調停前置主義(ちょうていぜんちしゅぎ)
調停前置主義 (総論)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
前述のとおり、家事紛争は調停の効用を発揮しやすい事件類型である。また、ADRが奏功すれば裁判所の事件負担は軽減されるので、司法資源の活用効率が高まる。そのために、家事紛争について裁判よりも調停を利用するよう当事者を誘導する仕組み(調停前置主義 mandatory mediation, compulsory mediation)を採る法域が多い。他方で、当事者に合意支援の利用を強制すると、合意支援の効用の基盤とされている当事者の自己決定が損なわれる可能性がある。また、合意支援であろうと斡旋であろうと利用を強制すると、手続への参加や協議の充実に対する意欲を欠く当事者が現れる可能性が高まり、手続が相手当事者の主張や立証上の弱みを探る場として濫用されたり、不合理な要求を相手当事者に押し付ける場として悪用されたりすることが懸念されるし、単なる時間及び費用の無駄遣いに終わることも懸念される。当事者に調停の利用を強制すると、合意の成立率や当事者の納得、成立した合意の任意履行率に悪影響を与えると述べる論者もいる。 市民の裁判を受ける権利を保障している国家では、調停前置主義は裁判を受ける権利と緊張関係に立つ。調停前置主義を定める法令が違憲ないし違法であると主張する訴訟が多数の法域で提起されている。 調停前置主義は、日本(家事事件手続法257条1項、2項)、韓国(家事訴訟法50条1項)、ドイツ(家事・非訟事件手続法156条1項)、フランス、中華人民共和国(中華人民共和国婚姻法32条)、中華民国(家事事件法23条1項)、バングラデシュ(1985年家庭裁判所設置令10条3項)などで採用されている。調停前置主義は、当事者に家事調停を積極的に利用してもらうための仕掛けである。 しかしながら、調停前置主義を採ると、手続への参加や協議の充実に対する意欲を欠く当事者が現れる可能性が高まる。 これに対して、オーストリアは徹底して家事調停から「強制」の要素を排除している。 家事調停の利用を奨励するときに問題になるのが、調停の継続中に消滅時効、除斥期間、出訴期間のような権利行使に関する制限期間が経過してしまうことへの対処である。欧州連合メディエーション指令8条1項は、構成国に対し、調停手続の継続中に時効期間が経過したことによって裁判手続又は仲裁手続を開始することを妨げられないよう対処することを指示している。日本(家事事件手続法272条3項)及び韓国(家事訴訟法49条、民事調停法36条1項)も、家事調停を経た紛争について訴えが提起されたときは時効中断が遡って発生する仕組みを採っている。
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