操舵台車・ラジアル台車(輪軸操舵機構つき台車)
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「鉄道車両の台車」の記事における「操舵台車・ラジアル台車(輪軸操舵機構つき台車)」の解説
操舵台車は輪軸操舵機構により輪軸の方向を変えて曲線をスムーズに通過できるようにした台車である。普通の台車は車体に対して回転することにより曲線区間を滑らかに通過することができるが、それでもなお1台車の2輪軸は一定間隔(ホイールベース)を保って平行に支持されているため、輪軸とレールが完全に直角にはならず、車輪とレールとの間にアタック角(攻撃角とも。レールの円弧の接線と車輪の進行方向のなす角度。)が発生して車輪のフランジやレールを磨耗させるだけでなく騒音(きしり音やゴロゴロ音)を発生させる。もし、各々の車軸の延長線がレールの曲線の中心(曲線半径の中心)を通るように変位させることができればアタック角が0となり、車輪のフランジやレールの磨耗が一層少なくなり騒音の発生を抑え、さらにスムーズに通過することができるようになる。 このため、単台車において、2つの輪軸のそれぞれ左右に備わる軸箱をクロスアンカーリンクでたすき掛けに結合し、台車枠と軸箱の位置関係を可変させることで曲線通過時の横圧低減を目指すラジアル台車が研究開発されるなど、比較的早期から自己操舵のアイデアは注目されていた。だが、この方式はラジアル台車の機構をボギー台車に応用して1970年代に実用化された南アフリカのシェッフェル台車などを含め、一般に軸箱の前後方向の支持剛性を意図的に低下させることになる。この点は1980年代にカナダのバンクーバーで実用化されたスカイトレイン用Mark Iの操舵リンク方式でも同様で、高速走行時には支持剛性が決定的に不足し蛇行動が発生しやすくなるという、致命的な弱点を抱えていた。 そのため、1台車の中で完結する自己操舵機構を高速鉄道向けとして実現するにあたっては、直進時の軸箱について前後支持剛性の確保と、曲線通過時の前後支持剛性低減による操舵性能の確保という、矛盾した要素の両立が強く求められた。さらに、日本では自然振り子式車両の導入の本格化に伴い、曲線区間での横圧の軽減が軌道保守の観点から特に強く要求されるようになり、自然振り子式と組み合わせることを主眼とした自己操舵台車の研究開発が本格化した。この点についてある程度解決が見られるようになったのは1980年代中盤に入って以降のことで、まず1986年に日本の国鉄がDT953形台車として、制御付き自然振り子と同様に軌道の曲線情報をあらかじめ制御装置に記録し、ATS地上子による位置情報と速度情報から曲線進入を検知、油圧により強制自己操舵を行うという方式を開発、381系電車に装着して本線走行試験が行われた。 この方式はただちに実用化されることはなかったが、こうした実験データの蓄積とその後の研究の進展で、1台車に2組ずつ備わる輪軸のいずれか一方の軸箱と台車枠の水平面における位置関係を固定とし、一方のみを操舵可能とすることで曲線と直線の双方での特性の両立が可能な見通しが立ち、1990年代以降、JR東海の383系電車を皮切りに日本のJR各社を中心に制御付き自然振り子車と組み合わせる形で自己操舵台車を導入するケースが増えている。 このほか、リニアモーター地下鉄の車両ではその構造上、一般的な回転式電動機と駆動装置の接合部が不要であることから操舵機構を用いた台車が採用されており、軸箱に積層ゴムを用いることで自己操舵機構を持つ台車が使用されている。 現在実用化されているのは以下の各種である。 各ボギー台車に備わる軸箱の一方について支持剛性を柔らかい設定とする方式JR東海383系電車(車体端側軸箱を柔支持) 各ボギー台車の両軸箱をリンクで結合して変位可能とし、各車軸の変位角を均等にする方式スイス国鉄Re460形、BLS AGRe465形(枕木に対して車軸が最大4度まで変位、半径300mの曲線で104km/hでの走行が可能、最高速度230km/h) 台車内前後の主電動機および吊り掛け式の駆動装置と輪軸全体が台車中心付近のピボットを中心にして曲線にあわせて台車枠に対して転向する方式スイス国鉄Re450形(最高速度130km/h)、スイス、モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道GDe4/4形など 台車内前後の主電動機および吊り掛け式の駆動装置と輪軸全体が台車中心付近のピボットを中心にして曲線にあわせて台車枠に対して転向するのに加え、さらに前後の主電動機、駆動装置、輪軸をリンクで結合して2軸の車軸の変位角を均等にする方式スイス、レーティッシュ鉄道Ge4/4III形、モルジュ-ビエール-コソネイ地域交通Ge4/4形、モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道Ge4/4形(1m軌間、設計最高速度120km/h)など 曲線区間で車体に対して台車が回転すると、車体と台車の位置関係の変化をリンク機構により輪軸に伝え、両輪軸の延長線が曲線の中心に指向するように角度が与えられる方式JR北海道キハ283系気動車、東京メトロ1000系電車(車体中心側軸箱のみ操舵) 台車そのものを転向制御する方式スイス国鉄Re420形・Re620形など1960 - 80年代のスイスの多くの電気機関車、小田急50000形の連接台車など 383系電車のC-DT61形台車。軸箱を支持する軸ばね上部の構造が左右で異なっている(向かって右側の軸箱が柔支持となる)ことに注意 キハ283系気動車のN-DT283形台車。中央の枕ばね下部から左右の軸箱に伸びるリンクに注意
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