カリフォルニア州の家事調停
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
「家事調停」の記事における「カリフォルニア州の家事調停」の解説
カリフォルニア州は、アメリカの中でも最初期に調停前置主義を家事紛争に導入した州である。同州は、調停人による裁判所に対する報告制度も設けている。 アメリカでは、古くから斡旋裁判所 ( conciliation court ) に斡旋相談員 ( conciliation counselor ) が置かれていた。もっとも、1960年代のアメリカでは、裁判所の相談員の役割は夫婦の円満調整である、というのが一般的な認識であった。 1970年代に入ると、離婚を容認する社会的風潮が定着し始めた。1973年からロサンゼルス斡旋裁判所が子の監護及び訪問に関する紛争の調停を試行し、1981年にカリフォルニア州法がこれらの紛争について調停前置主義を導入した。 カリフォルニア州家族法典は、家事調停の規定を第5分冊(斡旋手続)及び第8分冊(子の監護)第2部(未成年の子の監護権)第11章(監護及び訪問に関する問題の合意支援)に置いている。 斡旋手続の概要は次のとおりであり、もともと円満調整を目指す手続であったという伝統の名残が残っている。 上級裁判所は、郡内の社会情勢や家庭関係事件の数を考慮して、庁内に家事調停裁判所及び斡旋相談員を置くことができる(同法典1802条、1810条、1814条)。斡旋相談員は、斡旋期日を開いて当事者から事情を聴き、家事調停裁判所の裁判官に対して手続に関する勧告を行うほか、裁判官から求められた事件について審問を行い、調査をし、子の監護及び訪問に関する紛争の合意支援を行うなどの権限を有する(同法典1814条b項、c項)。これらの期日及び審問は、すべて非公開とされている(同法典1818条a項)。 家事調停裁判所が管轄権を有するのは、配偶者間に紛争が生じ、又は婚姻の状態を問わず両親間に子の監護若しくは訪問に関する紛争が生じている場合であって、和解ができなければ当事者の婚姻が解消され、婚姻が無効化され又は法定別居若しくは世帯の混乱に陥るおそれがあり、これによって配偶者間若しくは両親間又はこれらの者の一方の未成年の子の福祉に影響を及ぼす可能性があるときである(同法典1830条a項)。家事調停裁判所は、当事者間又はその一方に未成年の子がいると否とを問わず、家庭内暴力を伴う紛争が生じているときにも管轄権を有する(同条b項)。 監護権又は訪問権の決定、当事者間の婚姻の解消、無効原因のある婚姻の無効化又は法定別居を求める訴訟手続を提起する前に、当事者の一方又は双方は、家事調停裁判所に管轄権発動の申立てをすることができる(同法典1831条)。当事者間の婚姻の解消、婚姻の無効化又は法定別居を求める申立てがある場合において、配偶者間又はその一方に未成年の子があり、婚姻の解消若しくは世帯の混乱又は子の監護に関する紛争の存在により子の福祉に悪影響が及ぶおそれがあり、かつ、当事者間に和解が成立する合理的な見込みがあるときは、裁判所は、申立ての係属中いつでも、事件を家事調停裁判所に移送することができる(同法典1841条)。 当事者間に和解の合意が成立したときは、これを書面にまとめることができ、当事者双方の同意があるときは、裁判所は、当事者双方に対し合意に完全に従うよう求める命令を発することができる(同法典1839条b項)。 合意支援手続の概要は、次のとおりである。 上級裁判所の各庁は、合意支援を提供するために家事調停裁判所を設置する必要はないが、調停人を利用できるようにしなければならない(同法典3160条)。裁判所は、調停人変更の要求その他の合意支援に関する一般的な問題に対応する地域規則を策定する(同法典3163条)。家事調停裁判所、保護監察局、精神保険部局の専門家職員その他の個人又は組織であって裁判所から指名を受けたものが、調停人になることができる(同法典3164条a項)。調停人は、家事調停裁判所の斡旋相談員と同様の知識・経験を要求される(同条b項)。 裁判所は、一時的又は恒久的な監護又は訪問に関する裁判の提起、申請その他の申立てがあり、監護、訪問若しくはその双方に争いがあると見えるときは、争われている事項を合意支援に付すものとされている(同法典3170条a1項。これがカリフォルニア州の調停前置主義 ( mandatory mediation ) である。)。また、一時的又は恒久的な監護又は訪問に関する裁判を新たに得又は変更することを提起し、申請しその他申し立てる前であっても、事件の当事者は、裁判所に監護又は訪問に関する問題を合意支援に付すよう求めることができ、裁判所はこの問題を合意支援に付すことができる(同条a2項。ただし、2018年1月1日から2019年末日までの時限立法。)。なお、家庭内暴力事件は、特別の手続が適用される(同条b項)。継父母又は祖父母の訪問に関する裁判の提起又は申請があったときも、裁判所は、その問題を合意支援に付すものとされている(同法典3171条a項)。 監護又は訪問に関する争点を解決するために合意支援が必要となったときは、合意支援により当事者が成立させる合意は、養育計画、監護若しくは訪問に関する問題又はこれらの複合する問題を解決するためのものに限定され(同法典3178条a項)、継父母又は祖父母が訪問権を求めるときは、合意は訪問に関する問題を解決するためのものに限定される(同条b項)。裁判所は、いつでもその裁量により、合意支援により成立した監護又は訪問に関する合意を同法典第8分冊第2部第1章、第2章、第4章及び第5章に従って修正することができる(同法典3179条)。 リバーサイド郡、サンディエゴ郡など では、調停人は、地域の裁判所規則に従って、裁判所に対し、子の監護又は訪問に関する勧告を提出することができるが、この勧告は、審問に先立ち、先に当事者及びその弁護士(未成年の子の代理人を含む。)に提供されるものとされている(同法典3183条a項)。この勧告制度と同様に、調停機関から裁判機関に対して情報を提供させる制度は、韓国の家事調停にも取り入れられている。 カリフォルニア州の調停前置主義を肯定的に評価する見解はもちろんあるが、アメリカでは、合意支援には任意性及び秘密保持が必要不可欠と考える見解が有力である。特に、秘密保持が担保されないのは合意支援の本質的価値を損なうものである、という批判が強い。 オレンジ郡、ロサンゼルス郡など の上級裁判所は、カリフォルニア州家族法典3188条に基づく秘密合意支援計画を定め、調停人の裁判所に対する勧告や意見の提出を禁止する制度を実施している。
※この「カリフォルニア州の家事調停」の解説は、「家事調停」の解説の一部です。
「カリフォルニア州の家事調停」を含む「家事調停」の記事については、「家事調停」の概要を参照ください。
- カリフォルニア州の家事調停のページへのリンク