民法第478条を巡る議論
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「過誤払い」の記事における「民法第478条を巡る議論」の解説
ところで、民法第478条の立案時、民法の起草委員である梅謙次郎が想定していた適用場面は、 債権者が死亡し、相続人が弁済を受けたが、実は隠された他の相続人が存在した場合 債権譲渡が無効・取消・解除により効力を失った場合の債権譲受人 など、債権が誰に帰属しているか争いのある場合であったといわれる。この背景には、誤って真の債権者以外の者へ行った弁済を取り消し、債務者が債権を一旦回収してから改めて真の債権者に弁済しなおすのは煩雑なので、弁済を受けた者が直接真の債権者に債権を渡すのが良いとの考えがある。 このような立法経緯や、その母法(フランス民法1240条)の考え方を考慮すると、顧客と全く無縁である第三者への出金に本条を適用して銀行の免責を認めるのは不適切である、との批判が以前からあった。また、本来債務の弁済に適用することを前提とした同規定を、預金の払戻しに適用することは不適当であるとの批判があるし、預金払戻しのみならず、貸付金の払渡しの場面にもこれを適用することは、解釈を拡大しすぎているとの批判もある。 しかし、昭和40年代以降の裁判所の判断では、まず金融機関の出金行為に検討を加え、通帳と印鑑の真贋確認が正しく行われ過失がないと認定すれば直ちに本条を適用して銀行の免責を認めるのが主流である。 2003年(平成15年)には、現金自動入出機による預金の払戻しについても民法第478条が適用されるとし、機械処理であることは同条の適用を否定しないと判示する最高裁判決(最高裁平成14年(受)第415号平成15年4月8日第三小法廷判決・民集57巻4号337頁) - 判決本文も出されている。ここから、預金者保護法の想定する場面以外では、偽造キャッシュカードや盗難キャッシュカードによる損失についても、まず銀行の手続の妥当性を問うて、そこに瑕疵がなければ免責とする判断がなされるものと見られる。 そのほか、以下のような取引にも民法第478条が適用される。 定期預金の期限前解約 定期預金は本来、所定の期日まで預けておくものだが、期限前に解約して受け取ることについても民法第478条の適用がある。 貸付金の払渡し 定期預金を担保とした貸付金や、保険の契約者貸付制度に基づく貸付金の払い渡しについても、民法第478条の適用がある。 定期預金を担保とした貸付金 銀行の預金商品において定期預金を担保とした繰越貸付制度(当座貸越制度ともいう)が設けられている商品がある。本来は借金は個別に借入の契約手続を行い、この過程で慎重に本人確認を行い無権限者への貸付けを排除するべきとの主張に対して、定期預金の期限前解約と同視できるという判断、又は自動繰越貸付制度は普通預金の延長であるという判断から、この貸付金の払渡しについても、一定の注意義務を果たしていれば民法第478条の適用を認める。 特に、自動繰越貸付では、通帳の提示と印鑑照合のみで貸付けが受けられる点から、普通預金と同程度の注意義務で行われた貸付に民法第478条の適用を認め、顧客の定期預金を貸付金と相殺して喪わせる。 保険契約者に対する貸付金 生命保険の商品によっては、解約返戻金内の所定の範囲内で貸付を行う契約者貸付制度がある。保険契約者本人になりすました無権限者がこの制度に基づく貸付を受けて、金銭を受領して逃亡する事例がある。借り入れに際しては個別の契約を行い、この過程で慎重に本人確認義務を行い無権限者への払い出しを排除するべきとの主張に対して、約款で保険証書の提示と印鑑の提示をもって取引を行う旨定めてあり、その履践に過失がなければ注意義務を果たしたとして民法第478条を適用し、貸付金と、保険金や解約返戻金との相殺を認める。 クレジットカードのキャッシング・ローン クレジットカードに付帯のキャッシング・ローン機能で不正に出金が行われた場合には、所定の期間内に届け出ればその被害を補填するところが多い。 さらに、ネットバンキングにおける金銭詐取についても、金融機関が認証手段を講じて本人と認めた上での取引に付随する損害を顧客に負担させる旨の約款が正当化されるとの指摘もある。
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