社会部
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社会部(しゃかいぶ)とは、報道機関において事件事故、社会問題の取材を担当する部門のことである。
概説
活動範囲は幅広く、社会の現象全般を扱う部門と言える[1][2]。
扱うニュースの性格上、政治家や財界人に近い政治部や経済部とは違い、社会正義を追求し[3]権力からもっとも遠いところにいる権力の監視役[4][5][6][7][8]、そして社会の弱者の味方[9][注釈 1]というイメージが強い。政治部記者のように新聞社を退社後に政治家に転じることはほぼ無く、フリージャーナリストなどとして報道に携わり続ける傾向が強い。
おもな活動範囲
遊軍
遊軍(ゆうぐん)とは、特定の記者クラブには所属せず、なにか大型の報道テーマが起きた場合、現場に投入される記者のことである[11][12]。「いつでも出動できる状態でいて、時機を見て活動する軍隊[13]」を語源とする[11]。街ネタを拾うのが得意な記者が遊軍を任されやすい[14]。
遊軍記者にはさまざま分野で高い専門性をもつ記者もいるが、ほとんどは大きな事件・事故が起きたときに警察や検察を担当する記者を後方で支援する役割である[11]。
中央省庁の記者クラブ
環境省、厚生労働省、文部科学省といった官庁の記者クラブで、労働問題や教育問題をおもに行政面から取材する[15]。国会開会中は本会議や委員会の傍聴も行う[16]。
事件取材
警察関係、特に刑事事件の取材を担当する社会部記者のことを事件記者と呼ぶ[17]。警察本部記者クラブのほか、裁判所や検察庁を担当する司法記者クラブを拠点に活動する[16]。
社会部のなかでは記者がもっとも多い分野である[18]。東京の社会部の場合、警視庁の記者クラブに各社10人もの記者が常駐し、司法記者クラブにも10人近くもの記者が常駐していると言われる[18]。また警視庁記者クラブの傘下には警察署を担当する「サツ回り」と呼ばれる若手記者もいるため、事件記者は各社の社会部で合計で30人にも達すると言われる[18]。
このことが日本のメディアが事件報道を圧倒的に重視してきた理由と言われ[18]、警察担当のなかでも殺人や強盗といった凶悪犯捜査を行う刑事部捜査第一課を担当する記者は花形とされる[19][注釈 2]。
社会部は政治家のスキャンダルを追及したり汚職事件では捜査サイドの動きを取材したりする[21][22]。
地方自治体
都道府県や市区町村といった地方自治体や地方選挙の取材も社会部の担当である[1]。地方のメディアには政治部がないことがほとんどであるため社会部が政治部と同じ役割を果たしているケースが多い[23]。
皇室
調査報道
調査報道は事件取材を行なっている社会部が得意とする分野である[7][3]。
新聞社ごとの事情
読売新聞社は大衆紙を志向していたことや、社主の正力松太郎が警察出身という事情もあって伝統的に社会部が強く、1950年代から「社会部王国」と呼ばれるほどの花形部署であった。しかし1980年代から渡邉恒雄(政治部記者出身)が権勢を振るうにあたって政治部の勢力が伸長し、かつてほどの花形ではなくなっている。
朝日新聞社では伝統的に政治部・経済部が強く、社会部出身者は社長になれないことから「朝日の参議院」と呼ばれる[24]。毎日新聞社も同様の傾向にある[25]。渡辺雅隆や朝比奈豊は社会部出身の社長であるが、会社が何らかの事情で批判を浴びている時の「火中の栗を拾う」状況での就任であった。
脚注
注釈
出典
- ^ a b 松本 2015, pp. 20–21.
- ^ a b 新聞にかかわる仕事, p. 23.
- ^ a b 新聞にかかわる仕事, pp. 26, 55.
- ^ 誰が日本を支配するのか!? 政治とメディア, p. 122,135.
- ^ 松林 2016, p. 81.
- ^ 朝日新聞記者有志 2015, pp. 58–60.
- ^ a b 調査報道がジャーナリズムを変える, pp. 131–133.
- ^ 松本 2015, p. 21.
- ^ 新聞にかかわる仕事, p. 26.
- ^ 柴田 2013, pp. 83–85.
- ^ a b c 誰が日本を支配するのか!? 政治とメディア, p. 136.
- ^ 新聞にかかわる仕事, pp. 44–45.
- ^ 『新選 国語辞典』 小学館
- ^ 池上 2015, p. 108.
- ^ 誰が日本を支配するのか!? 政治とメディア, pp. 136–137.
- ^ a b 新聞にかかわる仕事, p. 44.
- ^ コトバンク「事件記者」
- ^ a b c d 誰が日本を支配するのか!? 政治とメディア, p. 137.
- ^ 池上 2015, pp. 107–112.
