ザウバー・C9登場(1987年)
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「モータースポーツにおけるメルセデス・ベンツ」の記事における「ザウバー・C9登場(1987年)」の解説
1987年シーズン、ザウバーは待望の新型車ザウバー・C9を第4戦から投入した。この年は初期トラブルにより結果にはつながらなかったものの、上位争いが可能となり、その活躍はダイムラー・ベンツを動かすことになる。 C9の開発 詳細は「ザウバー・C9」を参照 C8で戦うことが限界であることは明らかであり、チーフデザイナーのレオ・レスはC8をウンターテュルクハイムの風洞に入れて問題の洗い出しを行い、そこで得た結果から、フロントとリアのダウンフォース配分、重量配分を適正なものにすることをテーマに据えて、新型車の計画を練っていた。同時に、空力の面ではジャガーに対抗することは難しいと判断し、空力面で劣る分はメルセデス・ベンツエンジンで補うという方針を立てた。 トニー・サウスゲートがジャガー・XJR-6(1985年半ばにデビュー)で持ち込んだカーボンファイバーのモノコックはレスも導入を希望したが、予算の面から不可能だったため、C9では引き続きアルミニウムを用いつつ、ハニカム構造を導入して強度を向上させた。車両内部のレイアウトは大きく見直し、ラジエーターをコクピット脇後方に置くというC8で採用されていた配置(サイドラジエーター)は大きなドラッグを発生させていたため、C9ではラジエーターをフロントノーズ内に配置する形(フロントラジエーター)に変更した。フロントラジエーターにしたことの効果は非常に大きく、車両前部でダウンフォースが発生可能となった上、重量物のラジエーターが移設されたことで前後の重量配分も改善された。 ザウバー・C9は1986年9月には最初の車両が完成し、上記の開発を通じて、C8と比べて30%大きなダウンフォースを獲得した。しかし、ドラッグも大きいという点が問題となり、この解決には時間がかかることとなる。 M117HLエンジンは、ボッシュが新たに開発したエンジンコントロールユニット(ECU)である「MP1.7モトロニックシステム」が組み込まれ、大きな進化を遂げた。従来のECU(MP1.2モトロニック)は燃料噴射と点火だけをコントロールする比較的単純なものだったが、新型ECUは、スロットル開度や吸排気される空気の温度、エンジンの状態といった様々なデータに基づいて燃料噴射、点火、過給圧を最適に制御することが可能な、いわば「エンジンマネジメントシステム」となっていた。 エンジンの出力はC8に搭載されていた時よりもさらに向上し、決勝で700馬力、予選では800馬力以上を出力可能となった。それでいて、ヴィリ・ミュラーの尽力により、コンロッドがチタン化されるなどして、重量は従来より20㎏軽い189㎏となった。C9に搭載するにあたってエンジンは大きく改良されたため、従来型と区別して「M117HL-C9」と呼ばれることもある。 動き出すダイムラー・ベンツ ザウバー・C9は高いポテンシャルを持つ車に仕上がり、予選でも決勝でも上位を争う位置に着くことが可能になったものの、初年度はトラブルも多く、結果にはつながらなかった。しかし、上位争いを始めた「ザウバー・メルセデス」は、ダイムラー・ベンツ本社のマーケティング部門や宣伝部門から関心を寄せられるようになる。当時の同社は購買層の高齢化が悩みの種だったが、ザウバーの活躍により、モータースポーツにおける成功は効果的な宣伝になる(のではないか)という認識が醸成されていった。同年9月1日、ダイムラー・ベンツの取締役会会長はブライトシュベルトに代わって、社内変革を掲げるエツァルト・ロイターとなり、こうした動きは同社をレース復帰の方向に傾かせていくこととなる。 そんな中、9月にニュルブルクリンクで開催されたスーパーカップ(英語版)最終戦で、ザウバー・メルセデスがポルシェワークスチームの962Cを初めて破って優勝を果たした。 このレースの直後、ダイムラー・ベンツのマーケティング部門は「メルセデス・ベンツにとってグループCによるレース参戦が若い層へのアピールには最適」というレポートをロイターら新首脳陣に提出した。既に1955年のル・マンの事故の記憶は世間から薄れていたとはいえ、この提案はダイムラー・ベンツ首脳陣の間で慎重に検討された。取締役の一人であるヴェルナー・ニーファーは、グループCへの参戦がメルセデス・ベンツの技術力やイメージに利益をもたらすということを訴え、最終的にその意見は支持され、1988年1月12日、ダイムラー・ベンツの取締役会はモータースポーツへの復帰を決定した。
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