事後捜査の負担
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/19 09:05 UTC 版)
「速度違反自動取締装置」の記事における「事後捜査の負担」の解説
自動取締装置による取り締まりは受傷事故の危険性が低く、少ない人員で取り締まりが可能であるため、夜間等、勤務体制から警察官の確保が難しい状況でも取り締まりが可能である一方、その場で違反の告知ができないため、事後の追跡捜査の負担が警察内で問題になっている。 日本では、写真撮影による取り締まりの場合には違反者をすべて出頭させており、違反切符を交付した後は反則金を納付しない違反者についてのみ扱えばよい他の速度取締りとは異なり、軽微な違反の場合で、違反について争わず、反則金での処理に同意している場合にも出頭させなければならない。手続は、違反者本人が出頭して、違反画像を確認し、違反者が自白した場合はそのまま自署名又は捺印して、交通違反切符を交付という手順である。 ところが、銀塩フィルム式(36枚撮り)からデジタルカメラによる回線伝送に移行した結果、膨大な量の画像が転送される結果となり、人的事務手続を伴う交通違反切符を処理しきれない現状がある。そのため、違反者を捌ききれなくなり、取締装置が作動する速度を高く設定し、軽微な違反を見逃すと共に、違反者に分散して出頭してもらうようになった。 しかしながら、取締装置から違反画像が日夜大量に転送されるようになったため、画像の確認と呼び出しの連絡、出頭した違反者の対応に警察の事務処理能力が追い付かないこともあり、通常の違反者の処理で手一杯で、次々に転送されてくる処理能力を遥かに超えた違反画像を、効率的に処理するようになった結果、特定が難しいマスク着用者や、場合によってはサングラスをしていただけの違反者についても、捜査すら行われず画像が破棄されることもあるとされる。 通常の速度取締りであれば確定した速度違反を見逃すことは犯人隠避となるが、現在の手法では実際に撮影された違反の全てを検挙することは非現実的であり、一定の基準に基づき絞り込みを行って速度違反を見逃すことを検察庁や警察庁も認めている。例えば埼玉県では捜査対象となるのは写真撮影された速度違反車両の2~3割程度に過ぎず、実際に県内のある装置では、2016年の運用開始から2017年の第1回目の定期点検までに391件を撮影したが、そのうち追跡捜査が行われたのは119件でしかなく、272件は有効な違反にもかかわらず捜査が行われなかった。その後の2018年の第2回目の定期点検までの約1年間にも1254件を撮影したが、これも追跡捜査が行われたのは381件でしかなく、873件は捜査が行われなかった。 絞り込みの基準には様々なものがあるが、代表的なものとして、一定の範囲に先行車、後続車、併走車、対向車が写り込んでいるかどうかであり、写り込んでいれば、追跡捜査の対象としない。なお、当該装置は測定した違反車両にも写り込んだ車両にも印をつけるため、他の車両が写り込んでいても問題はない。しかし、現実的に捜査の負担が大きい自動取締装置で、撮影された全ての違反について捜査を行い、更に違反者を全員出頭させ検挙することなど到底不可能であり、その中で万が一にでも他車両の影響で誤測定の可能性があるなどとゴネられてしまうと多大な負担が掛かってしまうため、それならばさっさと罰金を払わせられるような検挙しやすい違反だけを捜査し、作動速度を多少低く設定し検挙件数を増やすことを優先していると考えられる。 仮に捜査を開始しても、運転手が名義人と違う場合や、名義人が運転した場合でも、マスクとサングラスで顔を隠して運転し、黙秘されたり、誰が運転していたかわからないと供述された場合、常習犯のように極めて悪質でもなければ、まともに捜査されず不起訴になったり、放置されそのまま時効を迎えてしまう場合も少なくなく、一方で営業記録が整備されている職業運転手は検挙率が高くなる傾向にあり、悪質な違反逃れの温床、不公正なシステムなどの批判がある。 更に、新型コロナウイルス感染症 (2019年)の影響で、追跡捜査が困難なマスク着用の運転手が増加しており、影響が出ている。可搬式装置の場合はマスク着用の運転手を現場で停止させることができるため、本来期待されていた停車場所のない狭い生活道路での取締りでは効果が発揮できないものの、ある程度は対処が可能であるが、固定式装置の場合にはマスク着用者は手間の問題から見逃されることも多い。 このように、自動取締は悪質な違反者の検挙には向いておらず、取り締まり対象が偏っているため不公平という問題がある。ネズミ捕りの速度取締りも、必ずしも平等ではない。しかしながら、あまり問題にならないのは、取締りをやっている限りにおいて誰でも捕まる可能性があるからである。ところが、自動取締装置は暴走族に対して余り効果が無く、職業運転手が集中的に捕らえられるとするならば、法の下の平等の問題も生じる。 出頭要請になかなか応じない違反者も問題になる。出頭要請の通知が届いても、無視されたり、仕事で忙しい等の理由で指定された日時に出頭しない違反者も少なくなく、何度も出頭要請を行うことになり、警察の負担となっている。再三にわたる出頭要請を幾度となく無視し続けた長期未出頭者は、撮影された画像からナンバープレート、車両の名義人や顔写真などを基に捜査が行われ、最終的に逮捕状が請求されることになるが、逮捕状の請求には多大な手間が掛かり、違反者の搬送にも多数の人員が必要である。そのような違反者に手間取っている間にも次々に新しい違反画像が送られてきてしまい、捜査が追いつかず、作動速度を引き上げたり、破棄する画像が増える結果となり、今度は逆に一般運転手の検挙件数が少なくなるという問題も発生している。 このような問題から、自動取締を速度取締りの主力とすることは捜査の負担の大きさや公平性の観点から不適切であり、自動取締に加えてパトカーや白バイ等による追尾式の取締りや、撮影機能のないスピード測定器を使用し現場で停車させる有人式の定置取締りを組み合わせることが不可欠である。 駐車違反の場合は運転手が特定できなかったり、反則金が支払われない場合に車両の名義人(車検証上の使用者)に対して請求され、支払われない場合は車検を拒否される放置違反金制度があり、軽微な速度違反についても同様に、自動車の使用者責任として違反金を徴収するなど、出頭させることなく処理できる制度を導入する必要があるとの指摘がある。 日本国外では大抵の場合郵送で手続きを行えることが多く、また、多くの国で違反当時の運転手を知らせなかった場合に自動車の所有者の違反として扱える制度が存在し、このような制度が存在する国では運転手を特定する必要が無いため、ナンバープレートを自動で読み取り、登録された住所へクレジットカード等で違反金の支払いが可能な違反通知が自動で送付されるシステムが整備されており、取締りの負担がほぼ皆無であり、このような問題は発生していない。例えばイギリスの場合、自動車の所有者に通知が送られ、28日以内に通知を返送して誰が自動車を運転していたかを警察に知らせなければならない。通知を返送すると、罰金通知が送付され、インターネットを利用したオンライン払い(クレジットカード)等での支払いが可能になる。オーストラリアのニューサウスウェールズ州の場合には法的宣言で他の運転者を指名しない限り自動車の所有者の違反として処理され、通知が届いた段階でクレジットカード等で反則金の支払いが可能になる。ニュージーランドの場合も自動車の所有者に通知が送られ、通知を受け取るとクレジットカード等での反則金の支払いが可能となり、違反について争う場合などは取締装置の写真の開示等を要求することができる。
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