- ^ 誰が日本を支配するのか!? 政治とメディア, p. 139.
- ^ 朝日新聞記者有志 2015, p. 59.
- ^ 調査報道がジャーナリズムを変える, pp. 69, 131–133.
- ^ 松本 2015, pp. 20–22.
- ^ “襷掛け人事”が崩れた朝日新聞 人材ナシの社長交代劇」
- ^ 毎日の新社長に社会部出身の特ダネ記者
参考文献
- 佐藤優、魚住昭(編)、2010、『誰が日本を支配するのか!? 政治とメディア』第1刷、マガジンハウス ISBN 978-4-8387-2156-6
- 松林薫、2016、『新聞の正しい読み方 情報のプロはこう読んでいる!』初版、NTT出版 ISBN 978-4757103634
- 朝日新聞記者有志、2015、『朝日新聞 日本型組織の崩壊』第1刷、文藝春秋〈文春新書〉 ISBN 978-4166610150
- 池上彰、2015、『ニュースの大問題! -スクープ、飛ばし、誤報の構造』第1刷、さくら舎 ISBN 978-4865810165
- 田島泰彦、山本博、原寿雄(編)、2011、『調査報道がジャーナリズムを変える』第1刷、花伝社 ISBN 978-4763406033
- 松本創、2015、『誰が「橋下徹」をつくったか -大阪都構想とメディアの迷走』初版第1刷、140B ISBN 978-4903993232
- ヴィットインターナショナル企画室(編)、2006、『新聞にかかわる仕事』第1刷、ほるぷ出版〈知りたい!なりたい!職業ガイド〉 ISBN 978-4593571895
- 柴田鉄治、2013、『原子力報道』第1版1刷、東京電機大学出版局 ISBN 9784501628000
関連項目
社会部
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1953年には「読売新聞社会部」が第1回菊池寛賞を受賞(原四郎を中心とする同社会部の暗黒面摘発活動)、1955年には社会部記者の安部光恭が第3回菊池寛賞を受賞している。 また、読売新聞は、かつて立松和博、本田靖春(東京本社)、黒田清、大谷昭宏(大阪本社)といった辣腕記者を社会部に擁し「社会面に強い」と言われた。 競馬の予想記事や漫画欄を作ったりして、庶民向きの読みやすい紙面作りを進めたが、その推進役は編集局長になった柴田勝衛である。…この柴田が正力社長の下で起死回生を狙ったのが、日本各地に縄張りを持って君臨していた、素性の知れたヤクザの親分衆36人を選んだ企画であり、『人物の森』風の人物評伝に仕立てて連載すると、それが評判になり売上げを大いに伸ばした。連載が終わった年の正月のことである。紋付きハカマに正装した36人の親分衆が市電を止めて数寄屋橋の大通りに並び、読売新聞社の正面玄関に向かい土下座して一斉に頭を下げると、「柴田編集長にご挨拶したいので、読んで頂きたい」と申し入れた。…柴田は悠然と正面玄関に現れたのであり、その前にひれ伏した親分衆の代表が、「われわれのような日陰者を、こんな晴れがましい紙面で世間様に紹介くださり、光栄の至りに思う次第であります。このご恩は孫子末代まで忘れることはせず、…、われらの血筋が続く限り読売新聞の進展に死力を尽くすことを、ここで一同で誓約いたします」と言って、粛然と引き上げていったそうである。 田辺則雄発行名儀人(昭和27年頃)の話によると、読売新聞の社会部は大躍進を遂げ、親分衆の協力による物凄い特ダネ続きとなり、下町衆の支持を受け売り上げを伸ばした。…社会部長の田辺則雄も、読売の名物男で、戸籍にバツ印(×)が11も付いており、幾ら日本の新聞界に人材がキラ星でも、前科11犯はそうザラにある話ではない。…親分衆から一目を置かれる存在だったという。こんな伝統があることが大きく影響して、朝日を始め他社は暗黒街の取材が仲々出来ないのに、読売の社会部だけはスクープを記録し続け、新聞界では未だに一頭突出するのだそうだ — 藤原肇『朝日と読売の火ダルマ時代』国際評論社、1997年 読売新聞大阪社会部はコラム「窓」、長期連載「戦争」を拠点に、社会的弱者の視点に立つ特集記事を数多く発し、黒田が社会部長になってのち社会部は“黒田軍団”という異名で呼ばれた。しかし1980年代に社内で渡邉恒雄らによる保守的思潮が主流になると圧力が高まり、1987年に黒田は退社に追い込まれた。渡邉に放逐された記者は数多いが、渡邉が直接手を下すことはなかった。渡邉の意を体した周囲が該当する記者を左遷したり、仕事を取り上げたりして、退社に追い込むのが常であったと言われている。
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