創作物の影響と科学的調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 22:35 UTC 版)
「ゲーマーゲート論争」の記事における「創作物の影響と科学的調査」の解説
詳細は「性的対象化」を参照 ジーン・マックウェラーの『レイプ《強姦》―異常社会の研究』は、1960年代の犯罪学の成果から、性犯罪の実態を広い読者層に知らせた。江口聡によれば、ジーン・マックウェラーの主張は「レイプは性欲が原因ではない」とは主張しておらず、性欲はもちろんかかわっているが他にも様々な原因がある、ぐらいである。 一方、「レイプの原因は性欲ではなく、男性グループの女性グループに対する支配である」という主張を一般的にし、表現規制論のベースとなったスーザン・ブラウンミラーの『レイプ・踏みにじられた意思』では、論拠とされた多くの事例は、出版年に近い年代のデータではなく、戦時レイプや古代〜近代の歴史的事象からとられていた。スーザン・ブラウンミラーの主張は、1990年代に犯罪学・動物行動学・進化心理学から激しい批判を受け、アカデミックな領域ではすでに人気がない。 動物行動学者のランディ・ソーンヒル(Randy Thornhill)とクレイグ・パーマー(Craig T. Palmer)の共著『人はなぜレイプするのか―進化生物学が解き明かす』(ISBN 4862280064)/原題『A Natural History of Rape』(ISBN 0262700832) 実験心理学者・認知心理学者のスティーブン・ピンカー(Steven Pinker)『人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) 』(ISBN 4140910127) これらの本では、フェミニストやその他の従来の社会科学におけるレイプの動機・原因理論に対する反論が行われ、 『人はなぜレイプするのか』では反論が本の半分を占めた。 江口聡は「レイプの動機は性欲ではなく支配欲」などを何の留保もなしに言ってる人々は、1990年代以降のことはなにも勉強してないと思われるため、注意が必要であるとしている。また、ポルノ消費と性暴力の増加を裏付ける科学的なデータは今のところ見つかっていないか、逆の相関があるとしている。たとえば、ポルノをよく見る人々は性暴力をふるう傾向がある、ポルノ消費が盛んな地域では性犯罪が多いなどの科学的データはなく、ポルノが手に入りやすい地域ほど性犯罪は少ないと見られている。 創作物が人格に与える影響については、様々な分野で科学的研究が行われている。1960年代には、ポルノグラフィを取り締まるため、反社会的行動を誘発して有害であることを証明しなければならぬという世論が高まった。1970年代のアメリカでは、連邦議会で「わいせつ文書及びポルノグラフィーの流通の実態はもはや放置しえない段階に至っており、連邦政府はそうした文書や書物が国民、特に青少年にとって有害な影響を及ぼしているのかどうか、またそれらをより効果的に取り締まる方法があるのかということについて、早急に検討を始めるべきである」との決議案が採択され、150万ドル(約15億円)の予算をかけるなど、数度にわたり大規模調査が行われた。この時の調査には以下がある。 『猥褻とポルノに関する諮問委員会 報告書』/原題『United States. Commission on Obscenity and Pornography. (1970-1971). Technical report of the commission on obscenity and pornography 9 vols.』 通称『クチンスキーレポート』/原文『PORNOGRAPHY, SEX CRIME,AND PUBLIC POLICY』 『ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より』(ISBN 4844327089)/原本『Grand Theft Childhood: The Surprising Truth About Violent Video Games and What Parents Can Do』(ISBN 1451631707) これらの調査では概ね以下のように結論付けられている。 ポルノグラフィと性犯罪に因果関係は認められないか、影響があったとしても問題にならない数値である。 ポルノグラフィの法的規制は実効をあげていない。 「創作物の影響を受けて犯罪を行った」のではなく「罪を逃れようとして他に責任をなすりつけようとしている」。 暴力的なメディアなど、わかりやすくマイナーなものに原因を求めるのは、社会的、行動学的、経済的、生物学、精神的健康要因の分野で明らかになっている、もっと重要な若者の暴力の原因を無視することとなる。 必要なのは大規模な性教育の実施や教育である。 読みたいものを読み、見たいものを見るという個人の自由は何人も干渉することができない。自由を制限するポルノグラフィーの法的規制は、国法であろうと州法であろうと直ちに廃止されなければならない。 その後も調査研究は続いている。2000年代ではデンマーク国法務省の調査、アメリカの暴力的なメディアに関する長期調査、オックスフォード大学の調査、イギリスに拠点を置く研究者のグループが行った長期調査研究、イギリスカーディフ大学の研究、朝日小学生新聞の「子どもとゲーム」実態調査リポート、ヨーク大学の論文などがある。いずれも前述の結論と同じようなものとなっている。
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