感染症と現代
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/14 08:19 UTC 版)
詳細は「新興感染症」、「再興感染症」、および「輸入感染症」を参照 1980年、WHOは天然痘の根絶宣言を出した。人類は、医学の進歩や公衆衛生事業の進展により、近い将来、感染症を撲滅することができるだろうとだれもが楽観した。しかし、実際にはエボラ出血熱やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の登場などにみられる新たな感染症(新興感染症)の登場や、結核・マラリアなどいったんは抑制に成功したかにみえたが再び流行した感染症(再興感染症)の時代をむかえている。さらに、医薬品に抵抗力をもつ、さまざまな薬剤耐性菌も出現している。 病名病原体発見(確認)年・国名症状感染経路エボラ出血熱 エボラウイルス 1976年・スーダン 全身出血、臓器壊死 血液・体液の接触 後天性免疫不全症候群(AIDS) ヒト免疫不全ウイルス(HIV) 1981年・アメリカ合衆国 全般的な免疫力低下 性行為、血液感染など 腸管出血性大腸菌感染症 病原性大腸菌O157 1982年・アメリカ合衆国 下痢、腎機能低下 経口感染 C型肝炎 C型肝炎ウイルス 1989年・アメリカ合衆国 食欲不振、嘔吐、黄疸など 血液・体液の接触、母子感染 変質型クロイツフェルト・ヤコブ病 異常プリオンタンパク質 1996年・イギリス 進行性の認知症、行動異常など BSE牛の脳・脊髄などの摂取 鳥インフルエンザ トリインフルエンザウイルス 1997年・中華人民共和国 発熱、咳、多臓器不全 病鳥およびその内臓・排泄物への接触 SARS(重症急性呼吸器症候群) SARSウイルス 2002年・中華人民共和国 発熱、咳、呼吸器症状(呼吸困難など) 接触感染、飛沫感染 上表は、1970年代以降に発見された新興感染症のなかで主要なものである。感染症が再び問題となってきた背景としてはまず、人やモノの移動が大量かつ短時間におこなわれるようになったことがあげられる。中国南部を起源とするSARSがわずかな期間で世界中に広がったことは航空機の利用により人びとの移動が活発化したこと、さらには世界経済の一体化が進行していることとも深い関係がある。次に、熱帯雨林の開発により、人類が新しい病原体と出会うようになったことがあげられる。エボラ出血熱などが、そうした事例に属する。薬剤耐性菌の出現に関しては、医療現場で抗生物質が過剰に、または不適切に使用されたり、患者が自己判断で服用・投与をやめたりすることも原因のひとつと考えられている。さらに、インフルエンザの流行などでは、感染症にたいする警戒感が弱まり、予防接種などが十分でなくなってきたことが指摘されている。麻疹や風疹に関しても、予防接種の未接種などによって十全な免疫が獲得されないことが流行の要因と考えられ、そのため現在では基本的に2回接種することとしている。 感染症にかかわるこうした時代状況は「細菌の逆襲」、「疫病の時代」 などとも呼ばれている。21世紀にはいってからも、SARSが出現して世界的に猛威をふるった。将来的には、農業開発にともなう土地開発、環境破壊、都市化・工業化もふくむ環境変化によって、こうした新興感染症が今後も現れるであろうことが予想され、また、再興感染症もふくめて感染症を撲滅することは難しいという見通しが立てられている。このような状況にあって、必要なことは、過度に恐れることではなく、適度に恐れることであるという認識、あるいはむしろ、感染症との「共生」がはかられるべきではないかという認識も広がっている。 WHOは、パンデミックによる被害を軽減するために、 医療体制(抗ウイルス薬治療をふくむ) ワクチン 公衆衛生対応 個人防御 の4点を組み合わせて実施することの必要を呼びかけている。
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