公職選挙法をめぐる裁判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 08:04 UTC 版)
2019年の統一地方選挙前半の選挙である兵庫県議会議員選挙にて、伊丹市選挙区で公認した原博義が、投開票日までに引き続き県内のいずれか一つの住所に3カ月以上居住していることという要件を満たしておらず、被選挙権がないことが判明したため、投じられた2,992票が無効となった。この候補は選挙後の同年4月12日、兵庫県を相手取り、没収された供託金60万円の返還を求めて神戸簡易裁判所に提訴した。兵庫県選挙管理委員会は一連の対応や判断について、「公職選挙法上の手続き通りに進めた」と述べている。選挙事務関係者が選挙期日前に特定の候補者の被選挙権がないことを公表することは「その候補者の選挙運動を著しく妨害し、選挙の自由公正を害する」という1951年11月の福岡高等裁判所の判例(同年4月に執行された長崎県議会議員選挙における北松浦郡選挙区内福島村(現・松浦市)選挙管理委員会の選挙事務にかかる当選無効確認請求事件)があり、選管は「投開票日前の周知は選挙妨害に当たる」と判断。また被選挙権がないことが判明しても選管が開票時まで無効にすることができないことについては、その場合に届け出を却下ないし取り下げさせる規定がなく、1961年7月の最高裁判所判例(1960年の福島県石城郡遠野町(現・いわき市)議会議員選挙の効力に関する訴願裁決取消請求における「公職選挙法の規定によれば、選挙長は、立候補届出および推せん届出の受理に当つては、届出の文書につき形式的な審査をしなければならないが、候補者となる者が被選挙権を有するか否か等実質的な審査をする権限を有せず、被選挙権の有無は、開票に際し、開票会、選挙会において、立会人の意見を聴いて決定すべき事柄であると解するを相当とする」との判例(「選管は届け出の形式審査をしなければならないが、被選挙権の実質審査をする権限はなく、開票の際の選挙会で立会人の意見を聞いて決定すべきである」と判断されている)があることから、総務省は、届け出時に被選挙権の要件を満たしていなくても立候補届を不受理にすることはできず、「選管は届け出を受理する以外にない」との見解を示している。なお原は後半で同県宝塚市議会議員選挙にも立候補し落選したが、こちらは居住要件が満たされており有効となった。 同年4月21日投開票の統一地方選挙後半の兵庫県加古郡播磨町議会議員選挙に党公認候補として立候補させた増木重夫にもとより居住実態がなく被選挙権がないとして、投じられた110票が無効となった。増木は住所として実際には住んでいない播磨町内のビジネスホテル所在地を届け出た。通常の立候補者の場合、住所の確認資料の一つとして住民票(の写し)を提出するが、公職選挙法に定める「届け出に必要な文書」に住民票(の写し)は含まれていないため、町選挙管理委員会の職員が住民票(の写し)の未提出を指摘に対し、増木とその立候補届け出に同行した立花は「提出義務がない。持ってきていない」として応じず、住民票(の写し)を添付しなかった。町選管は増木に居住実態がなく被選挙権を有していない可能性を認識したが、前述の判例をもとに「届け出時は形式審査のみ」として立候補を受け付けた。町選管はその後増木の実際の住所は別の場所(大阪府吹田市)にあり、被選挙権に必要な3カ月以上の町内の居住歴がないことを確認したものの、前述の判例によりこれを公表できないと判断、4月21日の開票後、選管委員長が務める選挙長や立会人らによる選挙会で増木への投票を無効と決定した。なお、増木はポスター掲示は無し、選挙公報掲載も希望せず、選挙運動を全くしなかった。 更に同年5月19日告示の東京都足立区議会議員選挙においても、もとより足立区内に居住実態がなく、被選挙権がない墨田区在住の加陽麻里布を党公認候補として立候補させた。加陽は一旦墨田区の現住所を届け出たが、「これは受理できない」と足立区選管に却下されそうになったため、住所として実際には住んでいない足立区内のカプセルホテル所在地を届け出て受理された。 加陽は他の候補者同様、ポスター掲示、選挙公報掲載、街宣や演説などの選挙運動を行ったが、足立区に住民票を置いていなかったため区選管が調査。投開票後、居住実態がなく被選挙権がないとして、加陽に投じられた5,548票は無効となった。選挙後、加陽は足立区に住んでいないことを認めた上で、住所要件の規定が違憲であるとして異議を申し立てたが、同年6月17日、区選管はこれを棄却する決定を行った。加陽はこれを不服とし、同年9月26日、東京高等裁判所に提訴したが、同年12月19日、東京高裁は加陽の請求を棄却。翌20日、加陽は最高裁判所に上告するも、翌2020年7月2日、上告棄却。加陽の請求は退けられた。当該選挙に関する争訟はなくなり、最終確定した。 立花は、兵庫県議会議員選挙と播磨町議会議員選挙の届け出については、候補者が居住の要件を満たしておらず被選挙権がないことを立候補届出時に選管が認識しており、「被選挙権がないのに受理されるのは公職選挙法の不備であり、立候補は問題提起が目的」と主張している。 また足立区議会議員選挙については「選管が形式審査を通しておきながら居住の要件を満たしていないことを知ったことにより立候補届を受理しようとしなかったことは公職選挙法違反である」と主張している。このほか同年の統一地方選挙後半において千葉県鎌ケ谷市議会議員選挙に22歳の人物を党公認候補として立候補させるべく届け出たが、同市選挙管理委員会が「被選挙権の年齢要件を満たしていない」としてこれを受理しなかった。この件について同人物は、公職選挙法が日本国憲法第14条の「法の下の平等」に反しているとして、国を相手取って東京簡易裁判所に提訴している。またこの件に関し、翌2020年の第202回国会(臨時会)において党所属の浜田聡・参議院議員が、「被選挙権と公職の候補者になる権利の違いに関する質問主意書」(質問第六号、2020年9月16日)を提出した。同年10月2日、菅義偉・内閣総理大臣より答弁書が発せられ、「形式的審査により、立候補の届出書の生年月日の記載から、明らかに選挙の期日において被選挙権を有しないことを知り得る場合は受理すべきでないものである」「被選挙権年齢に達しない者の立候補の届出は受理すべきでない」「「被選挙権と公職の候補者になる権利(立候補の届出を却下されない権利)の違い」の意味するところが必ずしも明らかではないが、被選挙権については現行法に規定されている通りである」旨の答弁があった。
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