忘却と再生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/07 14:53 UTC 版)
バロック音楽から古典派音楽への推移を、対位法的なものからホモフォニックなものへの転換と見るならば、バロック音楽それ自体が同様の推移をたどっており、バロック音楽といわゆる古典派音楽の境界を明確に線引きする事は難しい。連続的な趣味の変化に伴って、過去の遺物となったバロック時代の音楽は18世紀後半にはほぼ完全に忘却された。 ロマン派期になると、メンデルスゾーンによるバッハのマタイ受難曲の「再発見」に象徴されるように、バロック時代の音楽へと興味が向かうようになり、作品にバロック風の味付けを施す作曲家もいた(たとえばブラームスやフランクなど)。 19世紀末から20世紀の音楽家たちも、バロック期の音楽に興味を抱き、その形式の一部を模倣するような作品を作っている(たとえばグリーグの「ホルベアの時代から」、ドビュッシーの「ラモー賛 Hommage à Rameau」、ラヴェルの「クープランの墓 Le tombeau de Couperin」、レーガーの一連の作品、マーラーの交響曲第7番など)。 20世紀前半を通してバロック音楽への関心は持続された。新古典主義音楽の時期にはストラヴィンスキーやプーランクらがバロックを模した楽曲を発表した。やがて、バロック時代には現代とは異なる楽器が使用されていた事が、特に鍵盤楽器に関して注目を引き、チェンバロの復興が行われたが、当初は、チェンバロへの様々な誤解がある上に、ピアノ製造の技術を流用して作られた事などからこれらは今日では(逆説的にも)モダン・チェンバロなどと呼ばれている(チェンバロの歴史を参照)。 1970年代から、バロック(以前)の音楽の演奏に際しては、博物館や個人の収集で残されている同時代の楽器(オリジナル楽器)や、それらの楽器の忠実なレプリカ(ヒストリカル楽器)を使用し、同時代の文献などによって奏法研究を行うことで徹底的にバロック期の音楽を再現しようとする動きが活発になった。このような潮流を古楽運動とよび、このような観点で用いられるオリジナル楽器やヒストリカル楽器を古楽器と呼ぶ。管弦楽曲に関しても、大編成のオーケストラではなく小規模なアンサンブルを用いることが多い。 一方、グレン・グールドのピアノによるJ.S.バッハ録音に代表されるように、近現代の楽器でバロックが演奏される機会も多い。 シンセサイザーなどの電子楽器を使ったりポピュラー音楽に転用される例もある。パッヘルベルの「カノン」におけるコード進行(D-A-Bm-F#m-G-D-G(Em/G)-A、いわゆる大逆循環)は俗に「カノン進行」、「カノンコード」とも呼ばれ、最も良く知られた進行の一つである。アフロディテス・チャイルドの「雨と涙 (Rain and Tears)」を皮切りに、ポピュラー音楽、特にJ-POPでの引用例は枚挙に暇がない(山下達郎「クリスマス・イヴ」やZARD「負けないで」など多数)。 また、ディープ・パープルやレインボーのギタリストとして知られるリッチー・ブラックモアはクラシック音楽の素養があり、ブルース一辺倒だったロックにクラシック要素を積極的に持ち込んだ。代表曲「ハイウェイ・スター」「紫の炎」ではJ・S・バッハの楽曲を引用している。彼に触発されたランディ・ローズやイングヴェイ・マルムスティーンらもクラシックの教育を受けており、やはりバッハからの影響を受けている。これらバロック音楽とロックの融合は、ヘヴィメタルの様式美的な特徴を決定づける多大な影響を残した。
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