イングランド王室による購入後
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/26 00:07 UTC 版)
「ラファエロのカルトン」の記事における「イングランド王室による購入後」の解説
『ラファエロのカルトン』はジェノヴァに保管されていたが、後にイングランド王チャールズ1世として即位するイングランド王太子チャールズが、1623年に代理人を介して購入した。このときの購入代金はわずか300ポンドであり、この価格はカルトンが芸術作品としてではなく、単にタペストリのデザイン画として取引されたことを意味する。実際のところチャールズもロンドン南西部のモルトレイク (en:Mortlake) で、『ラファエロのカルトン』を下絵として、新規にデザインされた縁飾りのタペストリを1点500ポンドで作らせてはいるが、チャールズ自身は『ラファエロのカルトン』が持つ芸術的重要性を理解していた。モルトレイクのタペストリ工房には『ラファエロのカルトン』をそのままタペストリとして織り上げるだけの大きさを持った織機がなかったため、下絵として使用するカルトンは1ヤード幅に裁断されたが、1690年代になってからハンプトンコートで元通りに修復された。チャールズ1世治世下のイングランドでは『ラファエロのカルトン』は、ホワイトホール宮殿バンケティング・ハウスに木製の箱に納められて所蔵されていた。しかしながら、清教徒革命でチャールズ1世が処刑されると、オリバー・クロムウェルがイングランド王室の私有財産ロイヤル・コレクションの所蔵品の一つとして秘密裏に売り払ってしまった。クロムウェルの死後イングランド共和制は瓦解し、王政復古でイングランド王となったチャールズ2世が、売却されたロイヤル・コレクションの所蔵品のほとんどをイングランドに取り戻している。 イングランド王ウィリアム3世は、建築家クリストファー・レンとウィリアム・タルマン (en:William Talman (architect)) に命じて、1699年に『ラファエロのカルトン』の展示を主目的とした「カルトン・ギャラリー」をハンプトンコート宮殿に造らせた。往時と違ってこの頃にはタペストリの美術品的価値は低下しはじめており、『ラファエロのカルトン』から制作された初期のタペストリはおそらくぞんざいに扱われ、手入れもされていなかったと考えられている。逆に『ラファエロのカルトン』は、ルネサンス期の巨匠ラファエロの真作であり、美術的に価値のある芸術品と見なされるようになっていった。ヨーロッパ諸国の人々の美術品に対するの好みも変遷し、劇的な表現のバロック美術は敬遠され、より高貴な表現であるとされた古典主義を手本とするルネサンス美術がもてはやされるようになった。『ラファエロのカルトン』もデザイン画としてではなく、一つの芸術品として高く評価されていったのである。 1763年にイギリス王ジョージ3世が、私邸として使用していたバッキンガム・ハウス(現在のバッキンガム宮殿)に『ラファエロのカルトン』を移すことを決定した。それまで所蔵されていたハンプトンコート宮殿では訪問客に公開されていた『ラファエロのカルトン』が王族の私邸たるバッキンガム・ハウスに移されると大衆の目に触れることがなくなるとして、ジョン・ウィルクスら議会からの反対にあったが、ジョージ3世は1763年に『ラファエロのカルトン』を予定通りバッキンガム・ハウスへと移動させた。ハンプトンコートにあったときと同様に、『ラファエロのカルトン』はバッキンガム・ハウスでも多くの芸術家、美術愛好家の研究対象となり、イギリスの美術が目指すべき極めて重要な金字塔であるとして、18世紀のイギリス芸術界でもっとも関心をもたれた美術作品の一つとなった。当時のイギリス人画家で、ロイヤル・アカデミー初代会長や主席宮廷画家を勤め、芸術論の面でも第一人者だったジョシュア・レイノルズはその著書『講話』で、『ラファエロのカルトン』について何度も言及している。レイノルズは「重要な近代絵画にはフレスコ画が多い」としているが、『ラファエロのカルトン』について「この作品をフレスコ画と呼ぶことはできないが、そのような分類を超越したもので」「ラファエロこそが画家の最高峰であり、ラファエロの油彩画よりも優れているといえるのはラファエロ自身のフレスコ画だけだ」としている。 1804年にバッキンガム・ハウスからハンプトンコート宮殿に戻された『ラファエロのカルトン』は、1858年に中庭に持ち出され、特別に組まれた足場に飾られた状態で、チャールズ・トンプソン・サーストンによって最初に写真に収められた。1865年にはイギリス女王ヴィクトリアが、王室私有コレクションのロイヤル・コレクションからヴィクトリア&アルバート博物館へ『ラファエロのカルトン』を貸与することを決め、現在でも特別にデザインされた展示室で『ラファエロのカルトン』は公開されている。また、多くの複製画が制作されケントのノールハウス (en:Knole House) などに所蔵されているほか、ハンプトンコート宮殿にも1690年代にヘンリー・クック (en:Henry Cooke (artist)) が描いた複製画が飾られている。また、17-18世紀のイギリス人画家ジェームズ・ソーンヒル (en:Sir James Thornhill) の手による複製画が1959年以来ニューヨークのコロンビア大学に、別の複製画がロンドンのロイヤル・アカデミーにそれぞれ所蔵されている。
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