琉球野猪
読み方:リュウキュウイノシシ(ryuukyuuinoshishi)
リュウキュウイノシシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/28 19:47 UTC 版)
リュウキュウイノシシ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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リュウキュウイノシシ
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Sus scrofa riukiuanus Kuroda, 1924[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
Sus leucomystax riukiuanus Kuroda, 1924[2] |
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和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
リュウキュウイノシシ[3] | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Ryukyu wild boar[4] Ryukyu islands wild pig[5] |
リュウキュウイノシシ(琉球猪、学名:Sus scrofa riukiuanus)は、イノシシの南西諸島固有亜種である。
分布と名称
このうち奄美群島では、もともと奄美大島と徳之島に分布していたが、海を渡って加計呂麻島、請島、与路島に分布を拡大したと考えられている[7]。また、上記以外に、慶良間諸島[8]や宮古島[6]にも人為的に移入されている。
リュウキュウイノシシは、琉球語(琉球方言)の各方言では以下のように呼ばれる。
- シシ - 奄美方言[9]
- ヤマンシー - 沖縄北部方言(今帰仁方言)[10]
- ヤマシシ - 沖縄方言(首里方言・那覇方言)[11]
- ウムザ - 石垣島方言(八重山方言)[12]
- カマイ - 西表島方言(八重山方言)[12]
形態
体型は生息する島によって異なるが、ニホンイノシシと比較すると概して小さく、頭胴長50 - 110cm、体重は20 - 50kg程度である[8][13][14]。このような小型化は、ベルクマンの法則や島嶼化現象によるものと考えられている[12]。
分類
ニホンイノシシの亜種Sus leucomystax riukiuanusとして、1924年に黒田長礼によって記載された[2]。その後は岸田久吉や今泉吉典が独立種Sus riukiuanusとみなしたこともあるが[3]、近年はイノシシの亜種Sus scrofa riukiuanusとすることが一般的である[1][4][5][8]。
リュウキュウイノシシは、イノシシの亜種とされるが、頭蓋骨の形状の違い等から別種の原始的なイノシシと考える研究者もいる[15][16][17]。
西表島及び石垣島の個体群は、沖縄本島及び奄美群島の個体群と、遺伝的に塩基配列が異なる。また、形態上も、上顎骨にある涙骨や口蓋裂の形状が異なるとともに、乳頭の数や位置も相違する。このため、西表島及び石垣島の個体群を独立した亜種とすることが提唱されている[6][8]。
生態
食性は雑食性。シイの実やタケノコ、柑橘類、サツマイモ、サトウキビ等の農作物、昆虫、ミミズ、カタツムリ、ネズミ、ヘビ等の小動物を食物とする[14]。奄美群島や八重山列島では、近年、リュウキュウイノシシによるウミガメの卵の食害が問題になっている[18][19][20]。
ニホンイノシシの繁殖期が通常年1回であるのに対して、リュウキュウイノシシの繁殖期は年に2回(10 - 12月、4 - 5月)である[14][17]。
人間との関係
食用
鍋物(シシ汁)、焼肉、刺身、チャンプルー等として食用とされる[21][22][23]。沖縄県島尻郡八重瀬町にある旧石器時代の港川遺跡(港川人の発見で知られる)からは、食用と考えられる多数のイノシシの骨が出土している。ただし、出土した骨の大きさはニホンイノシシに近く、島嶼化の兆候も見られるものの、現生のリュウキュウイノシシとの関係は明らかになっていない[24]。奄美群島では、縄文時代からリュウキュウイノシシが食用とされてきた[25]。近年個体数が増え、道路や民家周辺にも頻繁に現れるため、 捕獲して、食肉への加工、流通も盛んとなっている。西表島でも古くから食用とされてきたが、近年、観光客や人口の増加に伴ってリュウキュウイノシシ肉の需要が増大して、狩猟圧が高まっており、生息数の減少が懸念されている[15][23]。
交雑
近年、イノシシの家畜種であるブタや、イノシシとブタの雑種であるイノブタとの交雑が進んでおり、遺伝子のかく乱が懸念されている[8][13][26]。
保全状態評価
- 過去のIUCNレッドリストでも危急種(VU)として掲載されたが[5]、2019年時点では亜種単独での評価は掲載されていない[27]。
- 徳之島のリュウキュウイノシシ
- 徳之島は、もともと山地が少ない上に農業開発が進んでおり、リュウキュウイノシシの生育に適した森林が減少している。また、リュウキュウイノシシは、狩猟や有害駆除の対象にもなっている。そのため、徳之島のリュウキュウイノシシは、環境省レッドリストで絶滅のおそれのある地域個体群(LP)に指定されている[14]。
- 絶滅のおそれのある地域個体群(環境省レッドリスト)[4]
脚注
- ^ a b Peter Grubb, “Order Artiodactyla,” In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 637-722.
- ^ a b c Kuroda, N., 1924. On new mammals from Riu Kiu Islands and the vicinity. Privately printed, Tokyo, 1-14.
