気象予測の科学化
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「ヴィルヘルム・ビヤークネス」の記事における「気象予測の科学化」の解説
ヴィルヘルムは師であるヘルツの「将来の出来事の予測が重要である」という考え方に影響を受けていた。彼は、1901年頃から自身の構想の一部として、大気の状態の時間変化を自身の循環定理を使って計算することを考え始めていた。当時の気象予測は、個人の主観に基づく天気図の経験的解釈に頼っていた。ヴィルヘルムは気象予測を個人の経験ではなく、物理学方程式を用いた科学化によって客観化することを意図した。彼は1904年に「力学と物理学の問題としての気象予測」という論文の中で、流体力学に基づいて気象予測のための「大気の厳密な物理学」を確立するという長期的な目標となる理念を発表した。その中で彼は次のように述べている。 "全ての科学者が信じているように、大気がその前の状態から次の状態に物理法則に従って推移することがもし正しければ、予測を行うための問題を合理的に解決するための必要十分条件は、1.大気の初期状態についての十分に正確な知識。2.大気がある状態から別の状態に推移する際に従う法則についての十分に正確な知識、であることは明白である。" 彼は気象予測のための手段として、流体力学と熱力学を適用した予測方程式群を示した。これが今日の気象予測のためのプリミティブ方程式の原型となった。彼の循環定理は、変数と物理学法則間の関係を補助的に計算するために使われた。 ヴィルヘルムは、1905年12月にアメリカのニューヨークにあるコロンビア大学に招聘されて講演を行った。この講演を聞いたアメリカ気象局の気象学者クリーブランド・アッベはヴィルヘルムにアメリカ気象局での講演を要望した。その際に狭い気象局ではなくカーネギー研究所の広い部屋で「力学と物理学の問題としての気象予測」という題で講演してもらうことにした。この講演の聴衆の中にカーネギー研究所の理事長で数理物理学者だったウッドワード(Robert Woodward)がいた。ウッドワードはヴィルヘルムの手法に感銘し、その研究の実現のために彼をカーネギー協会の研究提携者にして、1906年から助手を雇用するための助成金を援助することを約束した。カーネギー協会による支援は1941年まで続き、それによってヴィルヘルムは多くの気象学研究者を育てることができた。この中から次に挙げるような世界的に有名な気象学者が続々と輩出することとなった 。 サンドストレーム(Johan Wilhelm Sandström):スウェーデン気象サービス長官 ヘッセルベルク(Theodor Hesselberg):ノルウェー気象研究所所長、国際気象委員会(IMC)事務局長 スベルドラップ(Harald Sverdrup):ヴィルヘルムの後のベルゲン大学気象学教授、カリフォルニアのスクリプス海洋研究所所長、ノルウェー極地研究所所長、オスロ大学教授 ヤコブ・ビヤークネス(Jacob Bjerknes):ヴィルヘルム・ビヤークネスの息子で、スベルドラップの後のベルゲン大学気象学教授と後のカリフォルニア大学UCLA校気象学教授 ゾルベルク(Halvor Solberg):オスロ大学気象学教授 ベルシェロン(Tor Bergeron):ウプサラ大学気象学教授 ロスビー(Carl-Gustaf Rossby):シカゴ大学とストックホルム大学の気象学教授 ゴッドスク(Carl Godske):ベルゲン大学気象学教授 ヴィルヘルムは、1907年にノルウェーのロイヤル・フレデリック大学(後のオスロ大学)の教授となった。そこでヴィルヘルムとサンドストレームは、気象の基本方程式を使って大気の状態を把握するために、天気図上での風の幾何学的な表現を研究した。これより、風の瞬間的な流線と等風速線を用いて、大気の二次元の運動場を図として表現できるようになった。また作成された図を解析することにより、風が収束または発散している地域が視覚的にわかるようになった。これらの成果は近代的な天気図解析法の基礎として、1910年から11年にかけて「気象力学と水文学(Dynamic Meteorology and Hydrology)」という本の第1巻「静力学」と第2巻「運動学」にまとめられ、カーネギー協会の援助によってアメリカで出版された。また彼は、気象観測結果を物理学的に扱えるように、気圧の観測単位を水銀柱の高さmmHgから圧力を表すmbar(ミリバール)に変更することや高度にジオポテンシャルハイトを導入することを初めて提案した。
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