合意形成の困難さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/12 15:37 UTC 版)
離婚後共同親権では、離婚後も父母が共同で親権を行うため、片方の親が勝手に親権を行使することは許されず、必ず両親の合意で親権が行使されることとなる。このため、「子をどこに住まわせるか」「どの学校に通わせるか」「どのようなアルバイトを許可するか」「お小遣いをどうするか」「ケガや病気のとき、どのような医療行為(手術など)を受けさせるか」「どのような服装髪型を許容するか」「未成年結婚に同意するか」などについて、その都度、離婚した両親が話し合い、合意して決めなければならない。しかし、両親の意見がまとまるとは限らず、むしろ離婚による感情的な対立のため、お互いに自分の意見を譲らず合意に達しない可能性が高い。さらに、離婚時の対立のため、会うこと、話すことさえ困難なケースも考えられる。このような場合、いつまでも親権が行使できないということになる。例えば、進学先を決めるケースで、父がA校を、母がB校を主張し、互いに譲らなければ、結局どちらの学校にも進学できなくなる。ただし現実には、欧米では、このようなことは起きていない。むしろ子どもを奪い合う必要が無くなるので、子どもの将来を考えた協力関係が進む。それにより、子どもの予後が改善される。これが、欧米諸国で共同親権が採用されて維持される一番大きな理由である。唯一の対立点は、子どもとどのくらいの時間を過ごすかという時間配分である。この点を最初に決めておけば、その他の点は、現在会えていない側の親は、全てを譲っても会おうとするであろう。単独親権では、同居親も、一つ間違えると子どもと会えない側の親になってしまう不安がある。実際、子どもに会えない親の10~15%は、女性である。欧米では1980年から2000年にかけて共同親権が採用されたが、裁判所で先に法的共同親権が採用されて、遅れて身体的共同親権が採用された。 対策 この問題は、欧米諸国ではあまり深刻な問題にはなっていない。例えば、アメリカ合衆国では離婚に際して、財産分与、養育費、親権、面会交流などについての養育計画を裁判所に提出し、裁判所の承認を受けることが必要であるが、アメリカ弁護士会によれば、「離婚については、おそらく95%以上のケースで、対立的な訴訟ではなく、当事者だけの話し合いか、調停員による調停か、弁護士の助けを受けるかで、合意が成立している」としている。ただし、これは離婚当時の育児計画や財産分与についての合意であって、その後の個々の育児の場面での合意ではない。アメリカでは育児計画は裁判所の許可を受ける必要がある。裁判所が養育計画を決めるケースは非常に少ない。多くの研究は、裁判所が決めるのは、全体のケースのわずか2から10%ほどであると述べている。 スタンフォード大学のMaccoby教授は、次のように述べている。「子どもがあって別れる夫婦のうち、51%の者は完全に合意し、29%の者は意見の違いを第三者の関与なしに合意し、11%の者は調停により合意し、5%は評価者による評価により合意し、わずか4%ほどが裁判になる。『別れる夫婦は多くの点について争う』という一般的な見方があるが、それはおとぎ話に過ぎない。たいていの夫婦は、子どもの養育と財産の分与について、たいして争うことも無く、裁判官による解決も必要とせずに合意に至る。」 養育計画をあらかじめ作ること離婚後に子どもがスポーツや塾などの課外活動を行う場合に、誰が費用を負担するかという問題で争いになることがある。離婚する際に、課外活動の費用負担の割合をあらかじめ決めておけば、その後の争いを予防できる。 うまく行っている例に倣うことうまく機能している養育計画を参考にする。決めるべき項目も、そうした養育計画の具体例を参考にする。欧米諸国では、共同親権制度は基本的にうまく機能している。 子どもを中心とする親が自分の利益を主張し合えば意見は対立するが、子どもの真の利益を最優先にすれば、意見の対立は少なくなる。子どもの本心を聞き、他の多くの子どもの平均的な意見を参考にして、子どもの権利条約など子どもの専門家の意見を参考にする。 交渉の技術を習得する意見の異なる相手と交渉して妥協点を探す技術は、誰にとっても重要である。交渉の技術とは、相互の主張を充分に理解し合った後で、双方が満足できる妥協点を探す努力をすることである。子どもは、身近にいる親を真似するので、「交渉が困難な相手とは交渉しない」という親が身近にいれば、子どももそうなる可能性が高い。親が離婚した子どもは、他者と親密な関係を樹立することが困難なことがあり、自分自身も離婚に終わることがある。「交渉する技術を持つこと」は、親としての重要な能力である。 交互親権にする協力して子どもを育てるのが望ましいが、どうしても意見が一致しない場合は、交互親権にする。子どもと一緒にいる親が、その場の問題を決定する。その方式でうまく決まらない件については、1年ごとに交代するような交互親権とする。子どもは、親の教育方針が異なっていても、比較的容易に順応できる。 コミュニケーションを充分に行うこと争いのうち、説明不足が原因であるものが多い。相手の事情を充分に把握し、自分の事情をきちんと伝えておかなければならない。コミュニケーションにおいては、ビジネスライクに要件を伝えることが勧められる。最も重要視しなければならないのは、子どもの事情であり、子どもの本心である。合意を形成するにあたって子どもの意見を聞くと、子どもの精神的予後が改善される。ただし、最終決定は、親が行う。
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