希薄な酸素大気
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 01:48 UTC 版)
「ガニメデ (衛星)」の記事における「希薄な酸素大気」の解説
1972年、インドネシアのジャワ島とインドの Kavalur で働くインドとイギリスとアメリカ合衆国の天文学者のチームが、ガニメデと木星が恒星の手前を通過する掩蔽の最中に、ガニメデに薄い大気を検出したと主張した。彼らは表面気圧を 0.1 Pa と推定した。しかし1979年のボイジャー1号が木星をフライバイする際にケンタウルス座κ星を用いて行った掩蔽観測では異なる結果が得られた。掩蔽観測は波長が 200 nm よりも短い遠紫外線を用いて行われ、これは1972年に行われた可視光線での観測よりも気体の存在に対して遥かに感度の高い波長での観測であった。ボイジャーのデータでは、大気は存在しないことが明らかにされた。表面での粒子の数密度の上限値は 1.5×109 cm3 であることが見出され、これは気圧に直すと 2.5 µPa 未満であることに相当する。この値は1972年の推定値より5桁程度も小さい値である。 ボイジャーのデータでは否定的な結果が出ていたものの、1995年にハッブル宇宙望遠鏡(HST)を用いて行われた観測では、エウロパで発見されているものに非常に似た、希薄な酸素大気 (外気圏) の兆候が得られている。HST では 130.4 nm と 135.6 nm の波長の遠紫外線で、酸素原子による大気発光が観測された。このような大気発光は酸素分子が電子の衝突によって解離する際に発生し、酸素分子を主成分とする一定量の中性大気が存在する証拠と考えられる。表面での大気分子の数密度は (1.2-7)×108 cm-3 の範囲であると考えられ、これは圧力に直すと 0.2〜1.2 µPa に相当する。この値はボイジャーによって1981年に得られていた大気圧力の上限値と矛盾しない。この酸素は生命が存在する証拠ではない。ガニメデの表面にある氷に放射が当たることによって水素と酸素に解離し、水素は原子量が小さいため急速に失われてしまう。ガニメデで観測された大気発光は、エウロパで見られるような空間的に一様なものではなかった。HST では北半球と南半球にある2つの明るい斑点が観測され、緯度 ±50° の付近であった。これはガニメデの磁気圏の磁力線が宇宙空間に開いているか閉じているかの境界線がある緯度と一致する。明るい斑点はおそらくは極のオーロラであり、開いた磁力線に沿ってプラズマが降下したことによって引き起こされたと考えられる。 酸素大気の存在を示す別の証拠は、ガニメデ表面の氷に捕獲されたガスのスペクトルを検出することで得られている。1996年にはオゾン (O3) の特徴を示すスペクトルが検出されている。1997年には酸素分子の二量体もしくは二原子分子の吸収の特徴が分光データの解析から明らかにされている。このような吸収は、酸素が高密度な状態にいる場合にのみ見られる特徴である。最も有力な候補は、氷の中に捕獲された酸素分子である。二量体の吸収バンドの深さは緯度と経度に依存しており、一方で表面のアルベドにはあまり依存していない。ガニメデの緯度が高くなるにつれて吸収の深さは小さくなる傾向があり、これはオゾンが示すものとは反対の傾向である。実験室での研究では、酸素分子は固まったり泡になったりはしないものの、ガニメデの比較的温かい表面温度 (100 K、-173.15℃) では氷に溶解することが示されている。 エウロパで大気中のナトリウムが発見されて以降、ガニメデでもナトリウムの探査が行われたが、1997年の観測では何も発見されなかった。ガニメデの周囲でのナトリウムの存在量はエウロパよりも少なくとも13倍低い。これは表面のナトリウムの存在量が比較的欠乏しているか、ガニメデの磁気圏が高エネルギー粒子を防いでいるためだろうと考えられている。ガニメデの大気のその他の微量な構成要素は水素原子である。水素原子はガニメデの表面から最大 3,000 km 離れた場所でも観測されている。表面での水素原子の数密度は 1.5×104 cm-3 である。
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