日本語版の出版延期問題
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「ザ・レイプ・オブ・南京」の記事における「日本語版の出版延期問題」の解説
日本語版の出版にあたっては、原著出版直後に日本での翻訳権・出版権を得た柏書房が、「解説書」を同梱で出版しようとした後に、柏書房は出版を中止した。この出版中止について朝日新聞社の英字紙である「アサヒ・イブニング・ニュース」(1999年2月19日付)は「本の製作を中止したのち、柏書房が語ったところによれば、手紙のうちの一通は極右グループの構成員を名乗る男からのものであった。」と報じた。同趣旨の報道は「ロサンゼルス・タイムズ」でもなされた。チャン自身も「そのような動きは、日本の右翼組織の脅迫によって動機付けられたものと疑っている」と主張した。しかし、柏書房の芳賀啓編集長は、出版延期は右翼の脅しによるものではなく、著者の出版妨害であると語った。その理由について、柏書房は、チャンが事実誤認の訂正を拒否をしたためであると主張した。 アイリス・チャンの母親である張盈盈は、アイリス・チャンの思い出をつづる本でこの事情を次のように主張している。 柏書房は1998年春ごろに翻訳版の版権を取得したが、何人かの歴史家や教授に翻訳書の批評を拒否され、そのうちの少なくとも一人は「得体のしれない組織」から家族への脅迫を受けているのがその理由だったと聞いた。また本書の版権を取得したことについて、柏書房が脅迫されているという噂が流れた。そのような状況下で、1998年8月に柏書房がアイリス・チャンに本書の内容の訂正を求め始め、10月に訂正箇所のリストを送ってきた。アイリス・チャンがそれを精査したところ、その要求の主要部分は誤りの訂正ではなく、事件に関する解釈の押しつけであると判断されたために、単純なスペルミスなどの些細な10か所の誤りの訂正を認め、それ以外の訂正については断ることにして、その点を説明する覚書を柏書房に送った。その後、柏書房は一部の写真の削除や後書きの追加などを求めたが、いずれも同意できる内容ではなかったので、認めなかった。訂正要求についてアイリス・チャンは、たとえば盧溝橋事件における日本軍の役割の解釈など、柏書房側が訂正した解釈のほうに誤りがあると考えていた。 1999年の2月に、アイリス・チャンが日本の記者から電話でインタビューされ、柏書房が同梱で本書に関する批判書を添付しようとしている事実を知り、その点についてアメリカ側の出版社に確認を依頼していたところ、柏書房が出版を断念するという発表をした。この件について、柏書房の芳賀啓編集長はAP通信社の取材に対し、1999年2月の記事で、出版社が原作の書物を批判する書物を同梱することについて、元の書物の著者と相談する義務はないと述べたという。 なお、この時に訂正を求めるリストや批判書の制作の重要な部分を担当した人たちは、南京大虐殺について1970年代から調査研究している「南京事件調査研究会」という組織の加入メンバーであり、日本では南京大虐殺の積極的な肯定派と受け取られている人々である。彼らが、柏書房の芳賀啓編集長を通して著者のアイリス・チャンに訂正等を求めた理由として説明したものは、次のような論理であったという。 日本の保守的なグループは、南京大虐殺が全く存在していなかったと主張している。そのやり方は、南京大虐殺に関する記事の些末なミスをあげつらい、その錯誤をもって、全体の事実の否定を印象付けようとするものである。これに対抗するために、日本語の出版では、すべての誤りを除去したいのだ。 張盈盈は、この出版頓挫の出来事の経緯から、日本における右翼的な勢力の圧力が非常に大きいことをうかがい知ることができると主張している。 同書は2007年12月に同時代社 (巫召鴻 訳)から出版された。邦題は『ザ・レイプ・オブ・南京 ‐ 第二次世界大戦の忘れられたホロコースト』である。
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