保存修理事業と管理計画の方向性
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「角館のシダレザクラ」の記事における「保存修理事業と管理計画の方向性」の解説
紅葉と青柳家住宅正門。2016年11月6日撮影。 夏の終りのシダレザクラ。2008年9月27日撮影。 1999年(平成11年)から2か年にわたって行われた調査結果をもとに、2002年(平成14年)3月に当時の角館町は「角館のシダレザクラ保存管理計画」を策定した。この事業では次の5つの方向性、指針が示された。 シダレザクラの樹勢の維持・回復を図る。 歴史的景観との調和を図る。 保護意識の醸成を図る。 住民生活や観光との共存・調和を図る。 規制内容の明確化と周知を図る。 国の天然記念物に指定された「角館のシダレザクラ」は、その多くが個人所有の各戸に生育するため、保存管理の策定には文化財の保護という側面だけでなく、人間生活との両立を図ることが必須であるため、適切な管理、立案、実施など、関係行政部局と地域住民との合意形成や連携に際し、角館町役場が両者を取り持つ役割を担うことが、よりよい方向へ進めていく上で重要であった。 管理計画に基づいて、樹勢回復を目的とする保存修理事業が2002年度(平成14年度)から2007年度(平成19年度)にかけて行われた。前述したナンバリングされた指定樹について、土壌改良、根系の通気工事、盛土の除去、逆伏U字溝を使った根系誘導工事、保護柵の設置、隣接樹の適切な剪定、以上6項目の工法を個別に状況を判断しながら5年という長期間にわたり慎重に施工された。 施行期間中の2005年(平成17年)9月20日に角館町は、いわゆる平成の大合併で同郡の仙北郡田沢湖町、西木村と合併して仙北市となった。角館のシダレザクラ保存管理計画策定事業は、新設された仙北市教育委員会文化財課を管理部署として、従来の角館町の担当者が引き継ぐ形で事業が継続された。これらの調査や維持回復事業を通じ、被陰にともなう光の環境と土壌改良が重要であることが再確認され、特に武家屋敷内通り一帯の高木のうち、指定樹に隣接する樹木の枝の剪定や、根回り周辺の踏圧の軽減が課題として指摘されたが、先述したように、これらは個人所有の樹木や私有地が大半を占めることから、地域住民の保護意識を高め住民と行政が保護に対する方針等を共有することが求められた。同時に角館を訪れる観光客らにも保護対策の実態や内容を周知し、武家屋敷通り各所に説明板を設け、実施した保護対策事業の内容、その効果についての解説をまとめている。 もともと角館のシダレザクラは、檜木内川堤の桜並木とともに、樹木医の資格を持つ角館町役場職員の文化財担当の黒坂登の熱意と努力によって維持継続されてきた面が強いと、文化庁記念物課の本間暁は指摘している。 仙北市となった後も角館のシダレザクラを管理維持する予算は一般財源に限られているため外部委託による管理も困難で、また、武家屋敷通りという場所柄、観光に訪れる観桜客から入場料の収入を得て管理費の足しにすることも出来ないため、年間を通じてきめ細やかな管理が必要な病害虫対策や枯れ枝の除去作業などは、実質的に文化財課職員の僅かな人員に委ねられている。 1997年(平成9年)の秋田新幹線開業時には、主に首都圏方面から乗り換えなしの直通で角館駅へ行き来が可能となったこともあり、この年だけで年間約233万人の観光客が角館を訪れたという。 2008年(平成19年)に仙北市教育委員会がまとめた報告書には、長年にわたり角館のシダレザクラを管理してきた文化財課職員の黒坂登による、サクラの日常的な管理全般についての詳細な解説がある。この中で黒坂は、サクラは開花期間のほんの1週間ほどは注目されるが、そのわずかの期間に花数の多いサクラを咲かせるため、年間を通して様々な作業があり、外部からは目に見えない苦労も多いが、「桜は手を尽くすと応えてくれる」ので、見事に咲くことがやりがいであり、特に最大の励みとなるのは、開花時にサクラを眺める観光客の傍を通りかかった際に小耳に挟む「すごいね、すばらしいね」の一言であると、サクラの保全保護に対する思いを記している。 秋田県庁の観光文化スポーツ課による『秋田県観光統計』報告によれば、角館のシダレザクラのある武家屋敷通りを訪れた観光客は、コロナ禍前の2018年(平成29年)には484,690人、2017年(平成28年)には526,106人と、かつて秋田県を代表する観光地と言わた十和田湖や男鹿半島、田沢湖を大きく引き離し秋田県内ダントツの1位となっており、名実ともに角館は秋田県を代表する観光地に成長したが、その原動力となった「桜の城下町」「枝垂れ桜と武家屋敷」という一般的な角館のイメージが形成されたのは、檜木内川堤のソメイヨシノと武家屋敷通り一帯のシダレザクラが、国の名勝、国の天然記念物に指定されたことが大きな要因であった。
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