レコードと磁気テープ
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LP盤のステレオ表記 1940年代から1970年代にかけてのステレオの進歩は、複数チャンネルの録音・再生時の同期の困難さを技術的に克服していく過程であり、同時に新たな録音媒体と録音再生装置を市場に売り込んでいく過程だった。大まかに言って、ステレオシステムはアンプとスピーカーが2つずつ必要となり、モノフォニックシステムの2倍のコストがかかる。消費者がそれだけの金額を出すに値すると考えるかどうかは明らかではなかった。 1952年、エモリー・クック(1913年 - 2002年)はバイノーラル盤を作成する装置を開発した。レコード盤上に2本の溝が刻まれていて、両方に針を落とし、同時に再生する。それぞれのピックアップは別々のアンプとスピーカーに接続されていた。クックはレコード製造装置を売る目的でこれをニューヨークのオーディオフェアに出品した。しかし、すぐにバイノーラル盤のレコードを作って欲しいという注文が入るようになり、クックはレコード盤の商業生産に乗り出した。クックが製造したレコードは、鉄道の音から嵐の音まで様々なものがあった。なお、「バイノーラル盤」とバイノーラル録音には直接の関係はない。1953年のクックのカタログには、オーディオマニア向けの25種類のステレオレコードが掲載されている。 1952年、1/4インチ磁気テープに2つの録音・再生ヘッドを使ってステレオ録音するデモンストレーションが行われた。1953年、Remington Records は、ソーア・ジョンソン (Thor Johnson) 指揮のシンシナティ交響楽団の演奏などをステレオでテープ録音し始めた。同年RCAビクターもレオポルド・ストコフスキーやニューヨークのミュージシャンの演奏を試験的にステレオ・テープ録音している。1954年2月21日・22日、RCAはシャルル・ミュンシュ指揮のボストン交響楽団の演奏によるベルリオーズの『ファウストの劫罰』をテープ録音し、それをきっかけとして同社はステレオ・テープ録音を常に行うようになった。直後、伝説の指揮者アルトゥーロ・トスカニーニ(1957年没)の最後の2回のコンサートが磁気テープにステレオで録音された。しかし、これら初期のステレオ録音がステレオのままでリリースされるのは1987年から2007年のことである。イギリスでは1954年中ごろ、デッカ・レコードがステレオでのテープ録音を始めた。1954年、ConcertapesやRCAビクターといった企業がステレオ録音済みオープンリールテープをモノラル録音の2倍の価格で発売した。オーディオマニアがこれを購入し、ついに一般家庭にステレオ音響がもたらされた。ステレオ録音は音楽業界では1957年までに広く採用されることになった。 1957年11月、世界初のステレオ盤レコードの大量生産を弱小レーベル Audio Fidelity Records が始めた。創業者で社長のシドニー・フレイはウェスタン・エレクトリックのWestrexブランドのステレオレコード製造装置を使い、大手レーベルに対抗しようとした。A面は Dukes of Dixieland、B面は鉄道の音だった。12月16日フレイはビルボード誌に広告を掲載し、その中で業界関係者が会社のレターヘッド入り用箋で申し込んできたら、試聴用レコードを無料で進呈すると書いた。 この動きは大いにメディアに取り上げられた。フレイはさらに4タイトルのステレオ盤レコードをリリースした。ステレオ蓄音機の販売店は他に選択肢がないので Audio Fidelity Records のレコードを店頭で流した。ステレオ盤レコードの普及は、1958年にステレオ用カートリッジが250ドルから29.95ドルに値下げしたことで拍車がかかった。1958年夏、Audio Fidelity の Marching Along with the Phenomenal Dukes of Dixieland, Volume 3 を筆頭としてステレオ盤レコードが一般の店頭に大量に並ぶようになった。 完全ステレオ化以前、英米ではポピュラー音楽中心にステレオ盤LPレコードの多くには同タイトルのモノラル盤が存在した(ステレオ盤の方が1ドルほど高かった)。 1960年代中期、モノラル録音を電気的にステレオ風に加工した(擬似ステレオ, 略して擬似ステ, デュオフォニック)ステレオ盤が多数製作された。 その頃のポピュラー音楽では同じ曲をモノラル録音と別に(後に、もしくは同時期に)ほぼ同じバージョンでステレオで録音し直す事もあった。例えばビートルズのレコードにはモノ録音、ステレオ録音(擬似ステに対し true stereo と言う)、擬似ステ、そしてステレオ録音を単に足したモノラル(擬似モノと言う事がある)のものが存在する。ビートルズの場合、さらに最新リマスター(リミックス)版が加わる。 1968年までにレコード会社の多くはモノラル盤の新譜発売をやめた(アメリカでのシングルのステレオ化は1970年代初頭)。
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