すなわちフェノールA環と嵩高い側鎖によって制御されている様である。フェノールA環は、ERのArg-394、Glu-354の側鎖と、構造的に保存されている水に水素結合を形成する。嵩高い側鎖は、結合腔から突出しており、ヘリックス12をリガンド結合ポケットから移動させ、補助活性化因子結合ポケットの一部を覆っている。ERと4-ヒドロキシタモキシフェンの複合体形成により、補助活性化因子タンパク質が接近不能となる。これにより、DNA合成が減少し、エストロゲン活性が阻害される。クロミフェンとトレミフェンは、タモキシフェンと同様の結合親和性を示す。従って、この2つの薬剤は、ERβよりもERαサブタイプに対してより選択的な遮断薬である。
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