争点1
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/08 19:55 UTC 版)
「セクシュアル・ハラスメント(セクハラとも略される。)」とは未だ多義的に用いられている概念である。法的責任の根拠として用いる場合には「相手方の意に反して、性的な性質の言動を行い、それに対する対応によって仕事をするうえで一定の不利益を与えたり、またはそれを繰り返すことによって就業環境を(著しく)悪化させること」などと定義付けられるが、社会学的には、「歓迎されない性的な言動または行為により、(女性に)屈辱や精神的苦痛を感じさせたり、不快な思いをさせたりすること」「性的な言動または行為によって相手方の望まない行為を要求し、これを拒んだ者に対し職業、教育の場で人事上の不利益を与えるなどの嫌がらせに及ぶこと」とも定義付けられ、日常用語例では後者を指すことがほとんどである。 一方、「レイプ」とは「強姦」とほぼ同義の概念であるが、日常用語例としては、暴行または脅迫を手段としなくとも、女性の意に反して男性が強要した性交渉一般を指すことも少なくない。また、女性の意に反した性的な行動という側面の共通性から、レイプがセクシュアル・ハラスメントの極端な場合であると位置づけることも日常用語例では誤りであるとまではいいがたい。 ところで、社会的評価は、結局、一般通常人の受容の仕方に依拠せざるを得ないから、言葉の意味も日常用語例に従って判断するのが適切である。 したがって、「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)」「レイプ」の意味も日常用語例に従って理解すべきである。 — 京都地裁平成9年3月27日判決、平成6年(ワ)第2996号、『慰謝料請求事件』、判時1634号110頁、判タ992号190頁。 そして、同人〔註・甲野乙子〕が昭和五七年一月末ないし二月初めころにホテルの一室において、性的関係を原告に強要されたことは、原告に性交渉と直接関連する暴行、脅迫をしたところが認められ、原告の威圧の下に甲野の意に反して行われたものであるから、「レイプ」というべきものである。 さらに、同年四月から昭和六三年三月まで原告の研究室に勤務していた間にも原告から強要され続けた性的関係は、原告が東南アジア研究の第一人者として有していた学会での強い発言力と日本における数少ない東南アジア研究の拠点であるセンターの実質的な人事権とを有していた教授であり、一方、甲野が東南アジア研究をセンターにて行いたいという希望を持つ学生ないし非常勤職員であり、原告の意向に逆えば、解雇、推薦妨害、学会追放等の不利益を受け、自らの研究者としての将来を閉ざすことになりかねないという構図のなかで、暴力的行為を伴いつつ、形成、維持されたものであったといわざるを得ない。それゆえ、右関係の形成、維持は「性的な言動または行為によって相手方の望まない行為を要求し、これを拒んだ者に対し職業、教育の場で人事上の不利益を与えるなどの嫌がらせに及ぶこと」というセクシュアル・ハラスメントに該当するというべきである(しかも七年にわたって継続された。)。 したがって、甲野乙子事件は真実であるというべきである。 — 京都地裁平成9年3月27日判決、平成6年(ワ)第2996号、『慰謝料請求事件』、判時1634号110頁、判タ992号190頁。 なお、強姦の被害者が意に反した性交渉をもった惨めさ、恥ずかしさ、そして自らの非を逆に責められることを恐れ、告発しないことも決して少なくないのが実情であって、自分で悩み、誰にも相談できないなかで葛藤する症例(いわゆるレイプ・トラウマ・シンドローム等)もつとに指摘されるところであるから、原告と性交渉を持った直後あるいは原告の研究室を退職した直後に甲野が原告を告発しなかったことをもって原告との性的関係がその意に反したものではなかったということはできない。 — 京都地裁平成9年3月27日判決、平成6年(ワ)第2996号、『慰謝料請求事件』、判時1634号110頁、判タ992号190頁。 してみると、本件手記の事実記載部分のうち、甲野乙子事件をもって「レイプに始まるすさまじいまでのセクハラ」「数年にわたるセクハラ」に該当するものとし、「東南アジア研究センターは勤務環境改善委員会を設置し、矢野元教授のセクシュアル・ハラスメントといわれるものについての調査を行った。」「その過程で浮かび上がってきたのが、一人の女性の、レイプに始まるすさまじいまでのセクハラの証言であった。」「こんななかでたった一人、京都弁護士会人権擁護委員会に申し立てをしたのが、研究者の道を歩み始めた甲野乙子さん(申立書の仮名)である。数年にわたるセクハラの生々しい証言は、それが事実であるかどうかやがて法律家の手によって裁かれることになるであろう。」という部分については真実であるとの証明がなされたというべきである。 また、「三件の比較的軽微なセクハラの事実」のうちの一件としてのA子事件も真実であるとの証明がなされたというべきである。 — 京都地裁平成9年3月27日判決、平成6年(ワ)第2996号、『慰謝料請求事件』、判時1634号110頁、判タ992号190頁。
※この「争点1」の解説は、「矢野事件」の解説の一部です。
「争点1」を含む「矢野事件」の記事については、「矢野事件」の概要を参照ください。
- 争点1のページへのリンク