あざとい
「あざとい」とは、主に女性の「自分を最大限に可愛く見せる方法を熟知しているかのような自己演出的な可愛さ・可憐さ」といった意味で用いられる表現である。最近では、いい意味で用いられる場合も多い。
「あざとい」の元々の意味
「あざとい」の元々の意味は、「小狡い・小利口な・抜け目がない・やり方がズルい・悪どさや図々しさを感じる」というような、ネガティブな意味であった。「あざとい」は漢字では「小聡明い」と書く。「聡明(そうめい)」は「頭がいい」ということ。「小」は「小利口」「小賢しい」のように罵るニュアンスで用いられる表現である。つまり、「小聡明い(あざと-い)」は、いくらか小馬鹿にしたニュアンスで「頭がいい」と評価する表現である。
あざとい商売の例
たとえば、「握手券をつけて同一タイトルのCDを何枚も購入させる売り方」や「ヒット曲のリミックスバージョンを何パターンも用意して新作アルバムとしてリリースする売り方」などは、「あざとい商売」といえるだろう。「悪どさの一歩手前」のような商売である。少し前の「あざとい」の意味
近年「あざとい」は、「いたずらに情欲や胸のときめきを掻き立てるような 、しかもそれが計算ずくで行われていると思われる、女子の振る舞い」を指すスラング(俗な用法)として用いられるようになった。かんたんに言えば「男ウケを狙った私カワイイでしょ?と言わんばかりの雰囲気」を指す表現として「あざとい」という言葉が用いられるようになったのである。
当初この「あざとい」には、演技的な立ち回りに対するイラ立ちや、「それでもカワイイから許せてしまう」という複雑な心境なども、ニュアンスとして含んでいる場合が多かった。
あざといしぐさの例
たとえば、両手をごく軽く握り、後頭部へ、頭上から少し覗くくらいの位置に置いて動物の耳を模し、さらに片目をつむってウインクしつつ口元は舌を出して「テヘ☆」とでも言うかのような表情を作り、ついでに片膝を内側に向けてしならせるようなポーズは、きっと間違いなく「あざといポーズ」である。これが「あざとく」感じるのは、おそらく「いかにも感」が強く印象に残るためである。ポーズ自体カワイイのは間違いないが、それが「カワイイポーズ」として練り上げられたわざとらしい演出であることもまた自明であり、当人が「私はカワイイ」と考えてそのように振る舞っていることがまざまざと感じられるからである。
こんな「テヘ☆」みたいなポーズを意図せずに天然でする者はまずいない。もし、いたとしたら、それはそれであざとい。
猫は狙っていなくてもあざとい
「あざとさ」は、基本的には「計算された演出がある」というニュアンスを含む表現といえる。とはいえ、当人がそれを狙ったかどうかは関係なく、もっぱら見る側の主観によって「あざとい」と判断されるような場合もある。たとえば家猫は、おなかを天井に向けてバンザイのポーズで寝ていることがある(猫の開き)。舌をしまい忘れてアッカンベーしていることもある。ひどい悪戯をした後で悪びれる様子もなく澄ました上目づかいで見つめてくることもある。
猫自身が「カワイイ自分」を意識しているはずはない。おそらく。いや仮に意識していたとしても関係ない。要は、猫の「もはや猫好きを悩殺しようとしているようにしか思えない」姿が、猫好きにとって「あざとく」感じられるのである。
黄色はあざとい
アニメやマンガなどの分野におけるキャラクターデザインでは、黄色(イエロー)をイメージカラーとするキャラクターが、計算ずくの「あざとさ」を振りまくキャラクターとして特徴的に描かれている場合がある。典型的には2010年代半ばの「プリキュア」や「笑点」など。こうしたステレオタイプを指して「黄色はあざとい」あるいは「あざとイエロー」のようなと表現が用いられたこともある。最近の「あざとい」の意味
「あざとい」という言葉の意味・ニュアンスは、元々の「抜け目のない」という意味にせよ、「可愛さを狙った演出的な振る舞い」という意味にせよ、どちらかといえばネガティブなニュアンスを主体とする表現だった。多少の反感が含まれていたともいえる。ところが最近では、反感のニュアンスは薄れ、「自分を可愛く演出できる」「女の子らしい可愛さをアピールして男心をくすぐり気を惹くのが上手」といったポジティブな意味が主体となりつつある。
今では「あざとさ」は、「女性が武器として活用する自己演出のテクニック」のような位置づけの、「かわいい」を実現するための要素になっているといえる。
「あざとくてかわいい」「あざとい可愛さ」を意味する「あざとかわいい」という表現も登場した。
2020年9月に日向坂46が新曲「アザトカワイイ」を発表し、翌10月にテレビ朝日系列ドラマ「あざとくて何が悪いの?」が放送開始された事も、このポジティブな意味のスラングとしての「あざとい」が広く一般に浸透した一因となったと考えられる。
「あざとかわいい」の意味
「あざとかわいい」は、「あざとさの感じられる可愛さ」のことであり、言い換えれば「男心をくすぐる(男の気を惹く)ツボを心得ているような可愛さ」を意味する言葉である。ちなみに、日向坂46の曲「アザトカワイイ」の歌詞には、ある女子の可憐なしぐさに心を奪われた男性が「狙っているんですか?」「無意識ではなくて計算?」と心の中で問いかけているくだりがある。当人が狙った振る舞いかどうかとは無関係に、見る側の主観によって「あざとい」と判断されていることが示唆されている。
「あざとい」と「小悪魔的」の違い
「あざとい」は、男性の感情を煽る・心をときめかせるという意味で、「小悪魔的」という表現に相通じる部分がある。「小悪魔的」は、女性の蠱惑的・誘惑的な魅力を表現する言い方として用いられることが多い。当人が意識しているかどうかは特に関係なく、無意識的に小悪魔的な振る舞いをする者(天然小悪魔系女子)もいる。
「あざとい」も、主に女性の魅力を表現する語として用いられるが、基本的には「ある種の心情をくすぐられる」さまを幅広く指す語である。成人女性に限らず、少女、小動物、男性、非生物、演出その他の抽象概念など、幅広い物事について表現としても使える。
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