感染症の伝搬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 01:20 UTC 版)
主な被害は吸血による直接的な影響と、感染症の伝搬である。感染症のベクターとしては、コロモジラミの方が重要で、発疹チフス、塹壕熱、回帰熱などの主要媒介動物である。これも個別の記事に任せる。 ヒトから吸血する3種類のシラミのうち、コロモジラミは吸血してかゆみを起こさせるばかりでなく、病原体のベクターとして重篤な感染症を媒介することがある。コロモジラミによって媒介される感染症としては、発疹チフス、回帰熱(シラミ媒介性回帰熱)、塹壕熱の3種類が知られている。またアタマジラミもごくまれに発疹チフスを媒介することがある。 発疹チフスの病原体は発疹チフスリケッチア Rickettsia prowazekii で、コロモジラミの消化管内で増え、糞に混じって排泄される。また感染したシラミは感染後2週間で死亡する。シラミが吸血した痕を掻いた際、糞やシラミの死骸などに混じった発疹チフスリケッチアが、その刺し口から侵入して感染し、発疹チフスを引き起こす。また人が密集したところでは、糞や死骸に混じったリケッチアを吸い込むことによって経気道感染することもある。 人が大集団で狭いところに住み、不潔な状態になると、シラミは大発生しやすい。そのため、欧米において過去に戦争熱、飢饉熱、船舶熱、刑務所熱などと呼ばれたものの多くはたいてい発疹チフスである。戦争はシラミの好む条件を満たしやすく、発疹チフスが戦局を支配し、歴史の転換の契機になることもあった。例えばナポレオン1世がロシア遠征でヨーロッパ最大級の60万の大軍の大半を失い敗退したのも、フランス軍の中で発疹チフスが大流行したからであったといわれている。 回帰熱はダニやシラミによって媒介されるスピロヘータによる感染症であるが、その1種である回帰熱ボレリア Borrelia recurrentis がコロモジラミによって媒介される。その媒介様式は詳しく判っていないが、このボレリアを保有しているヒトから吸血したシラミが、別のヒトから吸血した場合にのみヒトに感染すると言われている。 第一次世界大戦中に流行した塹壕熱はバルトネラ・クインターナ Bartonella quintana による疾患であり、これもコロモジラミによって媒介される。いずれにせよ、前近代までは戦争はシラミが付き物で、第二次世界大戦でもソ連軍を最も悩ませたのはドイツ軍ではなくシラミであるといわれるほど、前線兵士の敵だったようである。
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