幼児サルの部分的、完全な隔離
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 09:27 UTC 版)
「ハリー・フレデリック・ハーロー」の記事における「幼児サルの部分的、完全な隔離」の解説
1959年から、ハーローと彼の学生らは、部分的および全体的社会的隔離の影響に関する観察結果を発表し始めた。部分的な隔離には、サルをむきだしの針金ケージで飼育し、他のサルを見たり嗅いだり聞いたりすることができたが、しかし物理的な接触の機会はなかった。完全な社会的隔離には、他のサルとのあらゆる接触を妨げる隔離室の中でサルを飼育することが含まれた。 ハーローその他は、部分的な隔離が、空白の凝視、ケージ内でのステレオタイプの反復的な旋回、自傷行為のようなさまざまな異常をもたらした、と報告した。その後、これらのサルはさまざまな設定において観察された。一部のサルは研究のために、15年間一匹ずつ隔離されていた。 完全隔離実験では、赤子サルらは放置されていたものであった、3、6、12、または24日間、複数月間の「完全な社会的剥奪」("total social deprivation")。これら実験はひどく心理学的に乱されたサルらを生んだ。ハーローは書いた―― 隔離中に死亡しているサルはない。しかしながら、彼らは最初に完全な社会的孤立から取り除かれたとき、通例、感情的ショックの状態におちいり、その特徴は...自閉的な自己クラッチングとロッキング。3ヶ月間隔離されたサル6匹のうち1匹は、解放後食べることを拒否し、5日後に死亡した。剖検報告は、死亡を感情的な食欲不振のせいに帰した....6か月間の完全な社会的隔離の影響はたいへん壊滅的で衰弱させるために、当初は12か月間の隔離はそれ以上の減少をもたらさないであろうと想定していたほどである。この仮定は誤りであることが証明された。12か月間の隔離により、これら動物は社会的にほぼ全滅した...(No monkey has died during isolation.When initially removed from total social isolation, however, they usually go into a state of emotional shock, characterized by ... autistic self-clutching and rocking.One of six monkeys isolated for 3 months refused to eat after release and died 5 days later. The autopsy report attributed death to emotional anorexia....The effects of 6 months of total social isolation were so devastating and debilitating that we had assumed initially that 12 months of isolation would not produce any additional decrement.This assumption proved to be false; 12 months of isolation almost obliterated the animals socially ...) ハーローは、6か月間隔離されていたサルらを、正常に飼育されていたサルらと一緒に配置することによって再統合しようとした。リハビリテーションの試みは限られた成功しか収めなかった。ハーローは、人生の最初の6か月間の完全な社会的隔離は、「社会的行動の事実上すべての側面における深刻な赤字」("severe deficits in virtually every aspect of social behavior")を生み出した、と書いた。正常に飼育された同年齢のサルらに曝露された隔離サルら」は、単純な社会的反応の限られた回復のみをとげた」("achieved only limited recovery of simple social responses")。隔離して飼育されたそういう一部のサル母親らは、「複数か月間乳児接触を受け入れることを余儀なくされたとき、許容可能な母親的行動を示したが、しかしそれ以上の回復を示さなかった」("acceptable maternal behavior when forced to accept infant contact over a period of months, but showed no further recovery")。代理母らに与えられた隔離サルらは、「自分らの間で粗雑な相互作用パターン」("crude interactive patterns among themselves")を発達させた。これとは反対に、6か月の隔離サルらは、もっと若い、3か月齢のサルらに曝露されたとき、「試験されたすべての状況で本質的に完全な社会的回復」("essentially complete social recovery for all situations tested")をとげた。その発見内容は他の研究者らによって確認された。彼らは同等な治療法を受けたサルらと母親が育てた乳児サルらとの間に違いを見つけなかったが、しかし人工的な代理らはほとんど効果がないことを見つけた。 ハーローの、発達における接触研究の先駆的な研究以来、ラットでの最近の研究は乳児期の接触は、ストレスに関与するステロイド・ホルモンであるコルチコステロイドの減少と、脳の多くの領域でのグルココルチコイド受容体の増加をもたらす、という証拠を発見している。シャンバーグ(Schanberg)とフィールド(Field)は、ラットにおける母子相互作用の短期間の中断でさえ、発達しつつある子犬のいくつかの生化学的過程に著しく影響するということを発見した――細胞の成長と分化の敏感な指標オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)活性における低下、成長ホルモン放出の減少(心臓と肝臓を含む、すべての体の器官において、そして大脳、小脳および脳幹を含む脳じゅうで)、コルチコステロン分泌の増加、そして投与された成長ホルモンに対する抑制された組織ODCの応答性。さらに、接触を奪われた動物らは免疫系を弱めていることがわかった。調査者らは、乳児のサルが生後6か月の間に受ける接触の量とグルーミングとの間の直接的な正の関係と、1歳少し超で抗体チャレンジ(破傷風)に反応して抗体力価(IgGとIgM)を生む能力を測定した。一部研究者は、「触覚の免疫学」のメカニズムを特定しようとしながら、覚醒および関連するCNS-ホルモン活動の調節を指摘している。接触の剥奪は、ストレスによって誘発される下垂体-副腎系の活性化を引き起こすかもしれず、こんどはこれが、増加された血漿コルチゾールと副腎皮質刺激ホルモンにつながる。同様に、研究者らは、皮膚の定期的「自然な」("natural")刺激は、これら下垂体-副腎反応をポジティブな健康的な方法で緩和するかもしれないと示唆している。
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