景観破壊が争われた例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/06 04:06 UTC 版)
景観破壊の阻止や景観保護の目的を達成するために、土地や建物の財産権に制限がかかるケースがしばしば発生する。そのため、住民や財産権者間で意見の対立が起こり、訴訟問題に発展することもある。一般に、景観破壊、景観阻害等による訴訟は、開発・建築行為の差止めもしくは景観破壊に対する損害賠償を求める民事訴訟、または、景観保護の行政法規を根拠に建築・開発許可の差止めもしくは許可内容の是正などを求める行政訴訟の、2パターンの争いが見られる。裁判所判断の中核は、法的救済が必要な景観破壊の存在の有無、法的に保護されている「景観利益」侵害の有無が焦点とされる。 景観保護と公共の利益が争われ景観保護への配慮が求められた先駆けとなる判例として、日光杉並木を伐採し道路の拡幅を行う計画に対し、杉並木の伐採は文化遺産と景観の破壊であるとして開発許可の取り消しを求めた日光太郎杉事件がある。1969年4月の宇都宮地裁の判決では、行政側の景観、歴史、文化的価値への軽視を指摘し、その許可を取り消した。事件はその後東京高裁に控訴されたが、1973年7月に出された判決は、伐採後の復元困難性の観点も加え原判決を維持した。 1992年に、京都ホテルの改築は景観破壊だとし、歴史的文化環境権(景観権)を求める原告らが民事訴訟と行政訴訟を起こすが、歴史的文化環境権(景観権)が否認され違法性を否定された。2001年には、鎌倉のまちなみをめぐる景観破壊が争われ、原告の主張が退けられるも、景観を享受する利益が個人的利益ではなく、公共の利益であることが認められる。2004年に景観法が施行されると、環境権や景観権を根拠とした訴訟が増加していく。2001年に勃発した国立マンション訴訟においては、地裁で住民側が勝訴した影響により、2003年の白壁マンション訴訟において住民側の景観利益侵害が認められる判決が出る。しかし、国立マンション訴訟は最高裁まで争わた結果、景観利益侵害の違法性は認められなかった。その後、2008年には、船岡山マンション訴訟事件において、景観利益の有無はともかく、建築関係規定は住民個々の景観権を保護していないと判断される事例も出る。2009年には、環境権が近隣住宅にまで及ぶと解釈し、漫画家楳図かずおの自宅が景観破壊であるとして近隣の原告2名が訴訟するなどの争いがあったが、景観利益は否認されかつ受忍限度内と判断される。また、同年に争われた、鞆の浦世界遺産訴訟においては、長年の事業実施に向けた合意の成立があったにもかかわらず、景観の歴史的・文化的価値が認められ、住民の景観利益が認定された。 以下、景観破壊であるかどうかが争われた訴訟を記す。 国立マンション訴訟(行訴H13.12.4 東京地判、民事H14.12.18 東京地判、民事H16.10.27 東京高判、民事H18.3.31 最判一小法廷) 京都ホテル(民事H4.8.6 京都地決、行訴H6.1.31 京都地判) 和歌浦景観訴訟事件(H6.11.30 和歌山地判)歴史的景観権の法律上の権利性を否認 鎌倉まちなみ訴訟(H13.6.7 東京高判) 白壁マンション訴訟(H15.3.31 名古屋地決) 大田区山王マンション事件(H16.2.20 東京地判) 四観音道高架道路工事差止仮処分訴訟(H16.10.18 名古屋地決) 地下室マンション開発許可取消請求訴訟(H17.10.19 横浜地判) 地下室マンション建築確認取消請求訴訟(H17.11.30 横浜地判) 府中東芝マンション事件(H17.11.21 東京地判) 都立大跡地マンション事件(H17.11.28 東京地判) 町田マンション事件(H18.9.29 東京地判) 町田玉川学園マンション事件(H19.10.23 東京地判) 船岡山マンション訴訟事件(H19.11.7 京都地判) 鞆の浦仮処分訴訟(H20.2.29 広島地決) 二子玉川再開発事業差止請求訴訟(H20.5.12 東京地判) 豊中とねやまマンション事件(H20.8.7 大阪地判) 赤白ストライプハウス事件(H21.1.28 東京地判)- 原告2名の主張に対し、目立つ色彩ではあるが色彩の法的規制や取り決めがなく現に色彩が統一されてないとし、景観利益を否認かつ受忍限度内と判断。 名古屋四観音道高架道路工事差止請求訴訟(民事H21.1.30 名古屋地判、行訴H21.2.26 名古屋地判)- 地域の歴史的・文化的環境・景観の構成、地域住民による自主規制を否定かつ景観利益を否認。 鞆港埋立・架橋差し止め訴訟(H21.10.1 広島地判)
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