ユリウス・ノイブロンナー
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「鳩カメラ」の記事における「ユリウス・ノイブロンナー」の解説
1903年に、ドイツのクローンベルクで薬剤師をしていたユリウス・ノイブロンナーは、半世紀前に父親がはじめた伝書鳩から処方箋を受け取る仕組みを復活させた。これはファルケンシュタインにあるサナトリウムから鳩を飛ばして処方箋を運ばせるものだった(3年後にこのサナトリウムは閉鎖されたため、この仕組みもなくってしまった)。彼は75グラムを上限として、急を要する薬の配達にはこの方法を使った。また迅速さを旨として、フランクフルトにある薬問屋にも自分の鳩を何羽か常駐させていた。ある時、彼の鳩が一羽だけ帰路で霧に迷ってしまったのに、4週間後に帰ってきたときには不思議なことにずいぶん栄養状態もよかったことがあった。ノイブロンナーはこのことをきっかけにして、鳩に自動で撮影するカメラを持たせ、その行先をたどるというアイデアを思いついた。つまり、伝書鳩とアマチュア写真という自分の二つの趣味を合体させる「ダブル・スポーツ」であった(後に判明したところでは、このときの鳩はヴィースバーデンのレストランで保護されていた)。 鉄道やそりから「ティッカ」〔イギリスのホートン社が製造した懐中時計型の小型カメラ〕で写真を撮影する実験に成功したノイブロンナーは、ハーネスとアルミの胸当てを使って鳩の胸に取り付けられる小型で軽いカメラの開発にとりかかった。木を使った30から75グラムのカメラを使い、鳩はこの積荷を運べるよう細心の注意を払って訓練が進められた。空中写真を撮るために、彼は1羽の鳩を家から100キロメートル離れた場所まで連れて行き、カメラを取り付けてから放った。鳥は積荷を下ろしてほしいので、ふつう50から100メートルの高度で家までまっすぐに飛んでいく。カメラには空気圧を利用して写真が撮影されるまでの時間差をつくる仕組みがそなわっていた。カメラという重荷を背負った鳩のために、鳩小屋は内部も入り口も広くつくられ、床板は弾力のある素材が使われた。 ノイブロンナーによれば、彼が考えたカメラのモデルは1ダースもあった。1907年には、特許の申請にこぎつけた。彼の考案した「上空から景観を撮影するための方法と手段」は、はじめは不可能であるという理由でドイツ特許庁から拒絶されたが、彼が提出した写真が本物と認められたことで、1908年12月に特許が認定された(拒絶されたのは伝書鳩の運搬能力について誤解があったためだった)。1909年にドレスデンで行われた国際写真展と1909年のフランクフルトで行われた国際航空展にノイブロンナーが出展したことで、彼の写真技術は非常に有名になった。ドレスデンに集まった観衆は、鳩が戻ってくるところをその目で見ることができたほか、この時に鳩が持ち帰った写真はポストカードにされた。ノイブロンナーの写真はこの時だけでなく1910年と1911年のパリ航空ショーなどでも賞を受賞した。 シュロスホテル・クロンベルク(所有者であるフリードリヒ皇后の名にちなんでシュロス・フリードリスホーフと呼ばれた)の写真は、偶然にも撮影者の翼の先が入り込んでいたために有名になった。1929年に毎週製作されたドイツのニュース映画の一部には、この写真が著作権を無視して使われていた。 1909年にノイブロンナーが出版した短い本には、彼が考案した5種類のカメラのモデルが解説されている。 1920年のパンフレットで、ノイブロンナーは自分のパノラマカメラがわずかに40グラム程度しかなく、12コマの撮影が可能だと説明している。2007年には、ある研究者がこの撮影媒体のレンズ、シャッター、スピードについてはほとんど情報がないと発言したことがあるが、ノイブロンナーは自分のパノラマカメラのフィルムはアドックスのものを使っていたとされている。このカメラは、彼の推計によるとフィルム感度はISO 25/15゜から ISO 40/17゜、シャッタースピードは1/60秒から1/100秒であった。フィルムは30ミリメートル×60ミリメートルの定型にカットされ、レンズが半円形に動作するのに逆らい余計な歪みができないように、このフィルムを凹形に曲げてカメラに入れられた。 1920年に、ノイブロンナーはこれまでの自分の10年を振り返り、それなりに苦労し、また出費もかさんだ鳩カメラという仕事に対する報いが、百科事典に載ったことと移動式の鳩小屋(後述)が戦争において有効だという副次的な技術革新への自己満足しかないことを自嘲した。 ノイブロンナーのパノラマカメラはベルリンのドイツ技術博物館とミュンヘンのドイツ博物館に展示されている。
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