- ^ a b 遠藤秀紀「日本産偶蹄類の学名・和名について」『哺乳類科学』第35巻 2号、日本哺乳類学会、1996年、203-209頁。
- ^ a b c 石井信夫「徳之島のリュウキュウイノシシ」、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』ぎょうせい、2014年、126-127頁。
- ^ a b c 小原秀雄「リュウキュウイノシシ」、小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文 編著『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』講談社、2000年、152頁。
- ^ a b c “八重山のイノシシ 独自の亜種 DNA、頭骨に違い”. 八重山毎日新聞. (2016年12月30日)
- ^ a b 高橋春成「南西諸島の海を泳ぐイノシシ」『総合研究所所報』第23号、2015年、1-12頁。
- ^ a b c d e f 伊澤雅子 著「リュウキュウイノシシ」、沖縄県文化環境部自然保護課 編『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版 動物編 3.3 哺乳類』(レポート)沖縄県文化環境部自然保護課、2017年3月、104-105頁 。
- ^ 奄美方言音声データベース 沖縄言語研究センター
- ^ 今帰仁方言データベース 沖縄言語研究センター
- ^ 首里那覇方言音声データベース 沖縄言語研究センター
- ^ a b c “沖縄のイノシシが小さいワケ知ってる?【島ネタCHOSA班】”. 琉球新報 週刊レキオ. (2019年1月1日)
- ^ a b “沖縄諸島の外来種”. 環境省. 2020年1月23日閲覧。
- ^ a b c d “徳之島のリュウキュウイノシシ”. いきものログ. 環境省. 2020年1月23日閲覧。
- ^ a b 石垣長健、新里孝和、新本光孝「西表島におけるイノシシ猟の伝統技術と実状」『琉球大学農学部学術報告』第53号、琉球大学農学部、2006年12月、11-18頁。
- ^ 細井 佳久. “自然探訪2019年2月 西表島に暮らすリュウキュウイノシシ”. 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所. 2020年1月26日閲覧。
- ^ a b “リュウキュウイノシシ”. 生物多様性ってなんだろう?. 財団法人奄美文化財団. 2020年1月26日閲覧。
- ^ “ウミガメ卵のイノシシ食害続く 過疎化で浜に行きやすく 鹿児島・奄美大島など”. 毎日新聞. (2019年12月27日)
- ^ “ウミガメ卵食害率 過去最大の24.8%”. 奄美新聞. (2016年3月8日)
- ^ “イノシシ産卵巣襲う 実態調査で撮影に成功”. 八重山毎日新聞. (2009年9月22日)
- ^ “奄美大島の自然”. 奄美パーク. 2020年1月26日閲覧。
- ^ “皮からうまいと言われるイノシシ 「幻の逸品」求め西表島で猟が活溌に”. 沖縄タイムス. (2020年1月19日)
- ^ a b 石垣長健、新里孝和、新本光孝、呉立潮「西表島におけるリュウキュウイノシシの餌植物と解体利用」『琉球大学農学部学術報告』第54号、琉球大学農学部、2007年12月、23-27頁。
- ^ 長谷川善和、姉崎智子、大山盛弘、松岡廣繁、知念幸子「沖縄県港川人遺跡の哺乳類とくに大型イノシシの形態変化について」『群馬県立自然史博物館研究報告』第22号、2018年3月、23-49頁。
- ^ “奄美の歴史”. 電子ミュージアム奄美. 奄美遺産活用実行委員会. 2020年1月23日閲覧。
- ^ a b “ヤンバルクイナの絶滅危惧度格上げ 沖縄の動物「レッドデータブック」12年ぶり改訂 新たに絶滅4種も”. 沖縄タイムス. (2017年5月18日)
- ^ Keuling, O. & Leus, K. 2019. Sus scrofa. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T41775A44141833. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2019-3.RLTS.T41775A44141833.en. Accessed on 28 May 2025.
関連項目
リュウキュウイノシシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 13:22 UTC 版)
詳細は「リュウキュウイノシシ」を参照 リュウキュウイノシシ(琉球猪、S. scrofa riukiuanus / 英語: Ryukyu wild boar)は、南西諸島の一部(奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島)に分布する固有亜種である。 沖縄方言ではヤマシシまたはヤマンシーと呼ばれる。奄美方言では「シシ」と呼ばれ、西表島では「カマイ」と呼ばれる。 生態的な特徴はニホンイノシシと同様であるが、生息域が亜熱帯のためか、春と秋、双方に繁殖期がある。各島でその体長・体重には差異があり、いずれもニホンイノシシと比較するとかなり小さく、体長は90〜110cm、体重20〜70kg程度である。ニホンイノシシが島嶼化(とうしょか)現象で小型化したとも考えられるが、頭骨の形状の違いなどから別種の原始的なイノシシとする見解もある。西表島及び石垣島の個体群はさらに小型で50kg程度にしかならない。また、沖縄本島及び奄美群島の個体群と遺伝的に異なっている上に頭骨の内、上顎骨にある涙骨と口蓋裂の形状、乳頭の数や位置に相違点があるとの報告があり、今後検討を経て別亜種とされる可能性が高い。 食性は雑食で、スダジイ等の木の実や小動物(昆虫類やミミズ等)を捕食し、夜間に農耕地に出没し、農作物を食害することもある。繁殖期は年に2回(10-12月、4-5月)で、年に1回から2回出産すると考えられている。奄美群島のリュウキュウイノシシは頻繁にウミガメの卵を食べるようになったことが知られている。 徳之島の個体群は、環境省レッドリストで地域個体群に、鹿児島県版レッドデータブックでも絶滅危惧I類で掲載されており、保護の重要性は高い。西表島には比較的多くの個体が生息するが、森林開発や狩猟により全体的な個体数は減少傾向にある。 絶滅のおそれのある地域個体群(環境省レッドリスト):徳之島の個体群 鹿児島県版レッドデータブック - 亜種:絶滅危惧II類、徳之島の個体群:絶滅危惧I類 沖縄県版レッドデータブック - 情報不足
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