イングランド王室からの後援
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/06/21 13:39 UTC 版)
「ジョン・マイケル・ライト」の記事における「イングランド王室からの後援」の解説
チャールズ2世は自身の宮廷にローマ・カトリック教徒を積極的に迎え入れ、ライトも芸術家として王室からの後援を受けることになった。ライトはチャールズ2世が戴冠して間もなくの1661年にチャールズ2世の公式肖像画を描いている。ガーター勲章のローブを身にまとって聖エドワード王冠を被り、両手には宝珠と王笏を持つチャールズ2世の肖像画で、タペストリーを背にして玉座に腰を下ろした、裁きを下すソロモンのような威厳に満ちた姿で描かれている。ライトは他にもホワイトホール宮殿の国王の寝室に天井画を描いている。その後1673年には「常任画家 (picture drawer in ordinary)」に任命され、「王室公認画家 (Pictor Regis)」のサインを使用する権利を得た。しかしながら、ライトが切望していた「国王の宮廷画家 (King's Painter)」の地位は与えられず、チャールズ2世の王政復古以来、その地位はピーター・レリーただ一人のものだった。ライトの作品が持っていた穏やかな写実主義と、注意深い観察から描かれた風景画を背景とした肖像画ではなく、イングランド内戦以前からイングランド宮廷でもてはやされていたアンソニー・ヴァン・ダイクの作風を受け継いだ、より華やかな表現で描かれたレリーの肖像画が宮廷では評価されていた。当時の官僚サミュエル・ピープスの日記にレリーの工房を訪問して楽しんだときの記録があり、「ライトもひとかどの画家に違いない。とはいえ、この二人の作品には明らかな違いがある」と記している。 主席宮廷画家でナイト爵位まで受けたレリーとは違って、ライトはチャールズ2世から重要で意義のある地位も名誉も一切受けていない。しかしながら、ライトが素晴らしい画家だと高く評価する者もいた。1669年にライトとミニチュアール作家サミュエル・クーパー (en:Samuel Cooper) はトスカーナ大公コジモ3世・デ・メディチに拝謁し、後にコジモ3世はライトの工房を訪れ、初代アルベマール公ジョージ・マンク(en:George Monck, 1st Duke of Albemarle)の肖像画制作を依頼している。おそらくライトがチャールズ2世の公式肖像画を描いてからしばらく経った1673年3月3日に、マリー・レディ・ハーミスタンなる詳細不明の人物(ローマ・カトリック教徒であることは間違いない)からコジモ3世に宛てて、ライトに準男爵の地位を与えるようチャールズ2世に取り成して欲しいという奇妙な書簡が送られている。しかしコジモ3世からチャールズ2世に対してこのような申し出はまったくなかった。 1670年代のロンドンではカトリックに対する反感が高まりつつあるなか、当時のライトは宮廷以外の仕事をすることが多かった。1676年から1677年にかけて、スタッフォードシャーのブリスフィールドで第3代準男爵ウォルター・バゴット (en:Sir Walter Bagot, 3rd Baronet) の家族の肖像画を6点描いている。1678年からはダブリンで数年間暮らしているが、おそらくこれはタイタス・オーツの偽証に端を発したカトリック陰謀事件による、ヒステリックなカトリック排斥から避難するためだった。ライトはダブリンでも「王室公認画家」の作風で、『キャサリン・タルボットとシャルロット・タルボット』(テートコレクション、1679年)を描いている。また、指揮官の礼装を身にまとった2点の等身大肖像画『ニール・オニール』(テート・コレクション、1680年ごろ)、『マンゴー・マレー』(スコットランド・ポートレート・ギャラリー、1683年ごろ)もこの時期の作品である。ニール・オニールはライト同様ローマ・カトリック教徒であり、当時ダブリンに亡命していた人物だった。ライトはアイルランドの伝統的な指揮官の礼服を着用したオニールと、その足元に珍しい日本の甲冑を描いている。この甲冑は、当時キリスト教を迫害していたことでよく知られていた日本の事物を描くことで、ローマ・カトリックへの迫害者たちに打ち勝とうとする暗喩であると考えられている。王党派だった初代アソル侯爵ジョン・マレーの5番目の息子マンゴー・マレーの肖像画は、スコットランドのタータンを身にまとう人物が最初に表現された美術品の一つである。
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